日経ヘルス

2018/5/7

「βアミロイドは、神経細胞から分泌される物質で、産生が過剰になったり、排出機能が低下したりすることで脳内にたまっていく。βアミロイドが一定量に達すると、次にタウというたんぱく質がたまり、神経細胞を破壊する。記憶を司る部位『海馬』の働きの低下や、アセチルコリンという神経伝達物質の減少を招き、新しいことを覚えられなくなる」(伊東医師)

(イラスト:谷小夏)

βアミロイドは、認知症を発症する15~20年前から脳にたまり始めることがわかってきた。その状態を「プレクリニカル認知症」と呼ぶが、はっきりとした症状は表れない。βアミロイドがたまり切ってタウがたまり始めると「軽度認知障害(MCI)」へと進行する。これは神経細胞の破壊が始まった認知症予備軍の状態で、もの忘れなどの症状が目立ってくる。

軽度認知障害から約5年で過半数の人が認知症へ進む。「認知症かどうかは、脳のMRI、脳血流検査、記憶テスト(MMSEなど)から総合的に判断される」(伊東医師)

つまり、認知症は突然発症するのではない。認知症になった後も、10~15年かけて「ゴミ」が増えていき、ゆっくりと悪化していく。もの忘れがひどくなる初期から段階を踏んで重度化すると、妄想、幻覚、人物の混乱が見られ、介護施設への入所が必要になる。

急速なもの忘れ、脳血管性の可能性あり

アルツハイマー型認知症の進行は比較的穏やか。一方、突然もの忘れがひどくなった場合は、「脳梗塞や脳出血による脳血管性認知症の疑いがある」と伊東医師は話す。

血管が詰まったり破れたりすることで神経細胞が破壊された結果、もの忘れが起こり、最終的に認知症につながる。「命にも関わるため、一刻も早く病院で診察を受けてほしい」(伊東医師)。次回は、40歳から始められる認知症予防法について紹介する。

吉田勝明さん
 横浜相原病院(神奈川県横浜市)院長。日本老年精神医学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医。同院開設以来、認知症の高齢者の治療にあたる。著書に『「こころ」の名医が教える 認知症は接し方で100%変わる!』(IDP出版)。
伊東大介さん
 慶應義塾大学医学部神経内科(東京都新宿区)医師。慶應義塾大学病院メモリークリニックで認知症の診療にあたるとともに、治療薬の開発などにも携わる。著書に『認知症 専門医が教える最新事情』(講談社+α新書)。

(ライター 海老根祐子、構成:日経ヘルス 羽田光)

[日経ヘルス2018年5月号の記事を再構成]