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カナディアンウイスキー 日本の麹を使いこなして進化

世界5大ウイスキーの一角・ジャパニーズ(17)

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NIKKEI STYLE

今回はカナディアンウイスキー編の最終回。次回はいよいよ日本ウイスキーである。その直前に、日本の麹を利用したウイスキーのカナダでの誕生について紹介できることに大きな縁を感じてしまう。なぜその製法が日本でも採用されなかったのかも含めて、まずは高峰譲吉のその後を追う。

イギリス留学から帰国して8年、譲吉が出願した特許「(麹による)酒精製造法特許」は、1887 (明治20)年、ウイスキーの国イギリスでまず成立し、翌年フランス、ベルギーでも特許を取得する。1889 (明治22)年には米国でも特許が成立した。この米国特許がきっかけとなって、譲吉はウイスキートラストから渡米を要請されることになる。

同社は、1852年オーストリアから移住し、1881年自らの蒸溜所を創業した社長ジョゼフ・グリーンハットが立ち上げたカルテルで傘下に65のウイスキー蒸溜所と80近くの工業用アルコール工場を囲い込んでいた、当時米国で最大のウイスキー会社であった。

1890(明治23)年、当時日本で東京人造肥料会社(現:日産化学)の設立に携わっていた譲吉は、家族、そして麹つくりの名人藤木幸助とともに渡米。ウイスキートラストが用意したとされる工業化試験用仮工場(試験場)であったシカゴの「ヒニックス醸造所」で、藤木とともにウイスキー製造の実験を開始する。結果は良好で、グリーンハット社長から、同社本社のあるピオリアの町でさらなる工業化試験に携わるよう要請される。イリノイ州の穀倉地帯の中心であった当時のピオリアは、全米のウイスキー原酒用アルコールの95%を供給する蒸溜の町だった。

試験場での生産実験の進行とともに、新製造法では麦芽の使用がゼロになることがわかってくると、地元の精麦業者が反発。1893(明治26)年、譲吉36歳の時、試験場が放火され、大切な麹室をはじめ全て灰じんに帰してしまう。

その後、グリーンハット社長の強力な後押しもあり試験工場を再建、再試験。譲吉の新方式は成功。シカゴヘラルド紙が報道。しかし、オオムギや麦芽に大きな権益を持つウイスキートラストの役員達が新方式導入に反対し、会社を解散していまい、本導入の道は閉ざされてしまう。1894(明治27)年40歳の譲吉はピオリアを去る。

一方、譲吉はウイスキー製造試験の過程でヒントをつかんでいたと思われる強い麹菌(強力なジアスターゼ生産菌)を発見する。これがベストセラー消化酵素タカジアスターゼの産生菌となる。

1889年、高峰譲吉が発表した論文が報道されたが、その新方式に注目していた会社があった。ハイラム・ウォーカーであった。1858年創業のカナディアンウイスキー最大のブランド、カナディアンクラブを生み出した会社である。

この会社は1911年にタカジアスターゼを使用した実験を始め、成功する。次の実験は1913年で、これも成功した。

実用化されたのは、最後の実験から26年後の1939年であったと推定している。ここに、奇跡とも言うべき技術革新が起きたのである。カナダのウイスキー業界は、麹菌による様々な影響を克服して、麹菌を使いこなしてきた。

麹菌導入の過程は、とりもなおさずカナディアンウイスキーを今日の味わいへと進化させてきた。日本の酒税法では、「ウイスキーは麦芽」「焼酎は麹」と規定されており、スコッチと同じくウイスキーには麹菌は使えない。一方、同じ麹菌を使うカナディアンウイスキーの品質研究は、焼酎業界にとっても参考になるのではないだろうか。

麹菌のもたらした影響の一例を紹介しよう。麹菌の出す液化・糖化酵素は、麦芽に比べ活性が強いため、糖化の進行が早い。もろみで栄養源が速やかに供給される訳で、糖化醪に添加する酵母の量は少なくていいという。糖化醪の糖組成も麦芽とは異なるので、酵母のつくり出す成分も変わり、カナディアンウイスキーの特徴を形成しているはずだ。

こうして麹菌の使用は多くの蒸溜所に普及し、様々な好影響をカナディアンウイスキーにもたらしたという。現在、麹菌を自家培養している蒸溜所は1カ所のみで、ほかは専門業者により培養、精製された酵素剤を購入して使用している。麹菌の種類も日本酒で使われている黄麹から、焼酎で一般的な黒麹に変っている。

ハイラム・ウォーカーの名前が出てきたが、カナディアンウイスキー最大のブランドカナディアンクラブを生んだ同社について述べよう。

創業者のハイラム・ウォーカーは、1816年、米国ボストン生まれ。20歳でデトロイトに移り、様々な職業を経験。ほどなく食料品店のチェーン展開に成功。穀物を扱っていたことから、製粉所に蒸溜所を併設することを考え、様々なウイスキーを研究。

40歳の時、築いてきたデトロイトのビジネスを全て売り払い、デトロイト川の対岸、カナダ・ウィンザーに広大な土地を購入。1858年、蒸溜所を開設。

当時、米国ではキリスト教団体などを中心に禁酒運動が盛んになっており、いくつかの州では実際に酒類の製造や販売が禁止されるようになっていた。この動きが米国全土に広がると予想し、彼はカナダでのウイスキーづくりに賭けた。

30種類以上のブランドを製造していたが、よく売れたのが「ウォーカーズ・クラブ・ウイスキー」というブランドであった。カナダ産穀物を使い、長期間熟成させた原酒を独自にブレンドしたこのウイスキーは、なめらかで飲みやすく、味のバランスも良かったため、米国の上流階級の社交場「ジェントルメンズ・クラブ」などで大変もてはやされた。

ところが米国で人気が高まると、それに危機感を感じたケンタッキーのバーボン業者が政府に圧力をかけ、外国産ウイスキーと識別できる表示を課す法律が制定された。これにより、1888年「ウォーカーズ・クラブ」は「カナディアンクラブ」に名称を変更。バーボン業者の期待に反して「カナダ」が表記されたこのウイスキーは変更前以上に売れ、世界各地に輸出されるようになった。

ハイラムは従業員の福利厚生に熱心で、ウィンザーの蒸溜所に合わせて、従業員が暮らすための街「ウォーカービル」を建設した。学校、公会堂、銀行、消防署、警察署など公共施設も自費でまかなった。現在もウォーカービルと呼ばれている地区は、高級住宅街として残っており、その中にあるウィルステッド・パークには、ハイラムの息子エドワードの邸宅も残されている。そのエドワードからハイラム・ウォーカーの運命が暗転する。

1899年ハイラムが亡くなり、3人の息子が会社を継ぐが、1915年、1916年、1919年に相次いで亡くなる。次に会社を継いだのはハイラムの孫のハリントンであった。富裕層に生まれ、なに不自由ない環境で成長した彼に、ウイスキー事業への情熱はなかった。1920年禁酒法が施行されると、米国への輸出が非合法になる。ハリントンは、禁酒法の対象である酒類の製造販売が家業であり、自社製品の密輸という犯罪に手を染めていることを深く憂慮していた。そして、1926年事業売却を決断する。

買い取ったのはハリー・ハッチ。前回書いたシーグラムのサミュエル・ブロンフマンと同じく豪腕で貪欲な業界人であった。当初交渉を開始した同業他社との話が進まず焦っていたハリントンの足元を見透かして、驚くべき安さで買収に成功した。

1929年からの世界不況の中で利益は大きく減少した。ハリーは多くの資金を投資し、生産設備の近代化を図り、経営は順調であったが1946年、まだ60代前半の若さで急死し、息子クリフォードが後を継ぐ。

クリフォードは事業の多角化を行い、本業以外で大きく伸ばしたのが、資源エネルギー部門であった。この部門で致命的な出来事が起きる。米国の石油探査会社デービス・オイルへの投資失敗による巨額の損失発生を期に起きた信用不安である。その処理のため、クリフォードは事業が順調で資産価値の高いウイスキー部門の売却を決断する。売却先はイギリスのアライドライオンズ、1987年のことであった。

以前からカナディアンクラブの輸入販売を行っていたサントリーは、翌1988年アライドライオンズと合弁会社サントリー・アライドライオンズを設立しており、その後もアライドとは親しい関係にあった。カナディアンクラブもその合弁会社が販売していた。

アライドライオンズは1994年スペインのペドロ・ドメックと合併する。新会社アライドドメックはディアジオに次いで世界第2位のスピリッツ会社となった。そして2005年、アライドドメックは、フランスのペルノー・リカールに買収され、ペルノーが取得したブランドは分別され米国のフォーチュンブランズが買収する。

世界第2位のアライドがむざむざとペルノーの軍門に下った理由としては、2000年のシーグラムの買収でアライドはペルノーに競り負けたこと、その結果、ペルノーはシーバスリーガルはじめ、強力な競争力を持つブランドを手に入れており、その後アライドは厳しい競合にさらされると想定されたこと、ペルノーがアライドの経営陣と株主に提示した買収条件が破格であったことなどが挙げられている。

ペルノーのウイスキー子会社はシーバスブラザース、フォーチュンブランズのウイスキー子会社がビームグローバルである。アライドの持つ大ブランドのうち、バランタインはシーバスブラザースが、カナディアンクラブはビームグローバルが取得した。

こうして、カナダで興り、隆盛を極めた大会社が、1社ならず2社も消滅した。酒類は伝統産業の側面が強いが、実は消費者の嗜好変化と共にイノベーションが欠かせない産業なのだ。

カナディアンクラブの物語はまだ終わっていなかった。2014年サントリーがビーム社を1兆6000億円で買収したのである。日本の技術を世界ではじめて受け入れたカナディアンクラブ、その新たなブランドオーナーは、高峰譲吉の故国日本の会社となったことに深い感懐を覚える。現在も原酒は以前と変らず、ペルノー傘下となったウィンザーのハイラム・ウォーカー蒸溜所でつくっている。

今回お薦めするのは、1983年以来の日本市場におけるウイスキーの退潮にストップを掛けた、その立役者、ハイボールという飲み方である。この飲み方が日本でウイスキーに新たな息吹を吹き込んだのだ。2007年のことであった。そして、ハイボールスタイルは世界に広がっている。

ベースは、カナディアンクラブ。3種のハイボール。

用意するのは、ガス圧が高いサントリーソーダ、レモン、そして、ライムの8分割片。

ウイスキーに氷を入れウイスキーとグラスを冷やす。氷は取り出し冷えたソーダを入れる。

まずはレモン2切れを絞る。もう1つのグラスにはライム2切れを絞る。3個目のグラスには、レモン2切れとライム1切れを絞る。

絞りは身から、そして、次に皮をぎゅっと絞って精油を入れる。

3番目にスプーン1杯のシロップを加えると、カリフォルニア・レモネードという名前のカクテルになる。

共通するのはマイルドな口当たりとなめらな喉越し。レモン、ライムのフレッシュな香りと味わいが増幅され、それぞれの特徴となる酸味と深みのある苦味が余韻の長さと複雑さをもたらす。体と心がシャキッとリフレッシュする。それこそミクサビリティーナンバーワンウイスキー、カナディアンクラブならではの持ち味である。

カナダの雄大な景色を思い浮かべながら、飲んでいただきたい。

(サントリースピリッツ社専任シニアスペシャリスト=ウイスキー 三鍋昌春)

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