宮崎牛を味わい尽くす 「モナリザ」など名店が競演
3月21日、宮崎牛の魅力を味わうイベントが名残雪が舞う東京・丸の内で開催された。宮崎牛といえば、先の第90回アカデミー賞授賞式後のパーティーのメニューにも採用され、アカデミー賞の公式シェフとも呼ばれるウルフギャング・パック氏から「やっと最高の牛肉に出合えた。オスカー像を贈りたい」と絶賛されたことで話題になったばかり。イベントでは、地元宮崎県をはじめ第一線のシェフたちが腕によりをかけて料理に仕上げた。とことん味わってきたので紹介しよう。
宮崎牛は、宮崎に生まれ育ち、肉質等級4等級以上で、県内種雄牛などを父に持つ牛。5年に一度開催される全国和牛能力共進会において、2007年、2012年、2017年と3大会連続で内閣総理大臣賞を獲得した和牛ブランドで、地域団体商標に登録済みの地域ブランドだ。
誕生したのは1986年。宮崎県は、実は全国有数の黒毛和牛の生産県。従来は、肉用牛の子牛として県外に出荷していたものを、県内で肥育し、食肉処理まで行うようになった。
各シェフの料理をチェックしていこう。
会場となった「モナリザ丸の内店」の河野透シェフは、宮崎県川南町の出身。フランスでの修業の後、恵比寿の「タイユバン・ロブション」でシェフを務めた国内フランス料理界の重鎮だ。そんな河野シェフが手掛けたのは「宮崎牛ロースのグリエ 野菜のダミエ プロバンス風」。焼いた宮崎牛の上に野菜を市松模様にして飾り付けた。野菜の美しさに目を奪われるとともに、肉と野菜の絶妙の一体感を味わった。
銀座のフレンチ「アルバス」の永田宏シェフは小林市出身。牛タンをポルト酒で煮込み、宮崎県産ヒノヒカリ米のハーブピラフと合わせた。牛タンとご飯という組み合わせは、フレンチながらも、和の味わいを感じさせる一品だった。
同じくフレンチ、有楽町「アピシウス」の森山順一シェフは都城市の出身。やはり牛タンを使い、キノコとともにパイの包み焼きに仕上げた。永田シェフが、タンシチューなどに共通する煮込んだ牛タンならではのしっとりとした食感を生かしたのに対し、森山シェフは、あえて牛タンならではの、素材そのもののしっかりとした歯応えを残した。さっくりとしたパイをかじると現れる牛タンのしっかりとした歯応えが印象に残った。
「モナリザ」と同じ丸ビルにあるイタリアン「イゾラスメラルダ」の大田勇樹シェフは同じく都城市の出身。宮崎牛という素材を多彩にイタリアンに仕上げた。
「宮崎牛のハチノスにフォアグラと地鶏レバーのファルシ」。宮崎牛のハチノスをベースにフォワグラ、そして地鶏のレバーを肉詰めにした。「宮崎県産ホホ肉のスパイスを効かせたトマトソース煮」は煮込んだ牛肉ならではの食感が魅力的だ。
そして、イタリアンと言えばピザも。「宮崎牛モモ肉の自家製生ハムピザ」は、「イゾラスメラルダ」自慢のナポリピザに宮崎牛の生ハムをあしらった。焼きたての生地に乗せられた素材感豊かな具材が魅力的だ。
「宮崎牛のラグー ボロネーゼ」は、もちもちのパスタと、トマトソース煮と同様しっかり味がしみた具材とのコンビネーションが絶妙だった。
中華からは大宮「チャフーン」の岡原正臣シェフが参加した。岡原シェフは高千穂町の出身。同店の人気メニュー「香漢方油坦々麺」を宮崎牛を使って仕上げた。すするとむせるほどのスープの辛みはオリジナル譲り。そこにあえてミンチにせず、薄切りの宮崎牛を添えた。ブランド牛ならではの豊かな脂身と辛みの共演はくせになる。中華の定番の青椒肉絲(チンジャオロースー) も提供した。
和食からは元「赤坂かさね」、日向市出身の柏田幸二郎シェフが宮崎牛のしゃぶしゃぶを提供した。この日提供された料理の中で、最も「フォトジェニック」だったのが、このしゃぶしゃぶかもしれない。肉質の高さを誇るような霜降りの薄切りを見せつけておいて、それを目の前でしゃぶしゃぶにして提供する。たれはポン酢で。とろけるような脂身が味わえた。
料理を提供したのは宮崎県出身シェフだけではない。このほかにも多くのシェフが腕を振るった。
四ツ谷の人気フレンチ「北島亭」の大石義一シェフは宮崎牛のランプ肉をタルタルコロッケに仕上げた。外見はコロッケだが、中はタルタルステーキという興味深い一品。さっくりとした衣の下からは、歯応えのしっかりしたステーキが現れる。タルタルソースとの組み合わせも絶妙だった。
季節感を感じさせてくれたのが「モナリザ」の木暮謙一シェフが手掛けた「宮崎県産牛テールと菜の花のゼリー寄せマスタード風味」。菜の花の季節感と春らしい濃い緑の色合いが皿の上で映えた。
そのほかにも、コンソメや薫製など肉の持ち味を最大限引き出した料理など、総勢20人に及ぶシェフたちが、食べきれないほどの料理を次々に提供した。
温暖で平野も多く、野菜など農産物に恵まれた宮崎県。海にも恵まれ、さらには、肉の生産でも全国有数のレベルを誇る。地元でこそ、食の豊かさは知られているものの、全国的知名度はまだまだ高いとは言えない。
アカデミー賞授賞式後のパーティーでも、宮崎牛とともに宮崎県産焼酎がカクテルベースとして採用されたが、生産量日本一にもかかわらず、焼酎と言えば、依然鹿児島県の印象が強い。県でもその魅力の発信に余念がない。
4月28日には新宿にある宮崎県アンテナショップがリニューアル予定だ。今後ますます宮崎県産食材が注目を集めることになるだろう。
(渡辺智哉)
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