
4月から新年度となりました。株式相場はトランプ政権による米国発の貿易戦争懸念や安倍晋三政権の「森友問題」など、国内外の政治リスクにより揺さぶられています。
その中で黒田東彦日銀総裁の再任は市場に安心感を与えました。現在の大規模金融緩和が継続されるからです。ただ、言い換えると、それは金融政策のみに市場が頼っているという、いびつな状況を示しています。
安倍首相の「アベノミクス」は金融緩和に寄りかかり、成長戦略は中途半端なままです。今こそ基本に立ち返り、成長戦略に全力で取り組むべきです。私はそのカギは「働き方改革」にあると考えています。
国民の生活向上には賃上げが必要
しかしながら、安倍政権が推し進める働き方改革はどちらかというと長時間労働を抑制する内容に偏っています。これだけでは国民の生活向上につながるとは思えません。国民生活の向上には働き手の賃金の向上が必要不可欠だからです。
人工知能(AI)や、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の台頭による現在の「第4次産業革命」では、賃金の上昇はますます難しくなるでしょう。
蒸気という新しい動力が支えた「第1産業革命」、電気や石油による大量生産が実現した「第2次産業革命」、そしてコンピューターにより自動化が進んだ「第3次産業革命」。これらは人間が機械を制御し、モノを社会に供給する産業メカニズムでした。
しかし、第4次産業革命ではAIが人間の代わりに機械を自動制御してモノを社会へ供給することが可能になります。また、モノだけではなく、消費者はイベントやサービスなど「コト」の供給も求める時代になりました。これもAIが活躍する分野でしょう。
これまでの産業革命は、あくまで人間が中心でしたので賃上げの余地があったのですが、AIが人間を代替する新しい産業革命では賃金が構造的に上がらない可能性があると思います。賃金が上昇しない状態で、日銀が物価上昇の目標に固執することは国民の生活を苦しめるだけであり、経済政策としてむしろ逆効果です。
そうした状況で安倍政権が賃上げを実現するために取り組むことは何か。首相は経済界の集まりでは必ず「企業は賃金を上げるべきだ」というメッセージを送ります。確かに利益が上がって内部留保が潤沢であれば、企業は重要なステークホルダーである社員の賃金を上げて報いるべきだ、というロジックは間違っていません。
企業は固定給を上げることに慎重
ただ、利益は企業の事業環境、為替水準などによって年度ごとに変動します。一方、社員の賃金は固定費です。足元の業績が好調だからといって、不確実性が高まる時勢で、固定給を上げることに慎重な姿勢を示す経営者のロジックも間違っているとはいえないでしょう。