ダイムラー「カーシェアが普及しても販売は落ちない」
自動車を取り巻く環境を大きく変える可能性を持つ「カーシェアリング」。現在、乗用車は週末の数週間しか使われないことも多いが、シェアリングが効率的に運用されれば、1台当たりの稼働時間は飛躍的に伸びる。シェアリングの普及により、最も影響を受ける場合、2030年には世界の主要8地域で車の保有台数が半減するという試算もある。だが主に2人乗りのスマートを使うカーシェアシステム「car2go(カーツーゴー)」を世界で展開するダイムラーは「カーシェアは自動車の販売にもプラスになる」と断言する。スマート部門CEOのアネット・ウィンクラー氏を小沢コージ氏が直撃した。
◇ ◇ ◇
乗り捨てカーシェアは日本に導入できない
小沢コージ(以下、小沢) 今回は市販車ではなく、シェアリングについてお聞きしたいと思っています。というのも徐々に動き出してはいますが、僕は日本が事実上のシェアリング後進国になってしまうんじゃないかという危機感を持っているんです。日本はとても規制が厳しいので。
アネット・ウィンクラー氏(以下、ウィンクラー) それでは現在、私たちが日本のカーシェアリングで実現できていないことをお話しましょう。car2goは「フリーフローティング型」と言って、許される範囲内の好きな場所でクルマをピックアップして、好きな場所で降りるというスタイルなのですが、日本では路上駐車が法律で禁止されているので実現できていません。
小沢 いわゆる「乗り捨て型」ですよね。まずはそこが決定的な違いで、路上駐車に厳しい日本で、今普及しているカーシェアは、すべて「ラウンドトリップ型」です。借りた場所に返すのが基本で、レンタカーとの違いが薄く、ウマみが少ないんです。ちなみにcar2goはどれくらい普及しているんですか。
ウィンクラー 2017年のデータですが、既に世界26都市に300万人弱のユーザーがいます。欧州、米国、中国などです。
小沢 いずれも路上駐車OKの国ですよね。それから料金がすごく安いのに驚きました。1分1ユーロ(約130円)ぐらいでメルセデス・ベンツのGLAも借りられるそうでね。
ウィンクラー クルマにもよりますが、一番安い2人乗り乗用車である「スマート」なら、1分29セント(約30円)です。スマートは小型で価格が安い割に品質も高く、保険料もガソリン代も抑えられるので、かなり安く利用できるようになっています。
小沢 先日会ったポルシェ・ジャパンの社長に聞いたら、なんと競合であるダイムラーのcar2goアプリが会社支給のスマホにデフォルトで入っていたそうで、「将来、car2goは社会インフラ化するかもしれない」と話していました。今後カーシェアリングがどのくらいまで増えていくとお考えですか。
ウィンクラー そこは、お答えできないんですよ。
カーシェアはベッドに靴で上れる国向き?
小沢 僕は今回、このシェアリング化でスマートの真価がやっと生きると思っているんです。2人乗りのクルマってなかなかファミリーカーとしては買いにくいじゃないですか。でも、借りて使うぶんには本当に便利だし、運転も楽しくて駐車もラク。先代スマートは日本では残念ながら年間3000台の販売が精いっぱいで平均1000台くらいでしたが、シェアリングで可能性が開けると思ったんです。
メルセデス広報 シェアリングについてはお答えできませんが、スマートの年間販売台数は先代は1000台レベルでしたが、2016年に新型が出たこともあり、2017年は約4倍になっています。
小沢 ただ気になるのは使い方というか汚れで、シェアカーはレンタカーと違って営業所に入れて毎回掃除しないし、一部に汚しっぱなしの人がいる可能性があります。ハンドルがベタベタしているとか。日本人はそういうことに敏感で敬遠する人も出てきそうですが、欧州ではどういう対策を取ってるんですか。
ウィンクラー その部分は確かにその通りで、今後ラグジュアリーカーも増えていきますから、さらに問題になるでしょう。ただ、今でも除菌クリーナーが付いていて掃除ができるクルマもありますし、内装が合成皮革で拭きやすいクルマも多いです。
小沢 これは極端な見方なのですが、クルマを共有するカーシェアリングって根本的にはベッドの上に靴で上れる人たちに向いた文化だったりはしませんか?
ウィンクラー いえいえ、日本人ほどではなくても私たちも汚れは気にはなりますよ。もしかしたら靴を外で脱いで車内に入るようなシステムを開発しなければいけないかもしれません(笑)。
シェアリングで自動車販売は落ちない
小沢 ここで一番、お聞きしたいことがあります。カーシェアリングが増えるとオーナーカーの売れ行きが落ちるような気がするんですが、そのあたりはどうお考えですか。
ウィンクラー むしろその逆で、クルマを保有する層は決してなくならないし、カーシェアリングが普及したぶん、上乗せになると思っています。これまで「クルマを買いたくない、シェアで十分だ」と思っていたような人が乗って気が変わってプラスされるのです。実際car2goは試乗体験でもあるので、「こんなに頻繁に使うのであれば買ったほうが安い」という人も出ています。
小沢 そんなうまい話があるんでしょうか? 実際car2goプロジェクトを開始以降、欧州での販売はどうですか?
ウィンクラー 落ちていません。それどころかスマートオーナーが自らグループを作ってシェアしているケースもあります。自分が使わない曜日に他の人がアプリで予約を入れるんです。家族内なら無料だし、仲間内で課金してシェアリングすることも可能です。
小沢 もう一つお聞きしますが、2016年に同じダイムラーグループのメルセデス・ベンツまでcar2goで使えるようになったと聞いて大丈夫か? と思ったんです。大衆の足のようなスマートと違って、憧れのメルセデスまでシェアできるようになったらみんなメルセデスを買わなくなっちゃうような。
ウィンクラー それが大成功してるんです。メルセデスを買えない人たちもカーシェアなら乗れるということもありますし、販売も増えこそすれ、減ってはいません。
小沢 それは欧州とか北米に限ってということはないですか。
ウィンクラー メルセデスは2017年後半の時点で55カ月連続で世界販売が伸びてますし、シェアリングが理由で販売が落ちることはありません。逆にみなさん憧れがあるのでシェアリングで試運転できるならどんどん使ってみようという人がほとんどです。
小沢 うーん、そんなにいいことずくめだったとは(笑)。ところで今後スマートEVをシェアリングに積極投入すると聞きました。
ウィンクラー 年間2000台ぐらいを計画しています。
小沢 シェアリングとEV化を同時に進めると。スマートはやっと自分にふさわしい生きる世界を見つけたようですね。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。