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ビオラ・ダ・ガンバでバッハ 小池香織さん

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NIKKEI STYLE

16~18世紀の擦弦楽器ビオラ・ダ・ガンバの演奏家・小池香織さんが、この古楽器の普及に取り組んでいる。2017年10月にはバッハの作品を収めたCDを出した。バッハを弾きながら楽器の魅力と可能性を語る。

東京都立川市の立川福音自由教会。外の明るい冷気がステンドグラスを通じて礼拝堂を色鮮やかに照らす。門下生の演奏発表会を開く会場でもあるこの教会を小池さんが訪れた。彼女がケースから取り出したのはチェロに似た擦弦楽器、ビオラ・ダ・ガンバ(仏語名ビオール)だ。彼女はその楽器を弓で弾き始めたが、チェロとはどこか趣が異なる。

バイオリン属とは別系統の両脚で支えて弾く楽器

よく見ると、小池さんは両脚をOの字に広げてビオラ・ダ・ガンバを挟み、両足首で支えている。チェロではその胴体からエンドピンという棒が伸びていて、それを床に刺して弾くが、この楽器にはエンドピンがないからだ。ネックも幅広く、弦が7本も張られている。チェロやバイオリンの4弦よりも本数が多い。弓の操り方も珍しいスタイルだ。「ビオラ・ダ・ガンバでは弓を下からすくい上げて弾く。弓毛にも指を絡ませて、箸を持つように弓を持つ」と説明する。かつて親しまれ普及していた楽器でも、現代の光を浴びれば、再び目が慣れるまでは異形のイメージをまとうほかないかのようだ。

「いったん滅んでしまった楽器」と小池さんは話す。ビオラ・ダ・ガンバは16世紀から18世紀半ばまで欧州で普及していた擦弦楽器だった。現代まで続くバイオリン属のバイオリン、ビオラ、チェロとは全く別系統の擦弦楽器群を構成していた。「ビオラ・ダ・ガンバ」はイタリア語で「脚のビオラ」という意味。両脚で支えて弾くのがビオラ・ダ・ガンバ属の擦弦楽器だった。王侯貴族の宮廷や上流家庭のサロン、教会を中心に盛んに使われた。当時はビオラ・ダ・ガンバ属が上流階級、バイオリン属が下層階級の楽器と見なされる傾向もあったという。

しかし1789年のフランス革命を境に状況が激変する。欧州で自由・平等の人権思想が普及し、富裕な商工業者が台頭。市民社会が成熟していくにつれて、音楽も大きなコンサートホールやオペラハウスで多くの聴衆を集めて演奏されるようになる。バイオリン属に比べ音量が小さく、大ホールでの演奏に適さないビオラ・ダ・ガンバ属の楽器群は次第に使われなくなる。名手の死去もあり、18世紀末までには完全に姿を消してしまったといわれる。

 19世紀末から古楽が再び見直されるようになったが、ビオラ・ダ・ガンバが本格的に復活するのは20世紀半ば以降、第2次世界大戦後のことだ。「古楽器を復興していこうという人たちが現れた。そこから新たに始まったようなジャンル」と小池さんは語り、「古楽の新しさ」を強調する。

ピアノ専攻の副科として履修したのがきっかけ

「復興に乗り出した人たちも古い資料や文献を調べて学び、こうだったんじゃないか、こういう弾き方をしたのではないか、とあれこれ議論し推理しながら手探りで演奏に取り組んできた。だからビオラ・ダ・ガンバにはまだ謎の部分がいっぱいある」。そんな古くも未知の可能性を秘めた楽器に小池さんはどう巡り合ったのか。

「ビオラ・ダ・ガンバに出合ったきっかけは大学に入ったとき。それまではその楽器の名前すら知らなかった」と彼女は東海大学教養学部芸術学科に入学した当時について話す。「私はもともとピアノを習っていて、ピアノで大学を受験したが、東海大はもう一つ副科として別の楽器を習えるシステムだった。弦楽器も弾いてみたかったので、ビオラ・ダ・ガンバという弦楽器の先生がいることを知り、履修した」。この楽器の名手で音楽療法の研究でも知られる志水哲雄氏(2010年まで東海大教授)に師事した。

ビオラ・ダ・ガンバによる音楽の体験としてより大きかったのは演奏会。「この楽器による合奏を初めて聴いたとき、楽器の迫力というよりも、優しく包まれるような響きに衝撃を受けた」と語る。ピアノでは実現できない響きに感動し、弦楽器への憧れが頂点に達した。2006年にはドイツ国立ブレーメン芸術大学古楽科に留学。研修生としてロンドン王立音楽院にも学び、09年にブレーメン芸術大を卒業。日欧の音楽祭に招へいされるなど国際的に活躍している。

ビオラ・ダ・ガンバはどんな響きか。今回の映像で小池さんはJ・S・バッハの「ビオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番ト長調BWV1027」の一部を無伴奏で試奏している。さらにはバッハの大作「「マタイ受難曲BWV244」の中からこの楽器が活躍する第57曲「来たれ、心地よい十字架よ」も無伴奏で試奏してくれた。演奏に耳を傾けると、バイオリンやチェロよりも柔らかく優雅な音色を感じた。

「弦は羊の腸を使ったガット弦。自然素材だから伸び縮みして調律は大変だが、柔らかい響きを生み出せる」と彼女は音色について説明する。弦が7本もあるから「和音を弾きやすく、充実したハーモニーを出せる」のも特徴として挙げる。

 日本でも1970年代から古楽ブームが起こり、ルネサンスやバロック時代の作品を作曲当時の仕様の古楽器で演奏するのも珍しくなくなった。それでも「ビオラ・ダ・ガンバって何だろうと思う人がほとんど。楽器が認識されていない」と小池さんは言う。こうした中で演奏家として何をすべきか。「自分の腕を向上させて公演で披露し続けるしかない。それと後進の指導も重視している」。今では多くの生徒も抱え、定期的に門下生の発表演奏会を開くまでになった。

いったんは完全に滅んだ古楽器の新たな可能性

2017年10月に出したCD「バッハ×ヴィオラ・ダ・ガンバ」(製造・発売元 コジマ録音)はこれまでの研さんの集大成だ。「この楽器に特別の愛着を抱いていた作曲家」と彼女が指摘する通り、バッハは「ビオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」を3作品(第1~3番)も書いた。同CDは全3作品を収めた。加えてバッハの「マタイ受難曲」の中からこの楽器が活躍する曲も入れた。宮崎賀乃子氏がチェンバロとオルガン、近野賢一氏がバス、新井道代氏と相川郁子氏がフラウト・トラヴェルソで共演している。柔和で繊細な音色が多声を紡ぎ、曲の構成美を印象付ける貴重な演奏だ。

4月4日には東京オペラシティ近江楽堂(東京・新宿)で「アルモニー・フランソワーズ パリからの調べ」というリサイタルを開く。小池さんら4人による古楽器の室内楽団「アンサンブル・レ・ビジュー」がフランソワ・クープラン(1668~1733年)やマラン・マレ(1656~1728年)といったビオラ・ダ・ガンバ全盛期のフランス絶対王制時代の作品を披露する。「ソロも通奏低音も担えるのが魅力」とも言うこの楽器の室内楽での活躍ぶりが聴けるはずだ。

ドイツにもテレマンやバッハなど、この楽器のために多くの作品を残した作曲家がいる。「探せばまだいくつも素晴らしい作品が出てくる」と話す。「同じ欧州でもイタリア、ドイツ、フランスなど言語と同様に音楽にも特徴があるし、取るべきアプローチも異なる。そこを一つずつ埋めていくには、自分の知識と技術をさらに高めなければいけない」と抱負を語る。

ビオラ・ダ・ガンバの音は確かに小さく控えめだ。しかし「インパクトのあるものに人々がひかれがちな現代社会の中で、ふと聴いて安らぎ、落ち着く響きというのは逆に大きなパワーを秘めている」と彼女は考えている。いったんは完全に滅んだ古い楽器が、現代人の琴線に触れる新鮮な音楽を奏でる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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