「モルテン」のボール、世界で弾む サッカーにも採用高速シュートぶれず、表面の小さなくぼみで空気抵抗抑える

広島市に本社を置くモルテンは競技用ボールを様々な技で進化させてきた。実力を評価され、バスケットやハンドボールに続いてサッカーの国際大会にも採用が決まった。競技者が思いのままにボールを操り、持てる技術を百パーセント発揮する――。そんな「本物の試合」を支えることが、目指す究極のゴールだ。

欧州サッカー連盟(UEFA)が主催するヨーロッパリーグ。2018~19年シーズンから全200超の試合に使われることが決まった。五輪のバスケットやハンドボールで実績がある同社にとってUEFA主催大会での採用は悲願だった。

技術改良の積み重ねが実を結んだ。「高速シュートでボールが不規則な軌道にならないことを目指した」(ボール開発グループの一橋明宏係長)。表面にディンプルと呼ぶ小さなくぼみを持たせて空気抵抗を抑え、選手が繰り出すパスやシュートの精度を高めた。

「どこを蹴っても同じ感覚」(同)になるよう、表面の五角形と六角形のパネルにそれぞれの継ぎ目がない構造も採用した。継ぎ目から水が入りにくくなり、雨天でもほぼ晴天時並みの軽さを維持できるという。

同じ広島市に本社を置くボールメーカーのミカサを源流に創業したのは1958年。翌59年にドッジボールを開発した後、様々な競技へ領域を広げた。売上高は自動車部品が最大とみられるが、バスケット、ハンドボール、バレー、サッカーの4競技で1割強の世界シェアを持つとしている。

バスケットでは84年のロサンゼルス大会から9大会連続で五輪の公式球に採用され、国内のプロバスケ「Bリーグ」でも公式球に使われている。15年にはオレンジとクリーム色の2色で回転を視認できるようにし、表面の凹凸感を均一にして手触りを同じ感覚にしたボールを発売した。

中に芯が詰まった野球やゴルフのボールと異なり、バスケットやサッカーのボールは空洞の中身をゴムや皮革で覆って作る。空気を入れた状態から針を抜く際、穴から空気が漏れ出ないようにする技術が必要だ。

ゴルフボールなどのスポーツ用品を展開するゴム製品メーカーはあるが、モルテンは中が空っぽなものを作る「中空体」技術を得意とする。選手らのニーズを吸収しながら、競技ごとにボールの形、大きさ、重さ、手触り、見えやすさの最適解を追求。スポーツの分野でコア技術を発展させてきた。

79年、スポーツ用品大手のアディダスと日本でのサッカーボールの生産販売で独占契約を結び、同社ブランドの製品を手掛けたことも技術力向上につながった。

ただ少子化でスポーツ人口の拡大は見込みづらく、ボールに次ぐ主力商品の育成が欠かせない。柱の一つとして強化するのがホイッスルだ。

審判はホイッスルの音程や長さの違いで合図や警告の意図を伝える。「競技によって鳴らし方だけでなく会場も屋外か屋内かの違いがあり観客数も異なる。ホイッスルも専門性が求められる」(技術開発部SPE開発グループの藤川伸矢氏)

サッカーの主審が吹くホイッスルでは100個を超える試作を重ね、太くて切れ味の良い高音を大音量で出す「バルキーン」を09年に発売した。10年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会では観客が民族楽器「ブブゼラ」を鳴り響かせる中でも音がかき消されず、試合が進んだ。

ホイッスルを試合中、常に口にくわえるバスケの審判用に開発したのが「ブラッツァ」。強くかんでも割れないよう、チタンのマウスピースのフレームを本体に接合したほか、屋内で強く短い音を出せるよう設計した。

ラインカーや得点表示盤も手掛けるモルテン。20年の東京五輪を見据え、新たな革新に挑む。

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モルテンの社名は「溶かす」を意味する英語「melt」の過去分詞。古いものから新しいものに脱皮する意味もある。売上高は17年9月期単体で約400億円。

センサーで体の動きを観察できるマットレスは集中治療室に使われている

自動車部品、スポーツ用品に次ぐ3本目の柱として91年に参入したのが医療・介護事業。高齢化に照準を定めた商品開発を着々と進める。

中でもエアマットレスは人気商品に成長した。東京大学大学院との共同研究で生まれたのが「レイオス」だ。マットレスに埋め込んだセンサーで患者の体の動きや体圧を計測して見える化し、医師や看護師による適切な処置を支援する。病院の集中治療室で使われ始めた。

スポーツ用品は海外約120カ国・地域に販売している。研究開発機能は広島市内にあるが、ボールの生産拠点は90年からタイに移し、販売拠点も海外に置いている。

(後藤健)

[日本経済新聞朝刊2018年3月24日付]