女性はなぜアボカド好き? 2人でおいしく食べるには
今回のテーマはアボカド。男女の味覚差、そしてその差を埋める調理法について迫ってみたい。
味覚は出身地や家庭などその人が育った環境によって形成される面がある。「トーストは厚切りと薄切り、どっちが好き?」「うどん派、そば派?」など、当コラムでもたびたび取り上げたように、酒の席で盛り上がる「食の戦争」も、出身地で意見が分かれるものが多い(ちなみに西日本が厚切り派でうどん党)。
また、味覚には生まれながらに持っている「男女の差」もあるようだ。昔は「男は辛党、女は甘党」といわれたものだが、私の周りでは「ザル」とか「酒豪」と呼ばれるのは女性の方だ。「スイーツ男子」という言葉もあるし、最近は一概に男女差だけでは語れないことが少なくない気がする。
とはいえ、そんな男女の差が最も表れるものといったら「アボカド」ではないだろうか。
そう感じたのはコジャレた居酒屋で飲んでいたときのこと。隣のテーブルの女子がメニューを見ながら「私、この『アボカドとマグロのユッケ風』が食べたーい!」といった。そこにいる女性陣が「いいね! 私もアボカド大好き!」「私もそれ頼もうと思ってた!」と盛り上がる。
そこに空気の読めないというか、勇気ある男子が「オレ、マグロはマグロだけで食いたい!」といい出した。その瞬間、お姉さまがたの猛反撃が始まった。いかにアボカドがうまいかを説く人あれば「だったらまぐろの刺し身も頼もう。そして、アナタはアボカドの皿には手をつけなければいい」と解決策を提案する人、「刺し身ならスーパーで買って食えばいいじゃん」とまで言う人ありで、その男子はお姉さまたちからボコボコにされたのだった。
出身地以外のポイントで「食の戦争」が繰り広げられたのを見た瞬間であった。
後日まわりの男女に「アボカド好き?」と聞き取り調査をしてみると、女性はほぼ「好き~!」と即答するのに対して、男性は「うーん、嫌いではないけど、とりたてて好きというほどでもない」という反応。なかには「どちらかといえば嫌い」と答える男性もいた。
アボカドは99%が海外からの輸入である。財務省の貿易統計によると、アボカドの輸入額は年々増え続け、1997年には16億円だったの2017年には230億円と20年で約14倍の伸び。アボカドは日本ですっかり市民権を得て、人気食材になっていると思っていた。が、どうやら男女で受け入れられ方に大きな差があったようである。
実際、アボカドを好むのは男性よりも女性が多いのか?
東京・神保町のアボカド専門カフェ「アボカフェ」のオーナーである宮城尚史さんに来店するお客さんの男女比を聞いてみた。すると、「ランチ、ディナーともに女性8割、男性2割ですね。ディナーは予約状況により男性比率が上がることもありますが」とのこと。
カフェが女性に好まれる業態ということもあるが、やはり女性が圧倒的である。なぜ女性はアボカドを好むのかについて聞いてみると、「アボカドの見た目のかわいさもあると思いますが、アボカドが美容や健康によい食品とされているからではないでしょうか」と宮城さん。
確かに半身に切ったときの鮮やかなグリーンは見ただけで元気になれるし、かわいらしい。コレステロール値を下げてくれる不飽和脂肪酸、血行を促進するビタミンE、食物繊維などダイエットや美肌・健康によいとされる成分が含まれていることも知られている。
だが、それだけではなく、単純に女性はアボカドの味が好きなんじゃないだろうか。そもそも女性と男性では味覚に差があるのだろうか。
日本能率協会総合研究所が実施した「味の地域差に関する調査2015」の中に興味深いデータがあった。全国10地域に住む20~50代の男女を対象に、調味料系の選択肢を挙げ、好きな味・風味をアンケート調査したところ、男女ともに「しょうゆ味」が64%とトップ。次いで「かつおだしの味」「塩味」「みそ味」「マヨネーズ味」も男女ともに半数以上が好きと答えた。
男女の差が10ポイント以上あった項目もあり、「カレー味」と「焼き肉のたれ味」は男性のほうが好きな人が多かった。そして、女性のほうが好きな人が多いのは「コンソメ味」「チーズ味」「ホワイトソース味」「トマト味」など。
つまり、男性はパンチのあるハッキリとした味が好き。対して女性はや軟らかい洋風の味が好きということが明らかになったのだ。まさにアボカドがこれに当てはまるではないか。チーズ味、ホワイトソース味が好きということから女性にはクリーミーな味が好まれることが分かり、これもアボカドに通じるものがある。
味だけでなく「食感」も男女で好みに違いがあるかもしれない。そういえば過去にこんな体験があった。東京近郊の観光地にカメラマンと編集者と3人で取材旅行に出かけたときのこと。お昼ご飯を食べることになり、私がその地で有名な「豆腐かつ」のお店に行くことを提案した。
これは豆腐にひき肉をはさんでパン粉をまぶして揚げたもの。食べ終わって店を出たときに「ここ、週末だと1時間とか2時間とか行列するんですよ!」とドヤ顔で私がいった。「平日だから並ばずに食べられてよかったね。私の提案のおかげでしょ?」といわんばかりに。
すると、そのカメラマンと編集者(ともに男性)は「うーん、だったら普通にとんかつ食べたかった!」とのたまったのであった。私はとてもおいしくいただいたので、その反応に心底驚いた。
思えば豆腐も女性の方が好きな食べ物だろう。豆腐もアボカドも軟らかくて舌触りがなめらかという共通点がある。これが男性にとっては「どうも食べた気がしない」ということになるらしい。
では、こうも味覚の違う男女ではもはやアボカドの乗った食卓を仲良く囲むことはできないのか? いやいや、ここは平和的解決を模索しようではないか。
男性にもウケる簡単アボカド料理を前出の宮城さんに教えてもらった。
(1)一口大にカットしたアボカドにわさびじょうゆを合わせる。お好みでクリームチーズやかつおぶしを加える。
(2)小麦粉とビールで衣を作りアボカドを衣につけ、天ぷら(フリット)にし、お好みで塩やコショウでいただく。
(3)スライスした豚バラ肉に塩・コショウをし、オクラやエリンギ、パプリカなどの野菜と一緒にアボカドを巻いてソテーにする。
特に(3)は、肉で巻いたことでガッツリ感と、オクラとエリンギでしっかりしたかみごたえがプラスされ、いかにも男性ウケしそうだ。先の「好きな味調査」で男性に人気だった「焼き肉のたれ」で味付けするのもいいかもしれない。
(1)は、「好きな味調査」の男女ともに高ポイントの「しょうゆ味」と「かつおだし味」が両方入っていて、なるほど理にかなっている。なにより「アボカド+わさび+しょうゆ」は日本のアボカドの食べ方としては定番の組み合わせで、ハズレなしだ。
「基本的にアボカドはいろいろな食材に合います。ご紹介したこれらの料理はお酒のつまみにも合うと思いますよ」と宮城さん。
さて、日本のアボカド消費の約9割を占めるのはメキシコ産。メキシコは世界最大のアボカドの生産国にして世界最大の消費国だそうだ。メキシコのポピュラーな食べ方についても聞いてみよう。
「FRESHCOURT」というブランドでメキシコ産アボカドを日本に輸入しているベストプロデュース社代表ハイメ・セバスティアンさんによると、「ワカモレといって、アボカドにレモン、タマネギ、トウガラシ、食塩などを加えてチップスと一緒によく食べます。また、肉や海産物、スープやサラダに、アボカドのスライスやダイスを添えます」とのこと。
ちなみにメキシコではアボカド好きに男女の差はなく、「男女ともによく食べる」そうな。
日本の「わさびとしょうゆで食べる」にはメキシコ人もビックリかと思ったら、「アボカドはどんな食材にも合うので、不思議ではありませんよ」とセバスティアンさん。
アボカドがどんな食材にも合うというのは日本のアボカド専門店オーナーと同一の見解。メキシコのポピュラーなアボカド料理のワカモレには「トウガラシ」、日本のポピュラーな食べ方には「わさび」と、どちらも「辛さ」が加えられるのも興味深い。アボカドの「まったりした味」にはやはり刺激が必要なようである。
まとめてみると、(1)アボカドはどんな食材や味付けにも合う。(2)ゆえに男性ウケのためには肉と組み合わせ、ガッツリ感とかみごたえをプラス。(3)味つけはしょうゆや焼き肉のたれなど「濃いめのハッキリ味」。(4)さらに辛さでパンチを効かせればベター。
これらの基本を押さえながら調理すれば、アボカド料理も男女で仲良くおいしくいただけるはずである。
さて、アボカドはいざ調理しようと思うとまだ硬かったり、脂肪分が多く一度には食べ切れなかったり、慣れないと扱いがちょっと難しい面もある。
食べごろについてだが「表面の皮が黒くなり、持ったときに身がしっかりしつつも少し軟らかいくらいのとき」(セバスティアンさん)だそう。「硬い場合は常温で置いておき熟すのを待ちます。軟らかすぎたり、水っぽくなったりした場合は熟さずに腐ってしまったということ」なので、ご注意を。
食べごろだと思って切ったものの硬かった場合は「一度カットしてしまうと追熟は難しく、切ったところから変色していくので、バターしょうゆでホタテやホウレンソウと一緒に、あるいはアンチョビを使って野菜と一緒にソテーにするといい」(宮城さん)とのことだ。
食べ切れなかった場合は「レモン汁をかけてラップに包み、密閉袋などに入れて冷蔵庫に保管し、2~3日で使い切ってください。3~4週間なら冷凍も可能で、その場合は自然解凍で」と宮城さん。メキシコでは「レモン汁と食塩をまぶしてラップする」(セバスティアンさん)そうである。
パーティーでも映える、健康・美容にもよいとされるアボカド。扱い方・調理のコツを押さえて、どんどん使ってみよう!
(ライター 柏木珠希)
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