紫に輝く「新種」のオーロラ発見 アマチュアが貢献
何千年にもわたり、人々は夜空に輝くオーロラに魅了されてきた。しかし、注意深いアマチュアの科学者たちが、これまでのオーロラとは異なる新しいタイプの発光現象に気づいたのはこの数年だ。わずかな間だけ姿を見せる、紫にまたたくその光のリボンは専門家の注目の的となり、2018年3月14日付けの学術誌「Science Advances」に第一報が掲載された。
「カナダのアルバータ州からやってきたオーロラハンターたちが、真夜中に外に出て北の空を眺め、美しい写真を撮っていました。そしてたまたま、遠い南の空に、紫色にかすかに光る細い弧を見つけたのです」。米メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターの宇宙物理学者エリザベス・マクドナルド氏はそう話す。この紫色のオーロラは、通常のものとは異なる物理現象だという。
マクドナルド氏らの研究チームは、欧州宇宙機関の地磁気観測衛星スウォームにこの特殊なオーロラを通過させて観測を行った。その結果わかったのは、太陽からやってくる荷電粒子が加速して熱せられ、地球の電離層の特定の現象と作用しているらしいことだった。
アマチュア科学者たちは当初、見つけたものが何であるかわからなかったので、奇妙な発光現象を「スティーブ(STEVE)」と呼んでいた。それを気に入ったマクドナルド氏のチームも同じ名前を使い続け、略語がSTEVEとなるように「Strong Thermal Emission Velocity Enhancement(強熱放射速度増強)」という名称まで考え出した。
科学者たちは、低緯度地域に荷電粒子の流れがあることは数十年前から知っていたものの、それが目に見える明るさの発光現象をともなうとは考えていなかった。だが、いまのスマートフォンやデジタルカメラは、当時の観測機器よりもはるかに優れている。それを使えば、1時間ほどしか続かない珍しいオーロラもとらえられる。
ユニークなSTEVE
緑や赤、ときに黄色い薄いカーテンのような形のオーロラとは違い、STEVEは薄紫から紫色をした天空にかかるリボンのように見える。オーロラと同じ緑色をした柵のような光が同時に現れることもある。このSTEVEをかつて「プロトンアーク」と呼んだ人々もいたが、STEVEはプロトンによるオーロラよりも細く、はっきりした形をしている。
マクドナルド氏のチームは、STEVEが「サブオーロラ帯イオンドリフト(SAID)」と呼ばれる現象と関連があると考えている。この現象は、緯度60度ほどの場所で起きる。そこでは、地球の電場と磁場の配置の関係で、イオンと電子が東から西の方向に高速で流れ、その過程で粒子が熱せられる。STEVEは季節性のようで、冬には現れない。そして、宇宙の天気──すなわち太陽から飛来する荷電粒子と関係があるようだ。
「これは宇宙とつながった現象を観測する新しい方法で、したがって、新しい研究方法を提供してくれます」。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の宇宙物理学者バシリス・アンゲロプロス氏はそう話す。「アマチュアの科学者でも、三角測量で高度を求められます」。なお、アンゲロポロス氏は今回の研究には関与していない。
「新種の鳥を見つけるようなもの」
オーロラへの興味がさらに高まったマクドナルド氏らは、STEVEが生まれる原因を突き止めるため、さらなる調査を計画している。一方、アマチュア科学者たちも観測を続けるつもりだ。もし別の場所でSTEVEが見つかれば、科学者たちがその観測データを使ってオーロラの場所や高さを推定できる。
アマチュア天文家は、北半球ならカナダのアルバータ州、米国のモンタナ州やミシガン州で、南半球ならニュージーランドなどでSTEVEを探せるだろう。マクドナルド氏は、自らが主導するアマチュア科学者向けのプロジェクト「Aurorasaurus」のためのアプリをすすめる。オーロラが見えるときに知らせてくれるアプリだ。
アマチュア科学者が大きく貢献した鳥類学との類似点を挙げ、マクドナルド氏はこう付け加えた。「STEVEを見つけるのは、新種の鳥を見つけるようなものです」
(文 Ramin Skibba、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年3月16日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。