人材を「即戦力」に育てるノウハウが詰まった一冊国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は「BCGの特訓」。世界的なコンサルティング大手、ボストンコンサルティンググループ(BCG)で人材育成に関わる2人の著者が、人材を急速かつ持続的に成長させるための考え方や方法論を伝授する。
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木村亮示氏(左)と木山聡氏著者の木村亮示さんと木山聡さんは、いずれもBCGジャパンのシニア・パートナー、マネージング・ディレクターであり、人事/人材チームでコンサルティング・スタッフの育成に携わっています。木村さんは京都大学経済学部を卒業後、仏HEC経営大学院で経営学修士(MBA)を取得。国際協力銀行を経て2002年にBCGに入りました。木山さんは、東京大学経済学部を卒業し、伊藤忠商事から01年にBCGに加わりました。
■働き方改革、個人の成長も必要に
会社では仕事が終わらず、家でこっそり作業する――。政府が掲げる「働き方改革」の柱は、裁量労働制の適用拡大などによる生産性の向上と、残業時間の上限規制などによる長時間労働の是正です。ただ、一人ひとりの生産性向上、つまり個人の成長が伴わなければ、「隠れ残業」のようなゆがみが拡大する懸念もあります。企業を取り巻く環境が急速に変化する現在、それに対応できる人材を確保する意味でも、人材育成は大きな課題になっています。
コンサルティング会社は、新卒の社員にも「即戦力」の働きを要求する厳しい世界です。医師、商社、銀行など様々なバックグラウンドを持つ人たちの中途採用が多い一方、他の業界に飛び出す人も多く、人材の出入りが激しいことでも知られます。このため「多様な人材を“超高速で”戦力化する技術」が磨かれ、蓄積されてきたといいます。
コンサルタントに期待される成長スピードはきわめて速い(し、多くのコンサルタントがその期待に応えている)。入社後1年経つと中堅、2年経つとベテラン。3年経つ頃には一段上のポジションでの仕事にチャレンジすることが求められる。
(Prologue BCGの成長の「秘伝のたれ」6ページ)
■誰のために「成長」したいのか
外資系コンサル会社は、優秀な学生にとっても狭き門です。入社する人は一様に「成長したい」「成長しなければならない」という強い気持ちを持っていますが、なかには伸び悩む人もいるそうです。特に仕事をする主な動機が「成長したい」というものだと、十分な成長が見られない傾向があると著者は指摘します。成長の目的が「給料をあげたい」「褒められたい」といったように「自分への見返り」だからです。
本来、成長は“手段”にすぎない。成長が目的になると、壁に突き当たったときに乗り越えるための力が出ない。自分の成長は自分だけのものなので、自分があきらめてしまうとその頑張りが続かないからだ。
(Chapter.1 スキルを集めるだけでは成長しない 44ページ)
一方、伸びる人は「クライアントの役に立つために成長したい」という気持ちが原動力で、泥くさいことでさえも乗り越える強さを持てるといいます。こうした他者への貢献に対する強い思いと、「何度もチャレンジを継続できる折れない心」「できない事実を受け入れる素直さ」という3つのマインドセット(基本姿勢)が成長の土台になる、と著者は強調します。
■学びのアンテナ、常に敏感に
成長のスピードを速めるには、「学びのスイッチが入っている時間を増やすことだ」と著者は述べます。例えば、木村氏は飲食店のカウンターで食事をするとき、料理人の仕事を見ながら質問してしまうそうです。
いつもと違う位置に包丁を入れるのは、「何となく」ではなく、必ず理由があってのことだし、1つひとつの手順に必ず説明可能な根拠がある。漠然とした、無意識な行動は1つもない。
そして、それらが意識的に実践されているため、こちらからの質問に対して、必ずすぐに明快な答えが返ってくる。これは、自分が仕事をするときにおいても、いかに1つひとつの行動を考えて・意味を持たせて実行するか、ということに対するいい動機づけになった。
(Chapter.3 成長を加速させる鉄則 133ページ)
本書で描かれる考え方や技術の習得は、一朝一夕にはいきません。時には予想以上に時間がかかってしまうこともあるでしょう。しかし、徹底的に特訓を重ねる時間は、自分が望むキャリアを切り開いていくのに欠かせません。働くことの意味や働き方の意識を考え直させられる一冊です。
(雨宮百子)
◆編集者からひとこと 赤木裕介
本書は、2015年に出版した同名の書籍を文庫にしたものです。外資系コンサルというと、みんな頭が良くてキレキレで、その育成手法もすごいにちがいない、と思って取材したのが本書刊行のきっかけです。
実際にいろいろうかがってみると、「さすが外資系」というところが半分、「どこでも同じだな~」と感じるところが半分、といったところでした。
スキルや知識ももちろん大切だけれど、それよりも姿勢や「マインドセット」が重要だ、ということはどの業種・企業でも共通すること。それをいかに高速で仕上げるか、というノウハウがきちんと共有されているところは、やはり日系の企業とは違うと感じました。
「即戦力」であることを求められる若手ビジネスパーソンや入ってすぐに活躍したい就活生の皆さんにも、ぜひ読んでほしい一冊です。
「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

著者 : 木村 亮示, 木山 聡
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)
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