睡眠リズムの乱れは「心の乱れ」 躁うつ病では顕著

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/3/27

ソーシャルリズムメトリクスはこれらの再発のタネを「見える化」することで気づきを促す効果がある。男性はソーシャルリズムメトリクスの解析やカウンセリングを通じて、業務負担を軽減し(良い意味での手抜きをし)、生活リズムを崩さないように心がけ、対人関係ストレスに対処するスキルトレーニングを受けることによって同僚との適度な距離感を保てるようになったのである。

このようにIPSRTが気分を安定させる効果は、対人関係ストレスの緩和、社会的役割をうまく果たしている実感(自己効力感と呼ばれる)、社会リズムの安定化など多面的である。その中でもIPSRTを考案したエレン・フランクは社会リズムの安定化をかなり重視しているようだ。

詳しい説明は別の機会に譲るが、睡眠リズムの日々の変動が大きくなると気分が不安定になることが臨床研究やシミュレーション実験などから明らかになっている。強い夜型生活を送る人や睡眠リズムの異常を呈する患者さんがうつ状態に陥ることが多いのも、不安定な睡眠リズムの結果として、気分の調節に関わるセロトニン神経系やストレス応答系に機能異常が生じるためと考えられている。

日々の生活では健康な人でも就床時刻、起床時刻は若干のずれが生じるのは当たり前である。とはいえ、特段の事情でもなければ私たちの就寝時刻、起床時刻のばらつきはせいぜい1、2時間程度に留まる。ところが双極性障害の患者さんではより大きな睡眠リズムの乱れがみられることが少なくない。これがまずい。

たとえば双極性障害の患者さんに40時間連続で起きてもらう(徹夜明けも翌日の夜まで眠らない)と7割以上で躁状態になったという研究報告もある。いかに睡眠リズムの変化に弱いか分かるデータである。一方で、薬物療法で治らなかった双極性障害の患者さんに、睡眠と体内時計の変動を抑えるために毎日定時に寝室で就寝してもらったところ気分が安定したという有名な報告もある。規則正しい睡眠習慣を保つことは想像以上に気分を安定させる効果があることを示す証拠の1つである。

双極性障害の患者さんだけに限らず、自分の睡眠リズムと気分の関係には意外と気づきにくいものである。世界に冠たる「睡眠不足大国」の日本。睡眠の問題となると、とかく寝不足が語られがちだが、実はリズムもとても大切である。近頃、気分が不安定だと思っている人は、自分の睡眠のリズムを振り返ってみると思わぬ気づきがあるかもしれない。

三島和夫
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。
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