睡眠リズムの乱れは「心の乱れ」 躁うつ病では顕著

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/3/27
リズムの達人にはなれなくても、ノルマクリアはぜひ(イラスト:三島由美子)

そのような質問を受けることがあるが、おそらく双方向的な関係にあるのだろう。つまり睡眠時間やリズムの乱れは、躁状態の前兆(結果)である場合もあれば、再発のトリガー(原因)となっている場合もある。

先述したように双極性障害の治療では再発防止が最大の課題である。だが、双極性障害は再発率が高く、いったん症状が治まっても1年以内に50%、5年以内に80%以上の患者さんが再発するという報告もある。これでは安心して生活を送れない。

これまで双極性障害の再発を予防するさまざまな試みが行われており、一定の効果を発揮する薬物療法や心理療法が見つかっている。その中の1つに、米国ピッツパーク大学医学部精神科の臨床心理学者エレン・フランクによって開発された「対人関係社会リズム療法 Interpersonal and social rhythm therapy(IPSRT)」がある。

IPSRTは文字通り対人関係療法と社会リズム療法を融合させた薬物によらない治療法で、米国で行われた大規模な臨床試験で双極性障害の再発予防効果をもつことが明らかにされている。本稿ではその詳細を説明するスペースはないが、エレン・フランクさんの著書が邦訳されているので関心のある方はお読みください。

IPSRTのユニークな点は、ソーシャルリズムメトリクスと呼ばれる一種の生活表に、起床、出勤・登校、運動、昼寝、夕食、就寝などさまざまな生活時間とともに、睡眠も含めた生活リズム(社会リズム)を乱す原因となったイベントや、その結果生じた気分の変動の大きさを患者自身が記録するところだ。社会リズムが崩れる原因には対人関係のストレスが深く関わっていることが多いため、その時の人間関係(対人関係)の影響の度合いも書き込む。

たとえば、事務員として働いている双極性障害の男性は、完璧性だが手際が悪いためいつも残業になっていた。同僚の仕事ぶりに対する不満から人間関係のあつれきも生じてストレスを溜め込んでいた。帰宅しても頭の切り替えができず寝つきも悪い。特に2カ月に一度の棚卸しのある週は心配性に睡眠不足も加わって、軽い躁状態とイライラが混じった不安定な状態に陥ることが多く、上司の不評を買っていた。

この男性は、抑うつ状態と軽い躁状態を繰り返す双極II型(双極性障害の一種)を患い、薬物療法で再発が予防できなかったのだが、ソーシャルリズムメトリクスを記録することで業務負担やそれに伴う生活リズムの変化、対人関係と気分変動との密接な関係に気づくことができた。その結果、気分が不安定になる回数が目に見えて減ったのである。

文章にすると簡単だが、実生活では自分の精神状態の変化やその原因を客観的に把握することはなかなか難しいのである。双極性障害の患者さんでは、ほかにもサークル活動や町内の定例会での対人ストレス、生理周期などが再発のトリガーとなっていることにうまく気づけない人が多い。

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