
世界に冠たるガストロノミー(美食)の都、東京――。世界遺産に登録された伝統的な和食だけでなく、トーキョー発の各国料理も評価が高い。そのひとつ、日本のフランス料理界をけん引してきたのが「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフ、三国清三氏だ。2000年の九州・沖縄サミット福岡蔵相会合の総料理長を務めるなど、多くの公式晩さん会を演出、現在は20年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の顧問として「食」の視点から五輪を支える。食と装いについて三国氏に聞いた。
後編「コックコートは特注品 細部までこだわり自己表現」もあわせてお読みください。
――スーツを選ぶときの基準は何ですか。
「首相や大臣が出席する霞が関での会議では地味な服装を心がけています。官僚の方たちと一緒にいても悪目立ちしないようにしています。私がスーツを常に着るようになったのはここ十数年ほどです。政府や色々な社団法人の委員を務めるようになってからですね」
■民間とはちょっと違う霞が関
――霞が関のファッションはいかがですか。
「クールビズの時期には皆さん一様にネクタイを外して出席されますね。我々民間人はそこまでは割り切れない委員が多いです」
「安倍晋三首相は大変おゃれな方なので、私もネクタイ選びには注意しています」
オテル・ドゥ・ミクニ オーナーシェフ 三国清三氏
――ユニークな小紋が入ったネクタイをされていますね。
「ニンジンです(笑)。私は午(うま)年生まれなのでニンジンだと話が盛り上がるでしょ? 食べ物やコック帽など、料理に関係した柄のネクタイを100本ほど持っています。フランス製が多いかな。あちらは遊び心のネクタイがうまいですね」
■スーツは30年、同じテーラーで
――スーツはどこで仕立てていますか。
スーツは30年ほど同じテーラーで仕立てている
「30年ほど同じ都内のテーラーです。私は今63歳ですが料理人という職業ゆえか、毎年服のサイズが変わります(笑)。毎年寸法を測り直して作ってもらっています。このスーツも脇に『サシ』が入っているのが分かりますか? きつく感じるようになったらここを外して大きくするのです」
――襟の赤いピンは何ですか。
「フランスのレジオン・ドヌール勲章シュバリエ章の略綬です。フランス料理を世界に紹介した功績として15年に授与されました。日本人はほとんど気がつきませんがパリなどで着けているとレストランの一番良い席に通されたりして便利なのです(笑)、フランスは一種の階級社会ですからね」
――さて、立派なひげですね。三国さんの師匠で帝国ホテル元総料理長の故村上信夫氏もヒゲが有名でした。
「もう45年も生やしています。4ミリメートルから5ミリの長さがちょうどいいので、2週間に1回、専用の理髪店で手入れをしてもらっています。清潔感が欠かせない職業ですから」
■先輩に反発、わざとヒゲを生やした
師匠の村上シェフから「良いヒゲだね」と言われ、許されるようになった「15歳のときに札幌グランドホテルに入り、18歳で上京して帝国ホテルで働きました。ちょうどオイルショックの最中で、『正社員は無理だが、洗い場のパートなら』という条件でした。自分としては札幌での経験を生かしたいのですが、料理界は先輩・後輩の序列が厳しい。ましてパートでは誰も相手にしてくれません。反発してわざとヒゲを生やしたのです」
――当時の帝国ホテルの厨房でヒゲをたくわえていたのは村上シェフだけだったそうです。
「トレードマークなので皆、遠慮していました。私も叱られると思っていましたが、村上シェフはひと目見るや『オッ、三国君、良いヒゲだね』とおっしゃっていただいて許されるようになったのです」
――村上シェフの推薦で20歳の時にスイス・ジュネーブにある日本大使館の料理長に抜てきされました。
「日本人は国際的にみると童顔なため、ジュネーブで食材を購入するときも最初は子供扱いされましたね。ヒゲを生やして、初めて一人前と認められました。もうヒゲは欠かせませんね」
(聞き手は松本治人)
後編「コックコートは特注品 細部までこだわり自己表現」もお読みください。
「リーダーが語る 仕事の装い」記事一覧
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。