夜間操作禁止やアプリ制限機能 TONEがiPhoneでも
佐野正弘のモバイル最前線
800社以上がしのぎを削る、格安な料金で人気の仮想移動体通信事業者(MVNO)。カルチュア・コンビニエンス・クラブ傘下のトーンモバイルは、その中でも異色の存在だ。子どもやシニア向けの独自サービスを、独自スマホとセットで提供してきた。そのトーンモバイルが新たにiPhone向け格安SIMの提供を始めた。子どもがスマホを使える時間を簡単に設定できる機能など、独自スマホと同じレベルのサービスをiPhoneでも実現するという。
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端末とサービスの一体提供にこだわってきた
トーンモバイルは自社でスマートフォン(スマホ)を開発し、スマホとSIMをセットで提供するという、大手キャリアに近いスタイルでのビジネスを展開している。端末とSIMをセット提供するMVNOはほかにもあるが、提供機種が一つだけで、SIM単体では販売しないというのは異例。他のMVNOがSIMフリーのスマホであればどれでも使えるというのを「売り」にしているのとは対照的だ。
トーンモバイルの「売り」は安さと子どもやシニア向けの機能だ。
料金は端末価格を除くと月額1000円と非常に安価。通常の通信速度は500~600kbpsに抑え、高速通信が必要な場合は別途チケットを購入してもらう、音声通話をIP電話にするなどの工夫によって実現している。
子ども向けの機能「TONEファミリー」に関しては、主婦に人気の女性誌「VERY」と共同でサービスを開発するなど、親が頭を悩ませる子どものスマホ管理や安心・安全を実現する。一般的な子ども向けの安心・安全機能だけでなく、指定の場所に訪れると端末にロックがかかる「ジオロック機能」や、端末を使用禁止にする時間を設定できる機能などがある。
「親子の約束」というユニークな設定方法も用意する。親子で話し合った上で、専用の用紙に子どもがスマホを使える時間や利用できるアプリを記述し、それを撮影するだけでスマホの利用制限設定ができる。
また一般的なフィルタリングアプリの場合、子どもがネットなどで解除方法を探し、解除されてしまうことも多い。だがトーンモバイルのスマホはハードとサービスが一体となっており、より深いレベルでの制限をかけられることから、子どもにフィルタリングが解除されることはないという。そうした取り組みが評価され、「TONE m15」が全国子ども会連合会の推奨商品として認定を受けたり、TONEファミリーがスマホとしては唯一東京都推奨の認定を受けていたりする。
シニア向けには専用の用紙に記入して、写真を撮るだけで設定ができる「撮るだけ設定」や特殊詐欺電話を防止する「あんしん電話」、運動量に応じてTポイントがもらえる「お元気ナビ」などの機能を用意している。
SIMと見守りサービスをiPhone向けにも提供
それだけ独自のハードと一体でサービスを提供することにこだわりをみせてきたトーンモバイルが、18年2月20日に「TONE SIM(for iPhone)」というiPhone用のSIMを4月上旬より提供することを発表した。
このサービスは文字通り、iPhone向けのSIMによる通信サービスで、基本的にはiPhoneを持ちたい子どもをターゲットにしたものになるという。専用アプリのインストールなど、いくつかの事前設定によって、TONEファミリーなどトーンモバイルが提供する機能の多くが利用可能になる。利用時間制限なども、iOSに搭載されているデバイス管理機能を活用して実現しているという。トーンモバイルが独自に開発した技術によって、子どもが利用制限を解除できないような仕組みも取り入れている。
通信部分は、データ通信速度が500~600kbpsで、IP電話の利用が可能であるなど、基本的にトーンモバイルの従来のサービスに準拠している。価格は1500円[注]と、独自端末のときより少し高くなるが、通信容量の制限はなく、大手キャリアと比べたら大幅に安価だ。
[注]家族の中にトーンモバイルの端末を利用しているユーザーがいない場合は、TONEファミリーの利用料が月額200円かかる
同社はこれまで独自の端末による垂直統合型のサービスに力を入れてきたが、ここにきてiPhone向けのSIMを提供するに至ったのはなぜだろうか。トーンモバイルによると、やはり国内での圧倒的なiPhone人気が大きく影響しているようだ。
圧倒的なiPhone人気が背景
日本はスマホ利用者のうち半数以上がiPhoneを利用しているともいわれる「iPhone大国」であり、その傾向は子ども世代でも変わらない。トーンモバイルの資料によると、iOSの利用者比率は全年齢で66.2%、高校生でも65.4%に達するとのことで、同社にも「iPhoneでサービスを使いたい」という声は、以前より多数寄せられていたという。トーンモバイルの独自端末だけでは、iPhoneを使いたい中高生のニーズに応えきれなかったようだ。
またトーンモバイルによると、17年6月に総務省が携帯大手3社に対し、新規端末の価格を中古端末の買取価格より高くするよう求める指針を打ち出したことで、中古携帯電話市場の活性化が進んでいるとのこと。それに加えて、ユーザーが古いiPhoneを手元に残しているケースが多く、その数が3600万に達しているという。そうした中古iPhoneの利活用を広げるという側面も、今回のサービス提供の背景の一つとなっている。
ただ今回のサービスでは端末とSIMを別々に提供するため、それらをセットで提供していた従来のサービスと比べると、消費者が「難しい」と感じてしまう懸念がある。トーンモバイルは、TONE SIM(for iPhone)をオンラインでのみ販売する。そのため、使い方はWebサイトや動画などで説明したり、電話によるサポートで対応したりすることを念頭に置いているという。だがより幅広いユーザーに利用してもらうためには、消費者により優しいサポート体制、例えばトーンモバイルの端末を販売しているTSUTAYAの店舗で、SIMの挿入から設定までをサポートするなどの取り組みも、今後必要になってくるかもしれない。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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