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カリスマの直言

日銀、秩序ある出口に危うさ 歴史に教訓(加藤出) 東短リサーチ社長チーフエコノミスト

2018/3/19

日本が海外で占領していた「外地」では、物資不足の中、国内以上に安易に通貨(軍票)が発行されたため、インフレはよりすさまじかった。41年から45年8月にかけての物価上昇率はスマトラ島で約3200%、ボルネオで約3900%、ビルマでは約18万%に達した。

敗戦による経済の混乱と財政の信認の崩壊が相まって、46年には(公定価格に準拠した)東京小売価格指数ですら514%の急騰を示した。政府は、財政の立て直しと通貨流通量の縮小によるインフレの鎮圧を図るために、預金封鎖・新円切り替え・財産税を46年に実行する。しかし、物価はすぐには落ち着かず、東京小売価格指数は47年に170%、48年に193%もの上昇となった(参考:『日本銀行百年史』日銀、『昭和経済史』中村隆英)。

■日銀保有国債は圧倒的に高水準

時代は飛んで、現代の状況を見てみよう。この5年の間に日銀はインフレ率を2%に押し上げるため、市場から猛烈な勢いで国債を購入し続けた。現時点で日銀が保有する国債の名目GNP比はグラフの通り80%に達する勢いとなっている。第2次世界大戦末期よりも圧倒的に高い比率なのだ。

それでも、インフレ率は2%にすら届いていない。インフレ目標は達成されていないのだから、日銀は余計な心配などせずに、もっと国債を買うべきだ、との主張がリフレ派エコノミストから聞こえる。しかしながら、日銀がこんなにも大量に国債を持ってしまい、しかも、まだまだ増加していくとなると、この先、日銀が秩序を保ちながら「出口政策」を穏当に実施することは不可能になっていくのではないかと懸念される。

超金融緩和策で国の利払い費が低く抑え込まれた状態が長く続くと、政府・議会は感覚麻痺(まひ)を起こし、財政運営がルーズになるからだ。財政が金融緩和に深く依存した状態が長期化すればするほど、そこから脱却することは難しくなる。

それなのに、日銀副総裁に就任する予定の若田部昌澄早稲田大学教授は、3月7日の参院議院運営委員会で、景気がより回復するまで財政再建に手をつけるべきではない、と主張した。

■新体制は長期的なスパンで政策運営を

似たような主張はバブル経済崩壊以降、この四半世紀ずっとなされてきた。その結果、累積政府債務の名目国内総生産(GDP)比は92年の70.7%(世界22位)が2017年には240.3%(世界1位)になってしまった(国際通貨基金推計)。恐ろしいのは、高齢化と現役世代人口の減少により、日本の財政収支の悪化は2020年代後半から本格化する点にある。

英国は1800年代に今の日本以上に政府債務を膨張させた。しかし、その後の人口増による1人当たり政府債務の減少、産業革命による経済のパイの劇的な拡大、植民地からの利益の収奪などにより破綻をまぬがれた。今後の日本にはどれも期待しにくい(参考:『国債と金利をめぐる300年史』の平山賢一氏の論文)。

そういったことを多くの人がうすうす感じるようになると、これまでなんとか保たれてきた財政の信認がどこかでプチッと切れる。ひとたびそれが起きると、中央銀行にはなす術(すべ)がなくなる。近くスタートする日銀新体制は、遮二無二にインフレ目標を追求するのではなく、将来世代への影響も考えながら、長期的なタイムスパンで政策を運営していくべきである。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。

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