「十津川警部」「百舌」……小説シリーズの最長寿は?
現在刊行中の小説シリーズで、主要作家の最長作をランキングにして、長寿小説シリーズの顔ぶれを探ってみた。50年近く続く作家のライフワークから、ドラマや映画の映像化でシリーズ人気が再燃したミステリー作品まで計30作。ジャンルを見ると、SF・ファンタジーやミステリーの人気が高い。
長く続いてシリーズ化される小説には、タイトルにシリーズ名が表記されるだけでなく、タイトルに示されなくても作家がシリーズ作の認識を示していたり、読者がシリーズとしてとらえている作品もある。
上表は、現在進行形のシリーズ作(ストーリーが完結しておらず続編が期待されているタイトル)の主だったものだ。約50年続く1位「青春の門」は、作家自らが自身のライフワークと称する、リスト上唯一の大河小説(主人公や周辺人物の生涯を社会・時代的な背景を反映させながら描く小説)。
同じく25位「蒼穹の昴」は、リスト上唯一の歴史・時代小説。清代の中国を描き、著者が「私はこの作品を書くために作家になった」とコメントする意欲作となっている。書店でシリーズ作が多く並ぶイメージの強い歴史・時代小説だが、今回リストアップされたのはこの1作のみ。
その理由として、かつては作家のライフワークとして長期的に取り組まれた作品も多かったが、近年の時代小説人気は刊行ペースの速い文庫オリジナル版に支えられていることが挙げられる。年に何冊も発売されるため、巻数は多くとも年数としては長くない作品が増える傾向にあるのだ。また、数年から10年程度で新たなシリーズへと切り替える作家も少なくない。
■壮大な世界観のために巻数が必要
リスト上の残り28作は、SF・ファンタジーもしくはミステリーに分類される作品ばかり。
ファンタジー小説にシリーズ作が多くなりがちなのは、壮大な世界観を描くために巻数が必要になるため。リストに名はないが、人気ファンタジー作家・茅田砂胡は25年間シリーズ名を変えながら同じ世界観を別の角度や人物から描き続けており、同様の描き方をする作家はほかにもいる。
一方、ミステリー小説は、物語の進行役である探偵や刑事などに特徴を持たせやすいことが、シリーズ化につながっている。シリーズ名にキャラクター名が冠されていることからも、その傾向がうかがえる。そういった中で、奇妙な建物で起きる事件を軸に展開する14位「館」シリーズは異色作。その特異性も、ファン層を広げる一因となっている。
また2位「十津川警部」シリーズのように2時間ドラマの原作に定着したことや、11位「加賀恭一郎」シリーズのように連続ドラマから火がついて新作への注目が高まった作品も少なくない。ドラマ化を機に13年ぶりに第7作『墓標なき街』が発売された5位「百舌」シリーズのように、映像化にあたってしばらく中断していたシリーズが再び始動することもある。今や映像化は、シリーズ作を盛り上げる一大要因となっているのだ。
(ライター 土田みき)
[日経エンタテインメント! 2018年4月号の記事を再構成]
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