納豆好きなら塩で食え 強い粘りと濃厚な甘味とうまみ
魅惑のソルトワールド(14)
突然ですが、みなさんは、納豆ってどんな風に食べていますか?
最近では、従来のしょうゆベースのタレ以外にも、わさび風味、梅風味、キムチ味などのバリエーションも豊富ですし、たぶんあまり意識をせずに「付属のタレを使う」という人がほとんどかもしれません。しかし今回の「魅惑のソルトワールド」では、あえて付属のタレから離れて「塩」で食べることを提唱したいと思います。「学問のススメ」ならぬ、「塩納豆のススメ」です。
まずは、知っているようで知らない納豆のことを、少しおさらいしましょう。納豆の発祥は弥生時代だとか戦国時代だとか諸説ありますが、いずれにせよ、加熱した大豆をわらなどで包んで保存していた際に発酵して偶然できあがったもの、という共通点があります。商品として量産され、広く一般家庭で広く食べられるようになったのは江戸時代のことで、産地としては、茨城県のほか、秋田県や熊本県も有名です。
なお「納豆」と一口に言っても、黒豆や枝豆などを原料とした納豆もあり、そのどれも独特のおいしさを醸し出していますが、今回はどこでも手に入りやすい「大豆で作った小粒納豆」を前提にしたいと思います。また、山形県の郷土料理に、納豆に塩昆布と塩こうじを混ぜて寝かせた「塩納豆」というものがありますが、ここでは「一般的な糸ひき納豆を塩で食べること」を「塩納豆」と呼ぶことにします。
ナットウキナーゼの血栓溶解作用のほか、腸内環境の改善やアレルギーの改善、殺菌作用、骨を強化する作用、アンチエイジングなど、さまざまな健康効果を持つため、ある種健康食品のようにも扱われ、時代の健康志向と相まって、2016年には過去最高の市場規模を記録しています。
「そうは言っても、関西人は食べないんでしょ?」と思うなかれ。それが通説となっていたのも今は昔で、家計調査(2015年)によれば、全国平均こそ下回るものの、たとえば関西2府4県のなかで最も納豆の消費量が少ない大阪府でも、1世帯あたり年間約2,000円以上分の納豆が消費されています。どうやら最初は転勤族などの間で消費されていたようですが、納豆の持つ健康効果がメディアに取り上げられたりするにつれ、関西圏のスーパーマーケットやコンビニエンスストアでの取扱量や種類も増え、家庭での登場頻度も高くなってきたようです。また、製造会社の努力もあり、独特のにおいや粘りが苦手な人向けに、あまり匂わず粘りの少ない納豆などが開発されたということも、関西圏での納豆食の増加に寄与していると考えられます。
さて、納豆についてのおさらいが終わったところで、納豆を塩で食べるメリットについてお伝えしましょう。
(1)とにかくうまい! 口いっぱいに広がる豆の濃厚な甘味とうまみ
納豆に限らずどんな食べ物でもそうなのですが、タレやソースなどの強いうまみや風味を含む調味料をかけると、素材の味を楽しむというよりは、その調味料の味をメインに味わうことになります。
一方、塩は少量加えることで、素材が持つ味わいを前面に引き出すのが得意な調味料なので、塩だけで納豆を食べると、納豆の発酵熟成により醸し出されたうまみや大豆の甘味をしっかりと感じ取ることができます。タレなどの調味料とはまた別の楽しみ方ができるのです。
(2)手が疲れるほどにコシの強い粘り
納豆をかき混ぜて食べる場合、タレの時よりも塩を加えた時のほうが、同じ回数かき混ぜたとしても、非常にコシの強い粘り気が出てきます。これは、納豆に含まれる植物性たんぱく質が塩に溶けやすい性質を持つことによるもので、表面のたんぱく質が溶けだすことで粘りが出るのが早くなり、かき混ぜ始めてすぐに箸がずしっと重くなるのを感じるほど粘り、納豆はひと塊になります。納豆のてんぷらなどを作る場合は、この状態にするのが崩れにくく便利です。
(3)なめらかな舌触り
(2)の状態からしばらくかき混ぜ続けると、また様子が変わってきます。タレを入れてかき混ぜ続けたほうはさほど変化しませんが、塩を入れたほう(写真左)は、泡が消えて粘りが滑らかになってきます。これも前述した「塩によるたんぱく質の溶解作用」によるもので、大豆たんぱくが溶けだして、粘りを滑らかに変化させてくれるため、クリーミーな食感を楽しむことができます。ごはんにかけて食べたり、パスタやうどんに混ぜたりする場合は、この状態がおすすめです。
(4)鼻に抜ける芳醇(ほうじゅん)な香り
苦手な人もいるかもしれませんが、納豆の魅力の一つといえば、その独特の香りです。タレで食べると、タレに含まれるしょうゆなどの香りが強くなりますが、塩で食べると、味だけでなくその香りも引き出してくれるため、かめばかむほどに鼻に抜ける発酵の香りが楽しむことができます。納豆の香りが大好きな人にはたまらない食べ方です。
ここまでお読みいただいた方は、きっとすでに「塩納豆」を試してみようという気になっていると思います。そこで、ここからは、納豆におすすめな塩をいくつかご紹介したいと思います。純粋な塩から、ちょっとした変わり種まで。幅広い塩と合わせて味わいのバリエーションが広がる懐の深さも、納豆の魅力の一つです。
星の砂塩 隆起したサンゴ礁でできた、鹿児島県の与論島。その沖合の水深500メートルからくみ上げた海洋深層水を約30時間かけてじっくり煮詰めてつくられる海水塩です。カルシウムの含有量が100グラム中1.15グラムと非常に多く、かどのないまろやかなしょっぱさと、ほのかな苦味と上品な甘味が特徴の塩です。大豆の甘味をしっかりと引き出してくれます。ごはんにかけて食べる時におすすめ。
落花塩 ヨーロッパや中東で人気の「デュカ」にヒントを得て生み出された調味塩です。海外産の天日塩に、神奈川県西湘産の落花生やカシューナッツ、クミンなどをブレンド。粗くひかれたナッツの食感と油分が納豆のコクをさらに強くするとともに、深煎りナッツの香ばしさとスパイスの風味が、意外にも発酵臭と相性抜群で、少しエスニックな風味を醸し出してくれます。そのままおつまみとして食べる時におすすめ。
アドリア海の風 スロヴェニアの塩田にアドリア海の海水を引き入れ、太陽と風の力だけで濃縮・結晶させた完全天日塩。この塩だけでも濃厚なうまみがあり人気を博していますが、それにほれ込んだ燻製職人が、自社の燻製工房でじっくり丁寧に燻製にかけたのがこちらの調味塩。納豆の香りと燻製の香りがほどよく相まって、コクとなって舌と鼻を楽しませてくれます。お酒のアテにするときにおすすめ。
海みたま 梅の塩 宮崎県と大分県の県境にある無人島まで船を出して海水を取水して作った海水塩を、地元・延岡産の梅干しを作る際に出た梅酢に漬け込み、さらに梅干しを乾燥し粉末したものをブレンド。昔ながらのおいしい梅干しをそのまま食べているかのようなしっかりした酸味とうまみを感じられます。梅干しの酸味としょっぱさによって、さっぱりとしたあと味に。ごはんにももちろん、パスタやうどんにも。
わさびのおいしいお塩 静岡県のわさびの老舗・田丸屋本店が作り出した、わさびの風味がしっかり楽しめる調味塩です。国産海水塩に、自社のわさび粉末、さらに昆布粉末をブレンド。昆布が入っているので、味覚の相乗効果で納豆のうまみをさらに強く感じます。しょっぱさはまろやかなので、少し多めにふりかけてしっかりかき混ぜると、ツンとくるわさびの風味が楽しめます。納豆をお酒のアテにして飲む時などにおすすめ。
合わせる塩によって、引き出される納豆の味わいや香りも変化しますし、調味塩を合わせると、思いもよらないマリアージュを楽しませてくれることも。いろいろ試して、ぜひ自分のお気に入りの組み合わせを見つけてみてくださいね。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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