BRCA1/2遺伝子変異がある人は、若い年齢で乳がんを発症するリスクも高い。写真はイメージ=(c)Tyler Olson-123RF

BRCA1/2遺伝子変異がある女性が70歳までに乳がんになるリスクは49~57%、卵巣がんになるリスクは18~40%[注2]と、一般の生涯罹患率(乳がん9%、卵巣がん1%[注3])に比べても格段に高い。そのほかにも、BRCA1/2遺伝子変異によって起こるHBOCには次のような特徴がある。家系の中にこの遺伝子変異が受け継がれていれば、男性も乳がんになる可能性がある。

【遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の特徴】

・若い年齢で乳がんを発症する

・トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体を持っていない、かつHER2タンパクの発現がないタイプ)の乳がんを発症する

・両方の乳房にがんを発症する

・片方の乳房に複数回がんを発症する

・乳がん、卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)の両方を発症する

・男性で乳がんを発症する(男性乳がんはBRCA2陽性が多い)

・膵臓がん、若年での前立腺がんを発症することもある

遺伝子変異があると100%がんになる?

「BRCA1/2遺伝子変異は子どもにも必ず受け継がれる」「BRCA1/2遺伝子変異があると100%がんになる」と思う人も少なくないが、これは誤解だ。父親と母親から1本ずつ染色体をもらうため、子どもが遺伝子を受け継ぐ確率は50%。また、たとえBRCA1/2遺伝子変異があったとしても、必ず乳がんや卵巣がんを発症するわけではない。

家族歴を振り返って、自分はHBOCかもしれないと気になるときは「遺伝カウンセリング」で相談することができる。また、乳腺外科での問診でHBOCが疑われた場合に、主治医から遺伝カウンセリングを勧められることもある。遺伝子変異があるかどうか知っておくことが治療の選択においても重要になるからだ。

「遺伝カウンセリング」とは聞き慣れない言葉だが、これは「認定遺伝カウンセラー」と呼ばれる専門家がHBOCや遺伝子検査についての情報を提供し、意思決定をサポートするというもの。遺伝診療部や遺伝外来のある医療機関で受けられる。

前述した通り、遺伝子変異の有無を知っておくことが治療の選択においては重要になる。例えば、遺伝子変異がある人の場合、乳がん摘出手術の際に、再発の可能性を視野に入れて最初から乳房切除と再建を行うこともある。また、BRCA1/2遺伝子変異がある場合に特異的に効果を発揮する新しい薬(PARP阻害剤)が卵巣がんに認可され、近い将来、乳がんにも認可される可能性がある。この薬が効くか効かないかの判定にBRCA遺伝子検査が必要になる場合もある。

遺伝子変異の有無の調べ方は?

遺伝カウンセリングを受けた後、自分に遺伝子変異があるかどうかを確かめたい場合には「BRCA遺伝子検査」を受ける。ただし、遺伝カウンセリングは決して遺伝子検査を受けることを前提としているわけではなく、話を聞いたうえで、検査を受けるかどうかは選ぶことができる。

HBOCが疑われるときに受ける遺伝子検査は、BRCA1/2遺伝子を分析し病的変異があるかを調べる。結果が陽性だった場合、血縁者が検査を受けることができる「血縁者向け検査」もある。

「遺伝子検査は、それで陽性と判定された場合、家族に対する影響も出てくる可能性があるという知識をしっかり持ったうえで受けるかどうかの選択をしてほしい」と山内さん。自分に遺伝子変異があることが分かれば兄弟姉妹や子ども、親戚に情報を共有できる反面、不安をあおる可能性もある。実際、母親が自分の子どもに対して責任を重く感じたり、結婚・出産への影響を心配するといったケースがあるなど、知ることによるデメリットも考えられるのだ。

遺伝子を知ることにはどのような意味があって、家族を含めてどういう影響があるのか、知識を持って向き合うことが大切だ。

HBOCの人のがん発症リスクを減らす予防策は?

HBOCの人が将来がんを発症するリスクを減らすための予防策としては、次の3つが考えられる。

[注2]「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版」

[注3]国立がん研究センター最新がん統計「がんに罹患する確率~累積罹患リスク(2013年データに基づく)」より

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それぞれの人の自分らしい選択は?