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遺伝性乳がん・卵巣がん 予防策とれる時代に

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日経Gooday(グッデイ)

米国の女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防のための乳房切除術を受けたという報道は記憶に新しい。その際にも話題になったが、乳がんの一部には、遺伝が強く関係するものがある。その中で最も多くの割合を占めるのが「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」という遺伝性腫瘍によるものだ。HBOCの人は乳がんや卵巣がんの発症リスクが一般の人よりかなり高いが、がんを発症する前に予防策がとれる時代になりつつある。まずはHBOCについて知ることから始めよう。

HBOCは乳がん全体のどのくらい?

2018年1月、第6回日本HBOCコンソーシアム学術総会において乳がんと遺伝に関する市民公開講座が開催され、まず、聖路加国際病院副院長・乳腺外科部長・ブレストセンター長の山内英子さんが、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer、以下HBOC)」の基礎知識を市民向けに分かりやすく講演した。

それによると、乳がんや卵巣がんの一部には、遺伝的な要因が強く関与していると考えられるものがある。その中で最も多いのがBRCA1、BRCA2という2つの遺伝子の変異を原因とする「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」だ。家系の中に特別に乳がん、卵巣がんが多ければ(「家族歴、家族集積性が見られる」と言う)、BRCA1/2遺伝子の変異が原因の可能性がある。

ただし、がんは遺伝要因と環境要因が絡み合って起こるため、ある家族に特殊ながんが多くても、遺伝とは言い切れないこともある。全ての乳がんが遺伝によるものでもない。現在、日本では年間8万~9万人が乳がんと診断されるが[注1]、そのうち、家族歴、家族集積性が見られる「家族性乳がん」が10~20%、遺伝によるものとはっきり分かる人は5~10%程度といわれている。

HBOCの特徴は?

BRCA1/2遺伝子のどちらかに病的変異がある場合にHBOCと診断される。BRCA1/2遺伝子変異は、日本人には少ないといわれていたが、近年の研究で、日本人にも欧米と同等の割合で存在することが分かってきた。

[注1]国立がん研究センター最新がん統計で2013年の罹患数7万6839人、2017年のがん統計予測で罹患予測数8万9100人

BRCA1/2遺伝子変異がある女性が70歳までに乳がんになるリスクは49~57%、卵巣がんになるリスクは18~40%[注2]と、一般の生涯罹患率(乳がん9%、卵巣がん1%[注3])に比べても格段に高い。そのほかにも、BRCA1/2遺伝子変異によって起こるHBOCには次のような特徴がある。家系の中にこの遺伝子変異が受け継がれていれば、男性も乳がんになる可能性がある。

【遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の特徴】

・若い年齢で乳がんを発症する

・トリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体を持っていない、かつHER2タンパクの発現がないタイプ)の乳がんを発症する

・両方の乳房にがんを発症する

・片方の乳房に複数回がんを発症する

・乳がん、卵巣がん(卵管がん、腹膜がんを含む)の両方を発症する

・男性で乳がんを発症する(男性乳がんはBRCA2陽性が多い)

・膵臓がん、若年での前立腺がんを発症することもある

遺伝子変異があると100%がんになる?

「BRCA1/2遺伝子変異は子どもにも必ず受け継がれる」「BRCA1/2遺伝子変異があると100%がんになる」と思う人も少なくないが、これは誤解だ。父親と母親から1本ずつ染色体をもらうため、子どもが遺伝子を受け継ぐ確率は50%。また、たとえBRCA1/2遺伝子変異があったとしても、必ず乳がんや卵巣がんを発症するわけではない。

家族歴を振り返って、自分はHBOCかもしれないと気になるときは「遺伝カウンセリング」で相談することができる。また、乳腺外科での問診でHBOCが疑われた場合に、主治医から遺伝カウンセリングを勧められることもある。遺伝子変異があるかどうか知っておくことが治療の選択においても重要になるからだ。

「遺伝カウンセリング」とは聞き慣れない言葉だが、これは「認定遺伝カウンセラー」と呼ばれる専門家がHBOCや遺伝子検査についての情報を提供し、意思決定をサポートするというもの。遺伝診療部や遺伝外来のある医療機関で受けられる。

前述した通り、遺伝子変異の有無を知っておくことが治療の選択においては重要になる。例えば、遺伝子変異がある人の場合、乳がん摘出手術の際に、再発の可能性を視野に入れて最初から乳房切除と再建を行うこともある。また、BRCA1/2遺伝子変異がある場合に特異的に効果を発揮する新しい薬(PARP阻害剤)が卵巣がんに認可され、近い将来、乳がんにも認可される可能性がある。この薬が効くか効かないかの判定にBRCA遺伝子検査が必要になる場合もある。

遺伝子変異の有無の調べ方は?

遺伝カウンセリングを受けた後、自分に遺伝子変異があるかどうかを確かめたい場合には「BRCA遺伝子検査」を受ける。ただし、遺伝カウンセリングは決して遺伝子検査を受けることを前提としているわけではなく、話を聞いたうえで、検査を受けるかどうかは選ぶことができる。

HBOCが疑われるときに受ける遺伝子検査は、BRCA1/2遺伝子を分析し病的変異があるかを調べる。結果が陽性だった場合、血縁者が検査を受けることができる「血縁者向け検査」もある。

「遺伝子検査は、それで陽性と判定された場合、家族に対する影響も出てくる可能性があるという知識をしっかり持ったうえで受けるかどうかの選択をしてほしい」と山内さん。自分に遺伝子変異があることが分かれば兄弟姉妹や子ども、親戚に情報を共有できる反面、不安をあおる可能性もある。実際、母親が自分の子どもに対して責任を重く感じたり、結婚・出産への影響を心配するといったケースがあるなど、知ることによるデメリットも考えられるのだ。

遺伝子を知ることにはどのような意味があって、家族を含めてどういう影響があるのか、知識を持って向き合うことが大切だ。

HBOCの人のがん発症リスクを減らす予防策は?

HBOCの人が将来がんを発症するリスクを減らすための予防策としては、次の3つが考えられる。

[注2]「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き2017年版」

[注3]国立がん研究センター最新がん統計「がんに罹患する確率~累積罹患リスク(2013年データに基づく)」より

それぞれにメリット・デメリットがあり、現時点で予防効果が最も高いのは発症前に乳房や卵巣・卵管を手術で取り除く方法(リスク低減手術)だ。感覚やボディイメージの変化、心理的負担などが考えられるものの、乳房切除の技術は進歩していて、両方の乳房を取り除いても、自然な仕上がりに再建することが可能だという。また、欧米ではリスク低減手術によって乳がん・卵巣がんの発症に明らかな差が生じるなどの報告がなされている。

日本でも、2017年10月に厚生労働省研究班がまとめた診療指針で、BRCA1/2遺伝子変異が見つかった場合に予防的な乳房切除手術を「考慮してもよい」と明記され、希望すれば選べるようになった。とはいえ、医師の間でもまだ様々な見解があり、国民健康保険が適用されず自費診療になるという経済的負担や社会的に受け入れられるかどうかなどの問題もある。

「私たち医療者は、その人に合うベストな選択肢を一緒に考えます。私たちが寄り添って歩きますから、一歩ずつ踏み出しませんかとお伝えしています」(山内さん)

遺伝子検査やリスク低減手術が受けられる医療機関はまだ限られているものの、医療体制は徐々に整備されてきている。自分の遺伝的背景に基づいて、がんを発症する前に予防策を選択できる時代になりつつあることは確かだ。

それぞれの人の自分らしい選択は?

プログラムの後半では、実際にHBOCと診断されてリスク低減手術を受けた当事者や、乳がんを発症し、その治療の中でHBOCについて知った人たち、遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師などが登壇し、率直な思いを語り合った。

乳がん治療の過程でHBOCのことを知った複数の当事者から共通して聞かれたのは、「乳がん治療中は目の前のことに精一杯で、遺伝のことまで考えが及ばなかった」という声だ。がんと診断されたうえに、もう一つ遺伝という問題とも向き合わなくてはならないHBOC患者が冷静に納得のいく選択をするためには、心の余裕やサポートが必要なのだ。

遺伝に向き合う時期や、その向き合い方は次のように人それぞれ。

Aさんは47歳で乳がんが見つかり、家族歴を調べるうちに祖母が42歳で乳がん、86歳で対側乳がん(反対側の乳房の乳がん)を、叔母が55歳で卵管がんを患ったことを知った。HBOCの説明を受け、遺伝カウンセリングを勧められるも、すぐに受ける気にはならなかった。手術前に術式を決める参考にもなるかもと再度勧められた遺伝カウンセリングで、乳がん摘出術のみでなくリスク低減手術や乳房再建手術ができると知り、遺伝子検査を受けることを決めた。結果はBRCA1/2遺伝子変異陽性だったため、反対側のリスク軽減乳房切除とリスク軽減卵巣卵管切除を行った。

Bさんは若年性乳がんと診断され、治療後、社会復帰。治療中にHBOCの説明を受けたが、遺伝カウンセリングも遺伝子検査も受ける気になれず受けていない。

Cさんは乳がんを発症していないが、母親が30代で乳がん、50代で対側乳がんを発症。母親の2度にわたる乳がん治療を子どもの頃からそばで見てきたため、遺伝的背景について聞いたときは非常に当てはまると思った。30歳で遺伝カウンセリングと遺伝子検査を受け、BRCA1/2遺伝子変異陽性だったが、人生のステージの中で出産や仕事などの状況も考え、出産後、今ならできるというタイミングを得てリスク低減手術に踏み切った。

Aさんは「遺伝カウンセリングを通して多くの有益な知識だけでなく、将来への希望を得たことが大きかった。もし不安になっているなら、遺伝子検査は受けなくてもカウンセリングだけは受けておくことを勧めたい」と話す。全国の遺伝カウンセリング・遺伝子検査を受けられる施設は特定非営利活動法人日本HBOCコンソーシアムのホームページで検索できる(http://hboc.jp/facilities/index.html)。

ただし、前述した通り、自分に遺伝子変異があることが分かれば兄弟姉妹や子どもに情報を共有できる反面、不安をあおる可能性もある。「知る権利」があるのと同様に「知らない権利」もある。家族の気持ちや状況も時によって変わるものなので、気になったときに医療機関へ相談すればよい。いずれにしても否応なく家族を巻き込むことになるだけに、日ごろからコミュニケーションをとって、納得のいく選択につなげたい。

「大切なのは選択肢を知り、自分に合うものを選ぶこと」

山内さんはアンジェリーナ・ジョリーさんの「一番大切なことは、選択肢について知り、その中から自分の個性に合ったものを選ぶこと」という言葉を示し、「知識こそ力。知識を持って一緒に前に進んでいければ」と締めくくった。

もし、自分に高い確率で乳がんや卵巣がんになりやすい遺伝子変異があるとしたら、あなたはどうするだろうか。答えは一つではないし、同じ人でもタイミングによって判断は異なるだろう。まずはそうした遺伝子変異があるという事実や、そうと分かったときにどんな選択肢があるかを知ることが大切ではないだろうか。

山内英子さん
 聖路加国際病院副院長・乳腺外科部長・ブレストセンター長。順天堂大学医学部卒業後、聖路加国際病院外科レジデントを経て、渡米。ハーバード大学ダナファーバー癌研究所、ジョージタウン大学ロンバーディ癌研究所等で研鑽を積む。2009年4月聖路加国際病院乳腺外科医長、2010年より現職。米国外科集中治療専門医、米国外科認定医。

(ライター 塚越小枝子)

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