VW不正から2年 パサートにあえての新型ディーゼル
2015年に起きたディーゼル排ガス不正問題の影響で投入が遅れていたフォルクスワーゲンのディーゼル車「パサートTDI」が18年2月に日本で発売された。「今更ディーゼル?」という感もある、このタイミングで日本市場に投入する背景には、クリーンディーゼル搭載車のニーズが高まっているという事実があった。
排ガス不正問題が販売時期に影響
フォルクスワーゲン・グループ・ジャパンは「パサート」のクリーンディーゼルモデル「パサートTDI」を18年2月14日に発売した。
パサートTDIが搭載しているのは最新世代のパワートレインで、ディーゼルエンジンの課題である排ガス中の粒子状物質(PM)を抑制するフィルターと、尿素水溶液によりNOxを除去する「AdBlue(アドブルー)」などを装備。世界的に見ても厳しいとされる日本の「平成21年排出ガス規制」(ポスト新長期排ガス規制)にも適合しているという。
スペック的には2.0Lの直列4気筒ターボで、最高出力190ps/3500rpm~4000rpm、最大トルク400Nm/1900~3300rpmとかなりパワフル。気になる燃費性能は20.6km/L(JC08モード)と優秀だ。
パサートTDIは、現行型パサートが15年7月に日本で発売された際に、早期の導入が予告されて盛り上がっていたのだが、これに水を差したのが15年9月に北米で発覚したVWのディーゼル排ガス不正問題だ。
厳しい排ガス基準をクリアするために不正なエンジン制御プログラムを用いたもので、その後、VWグループ全体を巻き込む大問題へと発展。ディーゼルモデルが設定されていない日本の販売にも影響を及ぼし、VWは長らく維持してきた日本市場輸入車販売No.1の座を明け渡した。
この不正が行われたのは旧世代のディーゼルエンジンに対してで、今回導入されたパサートTDIのエンジンは新世代。パサートTDI導入に際して来日した独VWのエッケハルト・ポット先進ディーゼル開発部長によると、この新世代のTDIエンジンは16年導入予定だったもので、すでに欧州では展開中のものという。
なぜこのタイミングでディーゼルなのか
VWは日本でプラグインハイブリッド車(PHEV)と電気自動車(EV)の導入を進めており、将来の電動化プランも発表している。それだけに、不正問題のイメージも薄れ販売が回復しつつあるこの時期に、今更TDIを導入する必要があるのだろうかという疑問が生まれる。
実は電動化プランにはEVだけでなくハイブリッド車やPHEVも含まれるため、高効率で環境負荷の低いエンジンの開発は必須。また極端にEVにシフトすると、バッテリーやモーターなどの供給・資源不足を生じる可能性もある。
また、ガソリンを精製するときに軽油も精製されるので、これを使う必要からもディーゼルエンジンが必要だという。ガソリン車ばかりにすると軽油は使われないで残り、余った軽油を輸出すれば結果的にエネルギーコストの上昇や、環境負荷の増加を招くからだ。
こうしたことから「ディーゼルエンジンを廃止した場合、CO2削減はより難しくなる」という。さらに、「ガソリンやディーゼルエンジンにもまだ技術的な伸びしろがあり、今後、各国から出てくるもっと厳しい環境基準にも適合していけるだろう」と、環境性能に優れたディーゼルエンジン開発の重要性を強調する。
また、ポット部長は「ドイツ国内でガソリンの2.0TSIとディーゼルの2.0TDIの実燃費を比較すると、ディーゼルのほうが20%ほど良い」例があることと、「低回転域を多用するディーゼルは燃料消費が少なくなるだけでなく、CO2の排出も少なくて済む」とメリットを挙げた。
短時間ながらパサート ヴァリアントTDIに試乗してみたが、エンジンフィールはガソリン車に近くかなり滑らか。低回転から400Nmのトルクを発生するため加速もよく、思った以上にスポーティーさがあった。上質さが高められた現行型パサートとのキャラクターにも良く似合うと感じた。アイドリング時にディーゼルらしい音が出るものの、音量は小さめだったのも印象的だった。
BMWのSUVはディーゼルが人気
日本市場でもクリーンディーゼル搭載した輸入車は全体の20%を超えており、ニーズは高まる傾向にある。つまり今回、VWがディーゼル導入に踏み切ったのは、今後を期待してのことだ。今、人気の高いSUVなら、低回転で高トルクが得られるクリーンディーゼルの強みがより生かせる。現にBMWのSUVは圧倒的にクリーンディーゼルが人気という話もある。このためVWもティグアンやトゥアレグのディーゼルモデルを導入してくる可能性は高い。ただし、小さな排気量のディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比べた時のメリットが小さくなるため、2.0L以上が基本となるようだ。
近い将来「ゴルフTDI」登場ということも十分にあり得る。ディーゼルの未来は、決して暗くないと感じるのである。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット2018年3月7日公開記事を再構成]
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