恋愛に「正しさ」求める矛盾 相次ぐ不倫批判に思うダイバーシティ進化論(水無田気流)

2018/3/23
画像はイメージ=PIXTA
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ホワイトデーのころ、ハートマークだらけの商品棚を見ながら考えた。

日本記念日協会によると、2018年のバレンタインデーの推計市場規模は約1300億円。17年のハロウィーンの推計市場規模(約1305億円)を下回った。「若者の恋愛離れ」の証左ともされるが、18年のホワイトデーの推計市場規模は約530億円。バレンタインデーと併せて約1830億円規模の市場と考えれば、依然小さくはない。

ただその内実は「友チョコ」や「自分チョコ」、さらには女子だけで楽しむ「ギャレンタイン(ギャル+バレンタインの造語)」まで登場と、恋愛消費市場には収まらず、質的転換を遂げてきているように思える。

日本では、1980年代にデートマニュアルやムック本の隆盛など恋愛関連の行動が急速に消費市場化したが、バブル崩壊をきっかけに急速にトーンダウン。恋愛消費市場の変化を後押しする時代の機運を強く印象づけられたのは、私見では俵万智氏の不倫を題材にした歌集「チョコレート革命」(97年版)である。

表題作「男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす」は、まさに日本型バレンタインデー消費の贈答儀礼にかけて、社会的属性に拘泥する男性への愛憎を描いた歌。

他にも「日曜はお父さんしている君のため晴れてもいいよ三月の空」「妻という安易ねたまし春の日のたとえば墓参に連れ添うことの」という風に、女性の個人化や自立志向がうたわれてもなお残存する、乗り越え困難な家族規範と恋愛感情の矛盾を鋭く突いた作品が並ぶ。

ところで、「若者の恋愛離れ」が嘆かれる一方、ここ2年ほど不倫バッシング報道がかまびすしい。両者は「適切な時期に(互いに未婚の)適切な相手と、(法律婚など)適切な手続きを経る手段としての恋愛」以外は倫理的に許されるべきではないという、「正しい」恋愛規範を共有しているように見える。

そもそも恋愛は、階級をはじめとする個々人の社会的属性を越えた情緒的結びつきを可能にする点で、社会秩序の維持に阻害的に働く要素を持つ。近代社会は、結婚制度への「安全な」組み込みという形で、恋愛の「無害化」を志向してきた。だがこれは、大いなる矛盾ではないのか。もっとも、山と積まれたホワイトデーの菓子を前に、こんな思索は無駄とは思うが。

水無田気流
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。

[日本経済新聞朝刊2018年3月12日付]

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