ドラレコ映像は事故処理にどう役立つ? ケースで学ぶ
2017年の国内交通事故は47万2165件。事故後の処理は非常に面倒で、裁判沙汰になってしまうことも多い。事故の一部始終を録画する「ドライブレコーダー(ドラレコ)」があれば、こうした事故処理が劇的にラクになる。交通事故の処理でドライブレコーダーはどのように役立つのか。Q&Aも交えて、事故処理の流れとともに解説する。
17年10月に話題になった「東名高速あおり運転」の死亡事故が起きたのは、同年の6月。そこから過失運転致死傷と暴行の容疑で被疑者が逮捕されるまでに4カ月もかかっている。被疑者が事故への関与を否定し、過失を証明する直接証拠が乏しかったためだ。警察は付近を通っていた260台以上の自動車を割り出し、目撃証言やドライブレコーダー映像などの証拠を収集。ようやくあおり運転の事実を突き止めた。
このように、当事者(特に加害者)が正しい証言をしないと、交通事故の解決にはとても時間がかかる。これに対して、ドライブレコーダーがあれば、さまざまなケースで事実関係がすぐに明確になる。東名高速あおり運転事故でも、被害車両にドライブレコーダーが付いていたら、もっと早く解決していたかもしれない。
交通事故が起きると、まず警察が実況見分をして、当事者の主張や車体の傷などからわかる事実を調書にまとめる。これを基に、通常は保険会社を通して示談交渉が行われ、過去の判例を参考にしつつ「過失割合」が決まる。
問題なのは、事故当事者の見解が食い違い、証言以外に有力な証拠がないとき。人間の記憶は意外に曖昧なので、悪気がなくても「相手が信号を無視して突っ込んできた」などと誇張して表現しがちだ。双方が対立して水掛け論になると、事故処理は長期化。最終的に裁判になることもある。
しかしドライブレコーダーの映像があれば、信号表示や車両の速度、目撃者の有無など、基本的な事実関係が明確になる。また、「映像だけでなく音声も重要な証拠。当事者が安全確認をしていたかなども確認できる」(警視庁)。
相手が自分の過失を認めなくても映像に映っていれば一目瞭然。「従来なら数カ月かかっていたような事故検証が、映像のおかげで数日で決着したこともある」(損害保険ジャパン日本興亜の原田征己氏)。保険会社には録画データを分析する担当者がいて、「当事者が何メートル手前からハンドルを切り始めたか」など、映像に直接映っていない事実関係も、ある程度割り出すことができる。
このほか、ひき逃げや当て逃げのように相手の車両が逃走したケースでもドライブレコーダーは有効だ。犯人や車両の特徴が録画データからわかれば、警察の捜査に役立ち逮捕につながる。
自分が事故に遭って、ドライブレコーダーの映像を役立てたいときは、事故を担当した警察(交通捜査課など)や契約する保険会社の担当者に録画データを提供する。ただ事故内容によっては、映像の提供で自分がむしろ不利になることもある。裁判所の文書提出命令などを除けば録画データの提供は任意なので、自信がないときは交通事故に詳しい弁護士などに事前に相談するのが賢明だ。
以下、Q&A形式でより詳しく説明する。
A.信号の色や自車の速度が映像で一目瞭然に。
ドライブレコーダーは衝撃を検知するセンサーを内蔵し、事故の前後15秒程度の映像を自動的に録画する。信号の色や相手車両の速度などは一目瞭然。10m以内の距離であれば、通常はナンバープレートも読み取れる。一般的なビデオカメラより撮影範囲が広いレンズを搭載しているため、出合い頭の事故でも、ある程度相手の自動車を撮影可能だ。また、加速度やGPSなどのセンサーによって、経緯度や自車のスピードを同時に記録できる製品も増えている。
警察や保険会社には、ドライブレコーダーの映像を分析する担当者もいる。例えば、信号が前方車両の陰に数秒間隠れたとしても、前後のデータを基に走行時の信号表示を割り出せることがある。
A.交渉や裁判を短縮できる貴重な証拠となる
証拠が少ない示談交渉では、当事者の言い分が対立して過失割合がなかなか決まらないことがよくある。目撃者の証言集めや実況見分のやり直しなどをしていると、事故処理は長期化。映像で双方が納得できれば、そうした手間が省ける。なお、保険会社や警察への映像提供は義務ではない。自分が有利になるかどうかが不明なときは、弁護士などの第三者に相談してから決めてもよい。
A.「相手の過失」を認めさせ、自分への嫌疑を晴らせる
CASE1は高速道路を走行中に、急加速で合流してきた自動車を避けるためにハンドルを切って事故に遭ったケース。ナンバープレートなどを覚えて、飛び出してきた自動車を特定したとしても、接触していなければ事故への関与を証明するのは難しい。「単独(自損)事故」になると、修理代などは全額自己負担になってしまう。
CASE2は駐車場をゆっくり進んでいたところ、相手の車両が急にバックしてきて接触したケース。双方の自動車が動いていた場合は、通路の自動車が優先なので「自分3:相手7」が基本過失割合となる。ただし、相手が「一時停止したときに突っ込まれた」と、過失を否定することがあり得る。こちらの徐行を証明するのは難しい。
CASE3は信号のない交差点で出合い頭に衝突したケース。相手側に一時停止の規制がある交差点であればこちらが優先なので、双方が同程度の速度だった場合の基本過失割合は「自分2:相手8」となる。ただし、相手が「猛スピードで右から自動車が出てきた」などと、こちらの過失を主張すると、示談交渉は長引くかもしれない。
(日経トレンディ編集 大橋源一郎)
[日経トレンディ2018年4月号の記事を再構成]
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