2000年に関西フィルの正指揮者に就任した藤岡さんは「東京以外の街のオーケストラ」と一緒に仕事をすること強く望んでいたという。
「英国に留学して、ヨーロッパにかぶれてもう絶対に日本に帰ってこないと思っていた。ところがいざ行って外から見た日本は、やっぱり素晴らしい国だと思った。マンチェスターに住んでいたけれど電車が時刻表通りについたことなんかないし、びっくりするくらいいい加減。日本のすべて、食生活でも経済でも、日本人にとって当たり前のことがすごい事なんだと気づかされた。ただ、一つだけおかしいと思ったのは、何もかも東京に集中しすぎていること。これは絶対に間違いだと思う」
実際、国内には日本オーケストラ連盟に加盟している正会員と準会員のプロのオーケストラが36団体あるが、このうち東京に拠点を置くのは11団体。定期演奏会の会場も東京23区内に集中している。「クラシックの世界も、なんでもかんでも東京というのが続いているうちはダメだと思って、東京以外の街のオーケストラとやっていきたいって思ったときに関西フィルと出合った。だから我々にしかできないことをもっとやっていきたい。一介の指揮者にすぎないけれど、それが日本という国の発展のためにもなる、という思いで関西フィルとの活動に全力を挙げてきた」
■現代作曲家の交響曲初演に挑みチケット完売
2007年には関西フィルの首席指揮者となり、今では多いシーズンは年間50回以上の演奏会を指揮する。「演奏会のプログラムは全て違うので楽団員とは1年のうち100日以上一緒にいる関係。よく続いているなと思う」。指揮者に就任した当初は厳しい財政状況にも直面した。国内のオーケストラのほとんどは、演奏活動による収入に加え、国や地方自治体からの助成金なしには運営がままならない状況だ。
そこで藤岡さんは自らスポンサー集めにも奔走した。今ではダイキン工業を中心に、阪急電鉄やサントリーホールディングスなど、地元の有力企業の支援を取り付け、黒字が続く。「スポンサーにしても企業にしても、ただすばらしい音楽を演奏するので応援してください、ではダメ。関西フィルの強みや、どれくらい集客力があるのかを明確にしないと支援してもらえないので、どうお客さんを増やし、スポンサーを増やすか相当考えてやってきた。より多くの方に聴いていただけるようにすれば、新しいことにもチャレンジできる」
クラシックファンの裾野を広げるため、本拠地大阪での定期演奏会以外の公演を数多く行う。自治体や企業からの依頼を受け、周辺の都市でも小規模の演奏会を重ねてリピーターを増やす作戦だ。「日本はコアなクラシックファンは世界に比べても結構いる。ところが気軽にクラシックコンサートに足を運ぶお客さんが少なすぎる。そういう層をいかに増やすかがとても大切だと思う」