2018/3/10

ビジュアル音楽堂

本拠地以外のコンサートは比較的とっつきやすい演目を選び、より楽しんでもらえるよう自らのトークも必ず入れる。一方、本拠地での演奏会で力を入れているのが、新しい作品の演奏だ。

関西フィルハーモニー管弦楽団を指揮する藤岡幸夫さん(1月19、大阪市のいずみホールでのリハーサル)

「新しい作品をどんどん演奏していかないといけないと思っている。ただ、現代音楽はクラシックに比べて難解。もっと分かりやすく、聴きやすい調性のある作品を書ける作曲家は、映画音楽やドラマ音楽の世界に大勢いる。そういう人たちにクラシックの作品を書いてくださいと頼んでいる」。16年にはテレビドラマやCM、映画などの音楽プロデュースで知られる菅野祐悟さんに交響曲を依頼し、「初演でチケットは完売。立ち見まで出て大成功だった」という。ほかにも千住明さんや大島ミチルさんなどとも新しい作品づくりに力を入れている。

新しい作品にこだわるのには、師と仰いだ指揮者の渡辺暁雄氏の言葉がある。「我々音楽の世界の人間は、ベートーベンやブラームスといった過去の作曲家のおかげで飯を食っている。その恩返しを今の作曲家にしないといけない、と渡辺先生はよく言っていた。10年間、新しい作品を発表し続けて、1作品でも世に出ればもうけもんです。でもやらないと絶対に生まれない。そういう意味で僕はすばらしい才能の作曲家の協力も得て、他の楽団では演奏しないような作品を演奏し続けたい。そうすることでいつか、本当にすごい作品が生まれることを願う」

本拠地大阪で奏でるベートーベン「田園交響曲」

新しい作曲家や演奏家の紹介は、自ら司会し、毎週関西フィルと登場するBSジャパンの音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(毎週月曜午後11時放送 4月から毎週土曜午後11時半放送に変更)でも積極的に行っている。長年の目標だった「関西フィルと出演する全国放送のレギュラー番組」も、放送4年目を迎えた。「作曲家の方たちにも出演していただいていて、新しい作品を紹介する番組は珍しいと思う。いままでになかったような音楽番組をつくりたい」

関西フィルとの演奏は藤岡さんにとってライフワークとなり、終わりはない。今の目標は、関西フィルを日本中のどこへ行ってもチケットが売れるオーケストラにすることだという。「たまに東京などに行くけれど、定期的な演奏会はない。演奏旅行で全国をめぐる楽団にするためにはどうしたらいいかと常に考える。逆に東京から新幹線に乗ってでも、『藤岡関西フィル』を聴きたいというお客さんも増やしたい。関西フィルならでは、藤岡ならではというものに、どんどん磨きをかけていきたい」と抱負を語る。

今回の映像では藤岡さんが関西フィルを指揮してベートーベンの「交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』」を練習するリハーサル風景を捉えている。鳥のさえずりや小川のせせらぎが聞こえてきそうな標題音楽の性格を持つ「田園」は、古典派からロマン派への時代の幕開けを告げる作品だ。しかしフランスの作家ロマン・ロランが著書「ベートーベンの生涯」で指摘したように、すでに難聴に苦しめられていたベートーベンが耳を傾けていたのは、心の中の田園の響きだったといえる。東京ではないにしても、やはり大都会の大阪のただ中で奏でられる「田園」も、来場者一人ひとりの心の中に自然への憧れを生まずにはおかないだろう。そんな豊穣(ほうじょう)な響きを第5楽章「牧人の歌、嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」の映像から感じ取っていただけたらと思う。

藤岡さん自身は東京で生まれ育ったが、母親は関西出身で「ふるさと納税っていうのがあるけれど、息子を関西に納めました」というのが口癖だったそうだ。「母親の遺言なので、僕は大阪に納められた、という強い思いでこれからも関西フィルと関西に心血を注いでいく」。藤岡さん率いる関西フィルの型にはまらない音楽活動は、地方都市発の新たなオーケストラのあり方を示してくれそうだ。

(映像報道部 槍田真希子)