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とろける脂、和食に合う「国宝豚」 ハンガリーで復活

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NIKKEI STYLE

「食べられる国宝」と呼ばれる豚がいるのをご存知だろうか。東欧ハンガリー固有の豚、マンガリッツァ豚だ。約200年前、ハンガリー周辺地域に生息する豚の交配により誕生したといい、全身が巻き毛で覆われた珍しい品種で脂肪率が世界一高い豚と言われている。

サラミやラード(脂)などの原料ともなり、第二次世界大戦までは数百万頭の規模で飼育されていたが、1970年代にはほぼ絶滅。しかし、共産主義から共和国へと体制が転換した後、1991年に同系統の豚であるイベリコ豚の産地スペインの協力によって復活を果たした。

その希少性から、2004年にハンガリーの国会はこれを「国宝」に認定。飼育頭数が約5万頭まで回復した現在は、すべての豚が血統証明書と原産地証明書付き。マイクロチップをつけて厳密に個体管理しているという。

「肉の周りだけでなく、神戸牛のように肉全体にサシが入っているのが特徴なんです」と教えてくれたのは、ハンガリー大使館の料理長、ラーツ・ゲルゴーさん。同系統のイベリコ豚よりも豚特有の臭みがないという。

「脂に甘味があるから、和食の調理法に合うんです。日本の料理って砂糖を使ったりして、後味が少し甘い。サラミやソーセージなんかも甘いと感じます。だから、マンガリッツァが合うんですよ」

ゲルゴーさんは、自宅でこの豚を使って照り焼きを作ったことがあるそう。ただし、通常照り焼きのたれに入る砂糖は使わず、しょうゆ、みりん、日本酒だけで味付けをした。「マンガリッツァに十分甘味があるから、砂糖はいらない。それでパーフェクト」。たっぷり野菜を添えて食卓に出すと、家族も大満足だったそうだ。

運よく大使館のレセプションに出る機会があり、マンガリッツァを食べた。「こんな風にも使えるんだと見せたかった」と、あえてこの肉を使った料理としてゲルゴーさんが選んだのは、中華の角煮風料理。隠し味はバルサミコ酢だ。見るからに脂たっぷりの一口大に切られたバラ肉を食べると、溶けるように口の中でなくなった。

マンガリッツァの脂肪は常温で溶けるほど融点が低いのだ。大きな塊で調理してから小さくカットしたという肉は、しっとりとして肉汁であふれ、甘い脂とバルサミコ酢のほんのりとした酸味とコクが混ざり合う。「パーフェクトマッチ」とゲルゴーさんが胸を張っていた通りの味だ。

レセプションには、マンガリッツァを使ったソーセージも出されたが、こちらも驚くほどすっと口の中で溶けるようになくなり、ソーセージとは思えないほど。旨味も強い。

本場ハンガリーではどんな風に調理したマンガリッツァが人気なのかゲルゴーさんに聞いてみると、「実は、僕が初めてマンガリッツァを食べたのは、日本のハンガリー料理店なんです」と苦笑い。

「今では、一部のスーパーでも買えるようになったけど、やはり特別な肉だと思う。僕は39歳だけど、実家のテーブルに『マンガリッツァ』が並んだ覚えはないんです。祖父はおいしいものが大好きだったので、もしかしたら食べていたかもしれないですけどね」。マンガリッツァが一時、いかに絶滅の危機に瀕していたかが、しみじみと感じられた。

海なし国で肉料理中心のハンガリーでは、マンガリッツァだけでなく豚肉全般がポピュラーな食材だ。それではと、ゲルゴーさんがこれぞと思う豚肉料理を教えてとお願いすると、意外なことに「ハンガリーでは12月がソーセージの季節でね」と話し始めた。

「この季節、田舎では朝4時頃になると、豚の悲鳴が聞こえるんです。それが止むと今度は人々の笑い声が聞こえて、ダンスが始まる。豚を解体して、肉をはじめすべての部位をきれいに掃除、カットしてソーセージなどを作るんです。豚を飼っている人の、大きなファミリーイベントなんですよ。親族や友人を呼んでね。解体技術がない人はできる人に頼む。それで、ソーセージにベーコン、ラードなどを作ります。僕も解体を含めすべての作業を手がけたことがありますよ」

「ソーセージの季節」に作る品々のうち、特にすばらしいのが「ディスノーシャイト」(ポークチーズの意味)と呼ばれる一品らしい。レバーや腎臓、ほほ肉、豚の皮などを胃に詰め込んだものだ。

味付けはシンプル。ニンニク、塩、そしてパプリカパウダーだ。「ある意味、豚のテリーヌみたいなものかな。でも、どうしてすばらしいのかは聞かないでくださいね。とても人気があって、とにかくおいしいんです」

ディスノーシャイトに使われるパプリカパウダーは、最も特徴的なハンガリーの食材といっていい。なんでも「ほとんどすべての料理に入れる」(ゲルゴーさん)らしいのだ。日本料理の味噌やしょうゆのような位置付けだという。パウダーだけでなく、生、マリネなどと家庭には様々なパプリカ食材が常備されている。

「旬を迎える6月から9月にかけて市場に行くと、最低10種類はパプリカが並んでいます」。ゲルゴーさんの祖母は、自家製パプリカパウダーを作っていて店で出来合いを買ったことは一度もなかったと言う。天日干しで作るのだろうか、ものすごく手間がかかっているなと、後でYouTubeを見るとオーブンで生パプリカを乾燥させて作る動画があった。なるほど。出来合いとは異なり、さぞ風味が豊かなパプリカパウダーなのだろう。

「祖母は新鮮なパプリカが出回らない時期のために、夏の間にマリネを作って瓶に保存したものです。そうすると、いつでも一番おいしい時期のパプリカが料理に使えて、味に深みを与えてくれるんですよ」

ハンガリーには長時間煮込む料理が多いのだが、子どもの頃、ゲルゴーさんはこうした煮込み料理に使われるパプリカは嫌いで近寄りもしなかったそうだ。「生野菜は大好きだったんで、生のパプリカはよくカリッとかじってたんですけど」。でも、料理人となった今は、ハンガリー料理も自分が好きな野菜の食感を残し「ゲルゴー流」に仕立てる。

「ハンガリー版ラタトゥイユと言われる『レチョー』という料理があるんですけどね。パプリカ、トマト、タマネギ、ニンニク、ベーコン、ソーセージなどを合わせた代表的料理の一つなんですが、初めて作ったのは料理人として働き始めてからなんです」とゲルゴーさん。

大きなパーティーのために上司のシェフに作るように言われ、シェフに味見をしてもらったところ、厨房の仲間を呼び、パーティーに出す前にみんなで全部たいらげるほど気に入られたそう。「うれしかったけど、また全部作り直さなきゃいけなかったから、もう大変」と笑みを浮かべながら当時を振り返る。

「僕が料理人になるきっかけは、やはり料理人だったいとこなんです。子どもの頃、彼が僕の家で、ハンガリーの定番スープや豚足のシチューを作ってくれて。キッチンで働く彼が魔法のように次々とすてきな料理を出してくれるのを見て、料理の道に進もうと思いました」

ちなみにいとこが作ったスープは、日本人にも馴染み深い牛肉や野菜がたっぷり入ったパプリカのスープ、グヤーシュの肉なし版。「ハミッシュ・グヤーシュ(偽グヤーシュの意味)」と呼ばれる。

グヤーシュは比較的知られているものの、ハンガリー料理や食材を挙げてみてといって、即答できる日本人は多くないだろう。でも、実は日本の輸入フォアグラはハンガリー産が約8割を占め、鴨肉もハンガリー産がよく使われている。

「長野のあるおそば屋さんに入ったとき、お店の方から『うちの鴨はハンガリー産なんです』と聞いて嬉しく思ったことがあります」と駐日ハンガリー大使、パラノビチ・ノルバートさんは話す。実は、冒頭に紹介したマンガリッツァは日本でも北海道などで飼育され始めている。これからはハンガリーの食を、日常の中でもっと目にするようになるかもしれない。

(フリーライター メレンダ千春)

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