会社を退職ではなく、「卒業」する人が増えるわけライター 猪瀬聖

退職者も「出戻りOK」の時代に

転職の理由も、リストラなどやむを得ない理由だけでなく、キャリアアップやワークライフバランスの実現という前向きなものも目立つ。また、リクルートの例のように、入社前から、何歳までに転職あるいは起業するという目標を立て、会社を目標を実現するための学びの場と捉える若手ビジネスパーソンも少なくない。彼らにとっては、転職や独立はまさに卒業を意味する。

こうした社会や個人の意識変化に伴い、「転職を身近に、かつ、人生の新たなチャレンジとしてプラスのイメージでとらえる人たちが増えている」と、藤井さんは指摘。そして、その結果、「会社を辞める際に、人生の次のステージに進むことをイメージさせる卒業という前向きな言葉で、退職を表現するようになっているのではないか」と推測する。

転職や中途退社のイメージが大きく変わったのは、企業が転職などで辞めた元社員とのつながりを重視し始めたことも大きい。

コニカミノルタ 出戻りもOK

一例が、転職やビジネススクールへの留学などを理由に退職した元社員を、再雇用する動きの広がりだ。出産や育児を理由に家庭に入った元女性社員を再雇用する企業はこれまでもあったが、キャリアアップを目的に自ら会社を飛び出した元社員の再雇用に積極的な日本企業は、これまでは珍しかった。最近では、コニカミノルタが昨年12月に「ジョブ・リターン制度」を導入するなど、大企業の中にも、有能な退職者の出戻りを認め、歓迎するところが増えている。

企業が出戻り社員を歓迎し始めているのは、出戻り社員が新たな知識やアイデアを社内にもたらし、イノベーション(技術革新)を起こす可能性を高めてくれるからだ。イノベーションは今や、企業が成長し続けるための重要なキーワードとなっている。

一方、辞める側も、元の会社と良好な関係を維持しておいて損はない。企業間の垣根を越えた技術開発やマーケティングが盛んになっている今は、いつ、どこで再び一緒に仕事をすることになるかわからないからだ。奥山さんは今でも、元の会社の仲間とよく食事をしたりするという。このあたりも、卒業生が同窓会やクラス会を開いて昔の仲間と旧交を温めるのに似ている。

転職サイト「リクナビNEXT」の藤井薫編集長は、「イノベーションを起こす力が求められるこれからは、企業にとってもビジネスパーソン個人にとっても、社内外を問わず、人同士のつながり、すなわち関係資本を強化することが非常に重要になってくる」と指摘する。

会社を辞める人たちの「卒業します」という言葉には、互いに「これからもよろしく」という意味が込められているのかもしれない。

猪瀬聖
慶応義塾大学法学部卒。米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修了。日本経済新聞社編集局生活情報部、同ロサンゼルス支局長などを経て、現在はフリーライター。キャリア、マイノリティー、米社会、ワインなど幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ)、『仕事のできる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。

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