検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

イケメンピアニスト大井健がビジュアル戦略

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ピアニストの大井健(たけし)氏が2月14日に初の映像作品を出した。自作の作曲過程や私生活のドキュメンタリーと、演奏シーンという内容。2015年のメジャーデビュー以来、テレビCMへの出演や「鍵盤の貴公子」のイメージで女性ファンを増やしてきた。演奏家にとって「ビジュアル」はどんな意味を持つか。バレンタインデーのリサイタル直前に話を聞いた。

バレンタインデーに押し寄せる女性ファン

2月14日のバレンタインデーに開かれた「大井健ピアノ・ラブ・ザ・ムービー・プレミアムコンサート」。会場のハクジュホール(東京・渋谷)は全300席がほぼ満席。見渡す限り、幅広い年齢層の女性客で埋まった。貴公子然とした華麗なピアノ演奏、甘いマスクにスマートな身のこなし、それに軽妙な語り口。絵に描いたような「かっこいいピアニスト」の姿が現前する。クラシックには珍しいトーク入りの公演に観客は聴き入り、「貴公子」を見つめ、笑いを漏らし、拍手喝采する。

公演後、同日発売となった大井氏初の映像作品「ピアノ・ラブ・ザ・ムービー~ミュージック・ドキュメンタリー・フィルム~ブルーレイ」(発売元 キングレコード)の特設売り場に女性ファンが押し寄せた。CDやブルーレイ・ディスクを購入した客がサイン会のために長い行列をつくり、大井氏と対面して握手を交わす。「これを受け取ってください」とプレゼントを持参した女性客。ファンレターとチョコレートの山が築かれていく。

15年7月にCDアルバム「ピアノ・ラブ」をキングレコードからリリースしソロメジャーデビューした。これまでにCDを2枚出し、今回の映像作品が3作目。「『ピアノ・ラブ』というコンセプトで進めてきた音楽活動の集大成にしようと思った」と大井氏は語る。なぜ映像作品なのか。「メジャーデビュー後初めての全国ツアーが17年に実現した。自作を含めアルバムに収めた曲をたくさん弾いたが、多くのお客さんから演奏のライブ感が気に入ったとの声が寄せられ、ぜひ映像作品を作ってほしいという要望をもらった。自分でも新たなチャレンジとして映像作品を残したいと考え、取り組むことにした」と説明する。

初の映像作品は演奏シーンとドキュメンタリー

映像作品は東京都庭園美術館(東京・港)での生演奏と、新曲ができるまでの大井氏の私生活などを密着撮影したドキュメンタリーによる2部構成。「ピアノ・ラブ」のCD2枚からの人気曲と新曲、CD未収録のクラシック作品を弾いた。ピアニストの映像作品にはコンサートを丸ごと収め、リハーサルのシーンが少し入るパターンが多い。これに対し大井氏は「庭園美術館でコンセプチュアル(観念芸術的)なスタイルで映像を撮り、アートな雰囲気にしたかった」と言う。さらには「ピアニストが普段どう考え、どんな練習をしてコンサートに臨んでいるか、皆さんが興味を抱く内容をドキュメンタリータッチで収めた」と説明する。

これまでもファンからはもっと近くで演奏を見たいという要望が多かったという。「テレビに出演する際には演奏シーンを寄りで撮ってもらうが、コンサート会場ではお客さんが僕の演奏を近くで見られない」ため、様々な角度からの映像で臨場感を出すことにこだわった。そして映像美。「庭園美術館の外にある木々の自然な色彩と、人工的な建物の中にある人工的なピアノ。その対比と調和をうまく捉えている。映像の美しさを楽しんでもらいたい」と話す。

「ファン必携の映像」とのことだが、そもそも大井氏の人気に火が付いたきっかけも映像としてのテレビCMだ。16年11月にソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「エクスペリア」のCM「だから私は、Xperia。」に出演した。ピアニストとしての自己紹介が中心の自然体の映像だが、話題となり、CDやコンサートと相まってファンが急増した。

今や「イケメンピアニスト」と呼ばれ、人気が沸騰している大井氏だが、彼のタレント性は一朝一夕に生まれたわけではない。20代の新人にも見えるが、1983年生まれの34歳という中堅の域に入ったアーティストだ。3歳からピアノ教師の母親の手ほどきでピアノを習い、幼少期を英独で過ごした。ドイツロマン派初期の作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの子孫に当たる教師から直接ピアノを習ったという。

オペラ歌手グループのピアノ伴奏を務めた10年間

帰国後、国立音楽大学付属高校から国立音大音楽学部器楽科ピアノ専攻に進学。同大学を卒業後、ただちに男性オペラ歌手5人組のグループ「レジェンド」の専属ピアニストになり、10年間にわたり彼らの歌のピアノ伴奏を担当した。「コレペティートル」と呼ばれ、歌劇場でオペラ歌手やバレエダンサーの稽古のために、オーケストラの代わりに伴奏するピアニストとしての仕事だ。異なるのは、5人組とともにピアノ伴奏でそのまま本公演をすることだった。歌手たちとピアノ伴奏によるカジュアルなステージを繰り広げた。

「『レジェンド』が提唱するコンセプトは、歌劇場をもっと身近にしようということ。彼らはもちろんオペラアリアを歌うが、演歌や民謡もオペラ歌手の発声で楽しく聴かせる。そこからオペラの世界に入ってもらう姿勢に共感した」。ソロ活動に入ってからも「レジェンド」の伴奏ピアニストとしての経験が生きる。「クラシック音楽はどこか閉鎖的で難しいと思われがちだ。それをもっと分かりやすく、身近にする方法を『レジェンド』から学んだ。日常生活の延長線上でピアノを楽しめるコンセプトを念頭に置き、『ピアノ・ラブ』のタイトルを掲げてCDや映像作品に取り組んできた」という。

大井氏は現在、ソロに加えて「鍵盤男子」と呼ぶピアノデュオの活動もしている。作曲家の中村匡宏氏と組み、オリジナル曲を中心に速い超絶技巧のピアノ演奏を2人で披露している。17年にCD「ザ・フューチャー・オブ・ピアノ」でワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビューした。

最初の一歩を示すピアニストが必要

大井氏は音楽家として自らを「クラシック音楽の世界に入りたい人たちの最初の一歩になるピアニスト」と位置付けている。「僕のファンにはクラシックを僕から知った人たちがたくさんいる。クラシックは入れば入るほど広大に続く深い森のようだが、最初の一歩を示すピアニストが必要だ」と説く。このためコンサートでは「どこかで聴いた覚えのあるクラシック音楽を織り込みながら、自作も交え、その中に通好みの珍しい曲も入れていく」。コンサートが終わる頃には「お客さんのクラシックの知識が少しでも増えている状況を目指し、プログラムを組んでいる」。コンクール受賞歴や世界的活躍を売り物にする風潮がある中で、「最初の一歩」のピアニストを自任するのは潔くも自然体の姿勢だ。

演奏の腕前はどうか。ハクジュホールでのバレンタインデーのコンサートでは、自作に加え、ショパンやリスト、ドビュッシーの名曲を難なく弾きこなしていた。中にはショパンの「ノクターン第13番ハ短調作品48の1」のような中間部で激しいフレーズが続く難曲もあったが、リズムが分かりやすく流麗な弾き方が特徴だ。彼の自作はポップでロマンチックな曲が多いので、全体を通してカジュアルなサロン風の雰囲気も醸し出している。しかし「最初の一歩」の入門編としては、軽やかに流れるような、推進力のある演奏の方が聴きやすいのだろう。ピアノデュオ「鍵盤男子」のコンサートではより高速の難しいテクニックを披露しているようだ。

ワーグナーのオペラにビジュアルの意義をみる

2月14日に撮影した今回の「ビジュアル音楽堂」の映像では、大井氏がバレンタインデーのコンサートに向けてショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)」と「同13番ハ短調作品48の1」を弾くリハーサルの様子を捉えている。映画「戦場のピアニスト」で有名になり、フィギュアスケートでも使われることがある人気曲「ノクターン第20番」には、滋味のあふれる名演や名盤がいくらでもある。大井氏の演奏は個性的な緩急や強弱のアーティキュレーション(表情付け)を含みながらも、平易な聴きやすい表現といえる。「同13番」は大井氏にとって特に思い入れのある曲のようだ。しかし自作を含む大きな「組曲」のような本公演の中でこの2曲を聴くと、曲の持つ独特の陰影と哀愁のイメージが相対的に強く浮かび上がってくる。彼の解説トークも入るので、初めて聴く人には忘れ難い印象を残すだろう。

ユニークなプログラム構成でコンサートに臨む大井氏だが、ビジュアル面にも力を注ぎ、さらに独特のピアノ世界を築こうとしている。音楽家にとってビジュアルの意義は何か。彼がまず挙げたのはワーグナーだ。「ワーグナーはオペラを音楽と文学と美術による総合芸術と考え、『楽劇』を創始した。テクノロジーが発達し、今の総合芸術を担っているのは映画だと思う。視覚と聴覚の両方に訴える映像作品は芸術としての可能性が大きい」と主張する。ワーグナーの総合芸術の要素を大井氏の活動に当てはめれば、作曲とピアノ演奏(音楽)、トーク(文学)、ビジュアル(美術)となるのだろう。最近のワーグナーのオペラ公演には、演技を伴わない演奏会形式もある。しかし演出と舞台装置にも趣向を凝らした「総合芸術」として上演すればインパクトは大きい。

例えば、2月17日付「ビジュアル音楽堂」で稽古の様子を取り上げた東京二期会のワーグナー「ローエングリン」。映画監督・深作健太氏の演出で話題になった。深作氏は1997年に新国立劇場(東京・渋谷)でこのオペラを見て、当時のローエングリン役の福井敬さんを「日本人のテノールにも素晴らしい歌声で演じられる歌手がいると知り、本当にかっこいいと感動した」と語っていた。それが2月24日の東京文化会館(東京・台東)での二期会公演になると、約20年前と同じ福井氏が演じるローエングリンでも、深作氏の演出によって、剣を取らない「非戦のヒーロー」として描かれ、別の強烈な個性を出していた。準・メルクル氏指揮の東京都交響楽団と二期会の歌手らの独唱や重唱が交える立体的で奥行きのある輝かしい音楽と、近代ドイツを想起させる舞台や衣装のビジュアルとの相乗効果は、途方もない迫力となって聴き手の視覚と聴覚を揺さぶった。

映像を通じてクラシックを親しみやすくする

ワーグナーによる総合芸術の美術効果に加え、大井氏がビジュアルにこだわるもう一つの理由は、親しみやすさだ。「最近は動画投稿サイト『ユーチューブ』にアマチュアの人でも自分の演奏する動画をたくさんアップしている。音だけでなく、映像にも触れることでピアノやクラシックが身近になる。そんな思いから自分なりのコンセプトで映像を作りたかった」。そして音楽家を扱った映像作品の理想として挙げるのが12年仏・スイス製作、14年日本公開の映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」だ。現代最高のピアニストといわれるマルタ・アルゲリッチ氏の素顔に迫る映画で、娘のステファニー・アルゲリッチ氏が監督を務めた。「ピアニストにとってアルゲリッチは神様のような存在。アルゲリッチがホテルで『今日は弾きたくないの』とか漏らす場面を見て彼女を身近に感じ、すごく面白かった」。大井氏もこの映画に倣い、素の自分を出そうとしたようだ。

ビジュアルを重視した音楽家として指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤン氏もいる。自身のかっこよさを映像や画像で見せようとし、レコードジャケットでも自らのルックスに細心の注意を払った。「自分のスタイルにあそこまで徹底してこだわるのはすごい」と大井氏は称賛する。カラヤン氏はビジュアル面から一般の人々をもクラシックの世界に招き寄せた。そしてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめ、自ら指揮したオーケストラによる音楽の質の高さによって、多くのファンをクラシックの世界から離れられないようにした。カラヤン氏のビジュアル戦略の功績は大きいといえる。

ピアニストの目線で新鮮な何かを作曲する実験

大井氏のビジュアル戦略には曲の自作自演という特徴もある。作曲にも取り組む理由について聞くと、「ピアニストの目線から新鮮な何かが生まれるかもしれないと考え、実験のつもりで作曲している」と答える。「僕はもともとクラシックにどっぷり漬かってきたが、演奏活動を通じてクラシックをあまり聴かない人たちと話をすると、『音楽家なのになぜ曲を作らないのか』と問われることが多かった」と振り返る。シンガーソングライターやロックバンドのミュージシャンは自分で曲を作るのに、「なぜクラシックの演奏家は作曲しないのか」という「素朴な疑問」を投げかけられた。

クラシック音楽では昨今、演奏家も作曲家もそれぞれの仕事がきわめて専門的になり、両立が難しくなった。演奏技術を習得するだけでも非常に高度なトレーニングを要するため、両者の分業が当然の状況になっている。こうした環境の中で大井氏は「現代に生きるピアニストには、同時代の作曲家の作品を弾いて知ってもらう使命がある。でも作曲家の目線に立つには、やはり自分も作曲しないといけない」と考えるようになった。「自分が弾いてきた曲で培ったテクニックや指の癖が作曲にも出る。ピアニストが作曲したらこうなるという分かりやすい事例になればいい」。6~8月には札幌、名古屋、福岡、大阪、東京の5都市を巡る新たなコンサートツアー「ピアノ・ラブ2018ディパーチャー」を繰り広げる。自作とトークとビジュアル性を含む独自のスタイルでコンサート活動を進めていく考えだ。

最後に抱負について聞いた。「ホロヴィッツやグレン・グールド、リヒテルら20世紀のピアノの巨匠たちには、聴いたらすぐにその人の演奏と分かる音楽性があった。僕はクラシックに加えてちょっとポピュラーな音楽も演奏するけれど、ゆくゆくは『これは大井健だ』とすぐに認めてもらえるような、独自の音楽を目指したい」。「ビジュアル系」のピアニストは、自らの音楽性を一段と高めていくことが最重要課題と心得ている。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_