後輩への助言は一つ 「出産後の両立、何とかなる」
夫婦は共に働き、共に育児や家事をする――。この意識は、ここ何年かで若い世代を中心に随分と普及したのではないでしょうか。なのに、子育て世代がモヤモヤを抱えたままなのは、取り巻くルールが旧時代のままだから? 親になったからと受け身にならず、前向きに自分の人生を切り開こうとしている人を紹介します。一人一人の小さな変革でも、社会を変えるうねりになるかもしれません。
就職支援会社に勤める落合さつきさん。時短勤務という時間が限られた状況だからこそ、仕事の仕方に変化が生まれ、長めの通勤時間もうまく活用しつつ、時間に追われながらも充実した日々を過ごしています。子育てをしながら働く女性たちも社内に増え、先輩としてアドバイスを求められる立場にもなりました。
子育てしながら働くようになって、仕事と家庭の切り替えはうまくなりました。時短で働いていて、5時には会社を出なくてはいけないという時間が決まっていることで、やっぱり段取りはすごく意識しています。
あとは、「やらないこと」を決めるようにもなりました。私がいなくても、他の人にやってもらえることはお願いする。第1子の出産後は完璧にやらなきゃと気負っていたし、周囲に頼るのは申し訳ないという気持ちもありましたが、今は「困っているときは私も助けるけれど、ごめん、今は助けて!」と言えるようになりました。お互いさまだし、どうしたって一人では仕事は回せないですからね。
通勤電車で、母親の顔から会社員の顔へチェンジ
完璧を目指さないのは家でも同じです。夫は休日の家事・育児は協力してくれますが、平日は帰りが遅いこともあり、基本的に時短勤務の私がワンオペ。だから二人目ができてからは「完璧なんて無理!」と悟りました。離乳食も一人目のときは全部手作りしなきゃと思っていましたが、娘のときはレトルトを使ってもいいやとか、力の抜きどころが分かってきました。
私は通勤時間が割と長いのですが、最寄り駅が始発で座れるので、新聞を読んだり、仕事のメールチェックを済ませたりする時間に活用しています。電車に乗っている40分くらいの間に、母親の顔から会社員の顔へスイッチを切り替えます。
会社に着いたら求職者との面談の準備をします。面談は多いときで1日に3本。1本が1時間半くらいなので、3本入っている日は面談で1日の大半が終わります。面談後に内容をまとめるのもかなり時間はかかりますが、そこは10年以上キャリアカウンセラーをやっているので、何とかこなしていますね。
夕方5時になったら毎日ダッシュで帰る感じです。というのも、下の子の保育園と、小学生になった上の子の学童の2カ所を回らないといけないから。今はそれが本当に大変です。
5時に会社を出ても、自宅の最寄り駅に着くのは6時半。保育所は7時までなので、いつも10分前くらいに滑り込みで到着しています。
そこから今度は学童です。通勤では自宅から駅まで車を使っていて、子どもたちのお迎えも車で移動しているのですが、保育園と学童が少し離れているんですよ。学童は民間なので8時まで大丈夫ですが、やっぱりおなかをすかせていますし、早くお迎えに行ってあげたいと思うといつも時間に余裕がありません。
さらに今は息子がバレーボール部に入ったので、週2回は保育園で下の子をピックアップしたら小学校の体育館に向かい、8時まで息子の練習にはりついていないといけないんです。そういう日の帰宅後は、まさに戦場。お味噌汁のお湯を沸かしつつ保育園の荷物をチェックしたり、ぐちゃぐちゃのランドセルの中を見たり。全部「ながら」でやるようになりました。
ストレスがたまったら、車で一人カフェへ
もともと段取りがよかったなんていうことは全然なくて、脳内シミュレーションで「どうしよう、どうしよう」って日々考えているうちにできるようになっていました。スーパーに寄るときも、事前に献立と買うものを頭の中で決めておいて、5分か10分くらいで目的の売り場をだーっと回ります。
家にずっといるのが向いていない私にとっては、働いているほうが精神衛生上もいいし、会社員の顔と母親の顔と妻の顔、いろんな仮面を使い分けられることで絶妙にバランスが取れています。とはいっても日々分刻みで動いていると、ストレスがたまってわーっと発散したくなることは年に何回かあります。
そういうときは一人で車を走らせて、カフェに入って2時間くらい本を読みます。私はお酒を全然飲まないので、一番のストレス解消って、冷静になって色々考えられる自分一人の時間を持つことなんですね。
出産後も仕事が続けられることを社内に示せた
社内で産休、育休を取る人、出産後も仕事に復帰している人は、この数年で増えました。これから産休に入る人、現在産休中の人も合わせると全部で15、6人くらいでしょうか。全社員が180人くらいなので、結構大きな割合を占めています。
出産を機に辞めるという選択肢はもうほとんどないと思いますし、復帰した人はみんな時短で働いています。私も「復帰できるんですね」とか「時短でも結果を残せるんですね」と言ってもらうことはあって、復帰できるということを姿勢として見せられたのかな、と感じています。
会社としてもこれだけ子育てしながら働く社員が増えたということで、ママたちが集まって「もっと働く環境を良くするためにはどうしたらいいか」ということを話し合うミーティングも定期的に開かれるようになりました。「こういうことで困っているよね」「こういう制度があったらいいよね」といった話し合いの内容を人事がヒアリングして、制度づくりに生かすことが目的です。産休取得第一号ということもあって、私がとりまとめ役みたいなことをやらせてもらっています。
実際にミーティングで出た意見を反映して、昨年の春から在宅勤務制度が導入されました。あとは、育休からの復帰前に上司と定期的に面談を行い、復帰後の働き方や仕事の要望などを伝えることができるようになったそうです。私のときは休んでいる間に会社がどうなっているかが分からず、たまに職場に顔を出したり、親しい人にメールを出したりして、自分から情報を取りに行くしかなかった。そうした復帰に当たっての不安や気になることを事前に共有できるのは大きいと思います。
できるかできないかではなく、やるかやらないか
結婚したばかりの後輩に、これからの働き方について相談されたりすることもあります。そういうときにどんなアドバイスをするかというと……すごく簡単に言ってしまえば「何とかなる!」です(笑)。結局、これに尽きると思うんですよね。
私がもし独身のときに今みたいな生活の話を細かくされても、「絶対できない」と思ったはず。でも当事者になってしまえば、できるかできないかではなく、やるかやらないか、なんです。状況は人によって千差万別ですし、悩んでいても仕方がない。やるしかない状況に追い込まれれば、乗り越えられるものだなあって私自身が実感しています。
仕事では、これからも対人での就職支援はずっとしていきたいと思っています。今は会社としての事業ターゲットが20代の若者層ですが、個人的には女性の就職支援にも関心があります。ママさんたちってすごく優秀な人が多いので、いったん仕事を離れた主婦の方がもっと社会復帰しやすい環境を整えたり、悩みの相談に乗れたりできたらいいなと思っています。あとはシングルマザーを対象にした就職支援講座も作りたい。明確なビジョンはまだ模索中ですが、働く母親としての自分の経験を仕事に少しでも生かせたらと思います。
息子に職場を見せたことがいい経験に
小さいときは体が弱かった息子も、今はすっかり丈夫になりました。小学校に入った当初は「学校に行きたくない」とか「みんな下校するのに何で僕は学童に行かなきゃいけないの」とか、駄々をこねられたりもしたんですけれど、「ママ、仕事辞めたほうがいい?」って聞いたら、「辞めなくていい」って言ってくれました。
一度だけ、息子が熱を出したときに私が仕事をどうしても休めなくて、職場に連れてきたことがあったんです。会社にも事情を話して、面談が終わるまでの1、2時間だけということで了解をもらって。息子はそのときに私の職場を見てから、「ママが働いている」ということを理解したように思います。「お母さん、いつも新宿まで行っているんだよね?」とか、「僕、ママの会社に行ったことがあるんだよ」なんていう話もするようになったりして。結果的にいい経験になったみたいでした。
親としては、母親も働いているのが当たり前という職業観を小さいころから持ってもらいたいし、「ママはかっこいい」と思ってくれているようで、うれしいですね。
(日経DUAL 谷口絵美、写真 坂斎清)
[日経DUAL 2018年2月6日付記事を再構成]
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