大ヒット『モンハンワールド』、初めての人にも優しい
カプコンのPlayStation4(PS4)向けゲーム『モンスターハンター:ワールド』の売り上げが好調だ。2018年1月26日に発売し、その後3日間の国内出荷本数は135万本(ダウンロード版除く)。全世界では3月5日までに750万本(ダウンロード版含む)の出荷を記録した、まさに「モンスター」ソフトだ。プロデューサーである辻本良三氏に今作で注力したポイントを聞いた。
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「モンスターハンター」シリーズは、オンライン、オフラインを問わず、多人数プレーが楽しめるアクションゲーム。もちろん、1人でも楽しめる。恐竜のようなモンスターが闊歩(かっぽ)する世界で、食材や武具、防具の素材になるモンスターを狩るのが目的だ。
モンスターハンターの最初のタイトルはPlayStation2で発売され、オンライン対応タイトルとして登場。PSPで発売した『モンスターハンターポータブル』は爆発的な人気になった。携帯機向けタイトルの発売が続いた結果、据え置き機での発売は実に8年ぶり。その間に発展した据え置き機ならではの圧倒的な処理能力とグラフィック性能で、『モンスターハンター:ワールド』では先進で最高の「狩り」が楽しめるという。
「今まで描き切れなかったものを描きたかった」
――かなり速いペースで出荷本数が伸びてますね。
今回のタイトル『モンスターハンター:ワールド』(以下、モンハンワールド)に含まれる「ワールド」という言葉には、モンスターハンター(以下、モンハン)の世界観を体験できるようにしたいという思いと、世界で勝負できるタイトルにしたいという思いの両方がありました。だから、これだけのヒットになったのはうれしいですね。
今回は、新規ユーザーにも入りやすくしたいと考えて、あえてナンバリングを外しています。どうしても続編タイトルって、前作をプレーしていないからという理由で手を出しにくくなる面があると思うんです。だから、今回はあえてナンバリングは付けずに、コンセプトにもあった「ワールド」という言葉を思い切ってタイトル名に付けました。
それと、「モンハン」シリーズに携わる者として、500万本超えというのは意味のある数字でした。これまでのシリーズでどうしても破れなかった数字だったんです。それが3日で突破できたのは大きいですね。
――『モンハンワールド』では「モンスターハンター」の世界観を体験できるようになったとのことですが、そこはPS4という据え置き機を使用した点も大きいのでしょうか。
今回は今まで描き切れなかったものを描きたいという思いがあったんです。それが世界観。世代によっては「モンハン」は、ポータブルで遊ぶというイメージが強い人もいると思いますが、今回のコンセプトは「最新の技術を使ってモンスターハンターの世界を構築する」というものがありましたので、それが実現できて遊ぶ環境としてもドッシリ構えてプレーしていただける据置機をチョイスさせていただいたんです。
シリーズを重ねるうちに、ゲームをプレーするための環境もかなり変わっています。インターネット環境が整って、オンラインで快適に遊べるようになったことはそのひとつですね。ちなみに今までのシリーズでは、アドホック通信によるオンラインプレーもできましたが、国や地域ごとにエリアを分けてプレーヤーをマッチングするようにしていました。しかし、今回は全世界の人とつながることができます。この点でも「ワールド」といえます。
インターネット環境が整ったことは、モンスターの動きの表現にもかかわっています。オンラインでプレーするには、できるだけタイムラグなく、それぞれのプレーヤーが見ている画面を同期させなければなりません。以前のオンラインでは、すべてを同期させるのは難しく、大型のモンスターのみの動きを同期させていたのですが、今は通信速度も通信容量も大幅にアップしているので、小型モンスターも同期させています。
今回の主題である世界観を描くには、モンスターの行動や生態をよりリアルにする必要がありました。例えば、モンスターも狩りをしていたり、水を飲んでいたりします。しかも、フィールドはシームレスにつながっていないといけません。そんなモンスターの生態ごと楽しんでもらうためにはフィールドをシームレスにする必要があったんです。
『モンハンワールド』のフィールドは過去作よりも広くなっていますが、制作側としては、広さよりも密度の高さを重視しているんです。以前の「モンハン」だと、クエストなどで狩るべきモンスターが住むエリアのフィールドに移動します。それぞれのフィールドのつながりがなかったですし、モンスター同士の関わりもほとんどありませんでした。今回はモンスター同士の駆け引きなどもあったりします。
『モンハンワールド』のゲームシナリオは、新大陸に上陸し、探索していくというもの。ですから、モンスターを狩るだけでなく、さまざまなことを観察し、発見する楽しさもあります。モンスターを発見してもすぐに倒すのではなく、じっと観察して、どういう行動を取るか見ていても楽しいと思いますよ。4Kに対応していて、映像もきれいですから、細かいところまで見てほしいですね。
ただ、フィールドがシームレスにつながったことで、ゲーム内で迷いやすいという弊害も出ました。開発者でも帰って来られなくなったりするんですよ。それを解決するために「導虫」(しるべむし)というシステムも導入しています。
モンスターの痕跡を集めると、導虫がモンスターのいる場所やアイテムがある場所に連れていってくれます。これによって、フィールドに何があるかが分かりやすくなりました。いわばガイド役ですが、「モンハン」の世界を壊さずに、かつしっかりとガイドをしてくれる存在として導虫がいるわけです。
初めてプレーする人にも優しい
――導虫のほかにも、『モンハンワールド』ではモンハンを初めてプレーする人に優しいゲームシステムが採用されているように感じます。例えば、以前は武器を生産してみないとどんな武器ができるか分からなかったのに、今回はどんな武器ができるか分かるようになっています。そうした要望は多かったのでしょうか。
そうですね。要望はありました。実は『モンハンワールド』はゲーム自体を土台から作り直しているので、様々なことを変更したり修正したりできたんです。武器に関しては今回、狩りの途中で使っている武器を変更できるようになりましたし、登場するモンスターに合わせて武器を切り替える必要も出てきました。なので、できるだけ多くの武器を使ってもらいたいんです。武器の進化先を示すことで、どういった武器が作れるのかが分かれば、安心して作ってみようという気になります。また、武器を前段階に戻すこともできるようになったのも、気軽に武器を作れるようにしたかったからですね。
それから、ゲーム調整の時間も今まで以上に多く取りました。初めに出会うのは狩猟することでこういうことを教えてくれるモンスター、次はこういうことを教えてくれるモンスターというように。
今回は、オンラインで遊びながらも、ゲーム中でいろいろなことを覚えられるようになっていますので「モンハン」で必要な知識も得やすいと思います。また、以前はキャラクターが 『モンハン』の世界の言葉でしゃべっていたのを、日本語ボイスで説明してくれるようになったのも、分かりやすくなったポイントでしょう。前の感覚の方が良い方は従来のモンハン語に設定することもできますし。
――遊びやすさにかなり配慮されていますね。モンスターについては、いかがでしょう。『モンハンワールド』ならではの新しさはあるのでしょうか。
『モンハンワールド』のモンスターの新たな特徴としては、モンスターのAI(人工知能)が強化されている点があります。フィールドを利用して攻撃してくるなど、地形や状況によって行動が変わってきます。例えば、あるモンスターは、岩を持ち上げると凶暴になるんです。岩がない場所ではそういった行動はとれないですが。
それと、なんと言ってもグラフィックでしょう。旧モンスターもグラフィックが向上したことで、以前よりも肌質などがよく分かると思います。ツヤツヤしていたり、ゴツゴツしていたりね。最新の技術を使うことでモンスターの翼の部分が光を透過しているように描写することができるようになったり、様々な部分で表現力が上がりました。
あとはライティングもかなり力を入れました。こうした表現によって、リアル感や空気感はかなり高まりましたね。
(ライター 岡安学)
[日経トレンディネット 2018年2月20日付の記事を再構成]
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