イノベーションが続く企業、なぜパクリが得意なのかリクルートワークス研究所副所長 中尾隆一郎

従業員は皆、当日の受賞者による「プレゼン大会」を聴講できますし、後日イントラネットからビデオを視聴することも可能です。これ以外にも、定例で発行される各組織の社内報でも、TTPに生かせるネタが満載されています。そして各職場では、小さな取り組みも含めて、それらのネタをベースに、TTPSが進められるのです。会社全体で、ナレッジシェアリングの意識が共有されています。

私自身も10年ほど前にスーモカウンターを担当した際に、グループ企業内の先進事例から多くのことをTTPしました。スーモカウンターは、当時のリクルートでは珍しい店舗型ビジネスでした。注文住宅を建てたい、あるいは新築マンションを購入したい顧客と、ハウスメーカーや工務店、新築マンションのモデルルームなどを、スーモカウンターのアドバイザーがマッチングするビジネスです。ウェブの検索エンジンの代わりにアドバイザーが介在する仕組みがポイントでした。

それまで、広告メディアに長く携わってきた私には、店舗やアドバイザーのマッチングについて、ノウハウやビジネスの勘どころがありません。しかし、リクルートグループ全体を見渡せば様々なナレッジがあり、それが他の組織に共有できる形で言語化されています。それをTTPすることから始めればよいと考えたのです。

分野は異なりますが、ブライダル分野のマッチングをしている「ゼクシィなびカウンター」、人材系の事業で人と企業をアドバイザーが結び付けている「リクルートスタッフィング」「リクルートエージェント」などから事業運営のポイントをTTPしました。

このTTPSというコンセプトを導入したことで、その後スーモカウンター内でも、新築マンションと注文住宅の紹介ビジネスの間、あるいはそれぞれのビジネスの全国展開する店舗同士でTTPが進んだのです。当然、そこから様々なTTPSが生まれていきました。スーモカウンターは現在では全国100店舗以上に展開していますが、新たなイノベーションを起こし続けています。その最初がTTPSというコンセプトの装着だったのです。

本当のオリジナリティーはTTPSの後に

リクルート住まいカンパニーが運営するスーモカウンター(プライムツリー赤池店)

TTPは守破離の「守」、TTPSは守破離の「破」だという説明をしました。それでは最後の守破離の「離」はどうすればよいのでしょうか。

守破離の「離」は武道でいうと道を究めた天才の世界です。ビジネスでいえば、すごいイノベーションなのだと思います。これ以降は経験則でしか書けないのですが、たくさんTTPSをした結果、そのうちの一つが「離」のレベルになっている気がします。私は「砂場の砂山理論」と呼んでいます。公園の砂場で高い砂山を作るには、すそ野を広げるのが結局、最も早い道なのです。

私がスーモカウンターを担当していた時代に、毎月「イノベーションナレッジコンテスト」と銘打ってTTPSのタネを集めていました。当時の従業員は300人強だったのですが、毎月、従業員数より多い500前後のタネがエントリーされてきました。年間実に6000です。この中の数個は、まさに「離」のレベルになる可能性があるタネでした。

もちろんこのコンテストをレベルアップするまでは大変でした。砂山理論に基づくと、量が大事なのです。山の高さを高くするのもそうなのですが、実はイノベーティブな発想を持っているメンバーは、自分のやっていることが当たり前になっているので、それがすごいと思っておらず、コンテストにエントリーすることを考えないケースもあります。

いかに、どんなアイデアを出しても恥をかかない組織であるという「安心感」を感じてもらうのか、また少しでも違和感を持ったら不満を言うのではなく、このコンテストにエントリーするのが当たり前なのだという雰囲気をつくるかも重要です。それが、結果として「離」、つまりイノベーションを生み出す近道だと思います。

※「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は3月16日の予定です。この連載は3人が交代で執筆します。

中尾隆一郎
リクルートワークス研究所副所長・主幹研究員。リクルートで営業部門、企画部門などの責任者を歴任、リクルートテクノロジーズ社長などを経て現職。著書に「転職できる営業マンには理由がある」(東洋経済新報社)、「リクルート流仕事ができる人の原理原則」(全日出版)など。

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