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有森裕子 「ランニング人気の陰りはチャンス?」

日経Gooday

2018/3/11

 今でも高いレベルの選手だけに出場が限られた大会はありますが、数はだいぶ少なくなっています。例えば、かつて「名古屋ウィメンズマラソン」は、ある程度の記録を持ったトップランナーしか出場できない特別なレースでした。日本代表の選考レースの1つとして、ハイレベルな争いの中、どの選手がオリンピックや世界陸上の切符をつかむのか、多くの国民が注目する大会でした。それが今では、フルマラソン初心者でも気軽に出場できる大会になりました。同じく選考レースだった「横浜国際女子マラソン」の後継として2015年に誕生した「さいたま国際マラソン」も、一般ランナーの参加が可能です。

 市民ランナーにとって「トップ選手と一緒のコースを走れる」ということは大きな喜びですし、大会の門戸の開放はランニング人口のすそ野を広げ、市民ランナーのレベルを押し上げた一面もあるでしょう。その一方で、大会の「特別感」が薄れ、トップ選手のレベルがなかなか向上しないという事態が起こっているように感じます。つまり、全体のレベルが平たくなってきているように思うのです。

 トップの選手を育てるためにも、一定の標準記録を突破した選手にとっては「日本選手権」、高校野球でいえば「甲子園」といった、選ばれし者しか出場できない特別感のあるハイレベルな大会をもう少し増やした方がいいのでないかと思います。

 今の日本のマラソン界に、男女ともに圧倒的なスター選手が不在というのは、2020年の東京オリンピックを目前にした切実な悩みであると同時に、ランニング人口を減らす一因になっていると思います。川内優輝選手のような市民ランナーが憧れるヒーロー、ヒロインが何人か出てきて切磋琢磨しなければ、大会は盛り上がりません。ますますスポンサーもつきにくくなり、参加費を上げざるを得ないという負の連鎖に陥ります。

 「ランニングブームに陰りが出てきた」という昨今のニュースは、タイミング的にそんなに悪いこととは思っていません。ブームというのはいつまでも続くわけではありませんので、ここからはいわば「成熟期」といえるでしょう。東京オリンピックを2年後に控えた今だからこそ、様々な角度からマラソン大会の運営の在り方や、スター選手の育成戦略などを見直せる、良いきっかけになるのではないかと思っています。

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子
 元マラソンランナー。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

[日経Gooday2018年2月13日付記事を再構成]

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