「原子」が見えた! なんと一眼レフで撮影に成功
英オックスフォード大学で、量子コンピューターに使う原子を閉じこめる研究をしていたデビッド・ナドリンガー氏は、一般的なデジタル一眼レフカメラを使って、原子の撮影に成功した。写真のタイトルは「イオントラップ内の1つの原子」。2017年8月7日に撮影されたこの作品が、英国の工学・物理科学研究会議(EPSRC)による科学写真コンテストで表彰された。
黒い背景の前で青紫色のライトに照らされているのが、プラスに帯電したストロンチウム原子だ。両側には2つの金属電極があり、間にできる電界によって、原子はほぼ静止している。この装置はイオントラップと呼ばれる。小さな2つの針の先端の間の距離は、2ミリにも満たない。
EPSRCのプレスリリースで、ナドリンガー氏は「1個の原子を目に見えるかたちで表現することは、微小な量子の世界と私たちの巨大な現実を直接的、直感的に結ぶことができるすばらしいアイデアだと思いました」と述べている。「ある静かな日曜日の午後、カメラと三脚を持って研究室に向かいました。そして、小さな薄い青色の点が映ったこの写真を撮ることができたのです」
ナドリンガー氏は、イオントラップの超高真空室の窓をのぞきこむようにして写真を撮影した。使用したのは、50mmレンズと接写用のエクステンションチューブ、そしてカラーフィルターをつけた2つのフラッシュ装置だ。エクステンションチューブは一般に、レンズの焦点距離を長くしてクローズアップ写真を撮るために使われる。
ストロンチウムの原子半径は215ピコメートル(1ピコは1兆分の1)と極めて小さいが、38個の陽子を持ち、原子のなかでは比較的大きい。それでも、写真で原子を見ることができるのは、カメラの露光時間を長くして、原子がレーザー光を吸収して再放出する様子をとらえられるようにしているからだ。そのため、実際に写真に映っているのは、原子の輪郭ではなく、放たれているレーザー光だ。露光時間を長くしなければ、原子を撮影することはできない。
コンテストで表彰されたのは、この写真だけではない。流し台のシャボン玉、薬物送達に使われる微細泡、チョウの羽といった超クローズアップ写真のほか、脳の活動を調べる装置を頭につけたボランティア被験者のポートレートも受賞作に選ばれている。
(文 Elaina Zachos、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年2月19日付]
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