がんの治療を終え、その評価を聞くために病院を訪れたが、医師の言葉は「まあまあですね」だった。はっきりしない答えにモヤモヤした気持ちが残り、そのまま家に帰れず、マギーズ東京に立ち寄ることに。スタッフと話をするうちに、自分は復職に向けてどの程度体を動かせるのか、具体的に医師に聞きたかったのだ、と気付く。気持ちの整理ができ、医師への質問事項を書き止め、次の診察で聞いてみると納得できる答えを得られた。前回とは違い、気持ちが晴れたという。

「私たちが一緒に悩んだり、考えたりしていくと、本人の内から『こうしてみよう!』というエネルギーが湧いてきます。それが自分らしさを取り戻すということ。こちらで答えを用意したり、知識をただ与えたりするのではありません。次に進むべき道を少しガイドするような支援です」(秋山さん)。相談時間に制限はなく、初めて訪れる人の平均は約1時間。時には2時間にわたって話を聞くこともあるそうだ。
ビジネスパーソンががんになると、自分の治療に加えて、親の介護と子育ての間に挟まれることもある。自分のがんをまだ幼い子どもにどう伝えるかも悩ましい問題だ。
「今はがんとともに生きる期間が長くなっています。そのため医療だけでなく、仕事や家庭、介護、経済的な負担をどうするのかなど、社会的な問題が複雑に絡んでいる。一人ひとりの背景が違いますから、その人が今、向き合わなければいけないことを、絡んだ糸をほぐすように探していくことが大切。整理ができてくると、トンネルの先に少し光が見えます」と秋山さんは丁寧に聞くことにこだわる。

心と体を整えるプログラムも

現在、マギーズ東京の開館時間は平日の10~16時。月1回の土曜は13~16時に週末見学会を行っている。オープンした2016年10月から1年間の来館者数は6019人。がんの疑いで検査結果を待っている人から、治療中や寛解して経過観察中の人、がんで近親者を亡くした遺族、がん患者の家族や友人まで、様々な状況の人が訪れている。30~60代が多く、割合は女性4分の3、男性4分の1という。
相談支援だけでなく、参加型のプログラムも用意している。月に3回ほど行うのが「食事のお話」。例えば「体重コントロール」がテーマのときは、ホルモン療法などの影響で食欲が増す人に、食事の内容を吟味して正しく食べる方法を参加者とともに考える。火曜の午前と金曜の午後には1時間のリラクセーションを実施。心理士やヨガのインストラクターでもある看護師が講師を務める。いずれのプログラムも参加は無料だ。
居心地のいい環境の中で、友人のようなスタッフからサポートを受けられるマギーズ東京のスタイルは、がん患者を支援する人たちから「同じような施設を作りたい」と注目を集め、見学に訪れる人が少なくない。マギーズセンターに共感して活動している主な団体に、特定非営利活動法人がんとむきあう会(石川県金沢市、https://gmk.or.jp/)、ともいき京都(京都市、http://tomoiki-kyoto.net/)、幸(さち)ハウス(静岡県富士市、https://www.facebook.com/sachihouseorg/)などがある。
働く世代ががんになると治療や療養だけでなく、仕事や家族にまつわる心配、再発への不安など、悩みは尽きない。そんな気持ちを支えてくれる居場所が増えることは、患者にとって心強いサポートになるはずだ。

(ライター 福島恵美)
