人気劇画『ゴルゴ13』とコラボした外務省の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアルが話題を呼んでいる。実際に連載で使った原画を活用し、厚さや紙質なども本物にそっくりな装丁。ゴルゴファンからも「ぜひそろえたい垂ぜんの1冊」として問い合わせが相次いでいる。
実は原作者のさいとう・たかをさんに直接協力を依頼したのは外務省邦人テロ対策室首席事務官の江端康行さん(49)。ユニークなコラボの仕掛け人である江端さんに、その狙いや舞台裏の秘話についてインタビューした。
ダッカのテロ事件が契機、親日国でも日本人が被害
『ゴルゴ13』とのコラボを思い立ったきっかけは2016年7月1日、バングラデシュの首都ダッカのレストランで起きたテロ事件だったという。数人の武装グループが店を急襲して人質をとって籠城し、日本人7人を含む20人以上が殺害される悲劇になった。
「バングラデシュはそれまで親日国として知られていたので、邦人が殺害されるテロ事件が起きたことに我々は大きな衝撃を受けました。過激派組織『イスラム国』(IS)は日本人も標的にしており、海外での安全対策は喫緊の課題になっています」。江端さんは言葉にこう力を込める。
とはいえ、外務省が文書として公開する危険情報や注意喚起だけでは一般の渡航者も含めて情報がなかなか周知されないのが現実。そこで思い付いたのが「誰もが気軽に手に取りやすい劇画を介して広く安全対策を広めること」だった。
幅広い層なら『ゴルゴ13』 『マスターキートン』から変更
当初、江端さんは、浦沢直樹さんの作画による漫画『MASTERキートン』(マスターキートン)とのコラボを想定していた。主人公が特殊空挺(くうてい)部隊の元教官で保険調査員でもあることから安全対策に合致すると考えたためだ。しかし、『MASTERキートン』は読者層が比較的若いので50歳代以上の認知度はあまり高いとは言えない。「やはり幅広い年齢層に効果的に浸透させるには、歴史が長い『ゴルゴ13』を題材にした方がよいのではないか」。こう判断したという。
ゴルゴ13は「デューク東郷」を名乗る国籍不明の超A級スナイパー。国際情勢に通じ、多言語を操り、運動神経は抜群。危険を回避するために他人とは決して握手をせず、背後に音もなく立たれると瞬間的に身を翻して攻撃態勢に入るという習性を身につけている……。安全対策を指南してもらうにはまさに打ってつけの人物だ。