五輪選手の体にセンサー 計時のオメガ、動きもつかむ「ビッグデータ」時代幕開け AIと結びつけばコーチ代わり?

オメガが五輪でセンサーを使ったのは平昌大会が初めてだ。選んだ競技はアルペンスキー、アイスホッケー、スキージャンプ、ボブスレー、ハーフパイプ(ビッグエア含む)の5つ。「それぞれで求められている機能が異なるため、オメガが独自に別々の仕様のセンサーを開発した」(ゾブリストCEO)

ボブスレー用のセンサーは時速100km超の動きも捉えられる

最も大きなセンサーを使うのがボブスレーだ。手のひらほどの箱と短いアンテナからなり、そりの内側にとりつける。時速100キロメートル超のスピードで疾走するそりの動きを捉えるには独立したアンテナが必要で、1秒間に1万6000ものデータを送信できるという。

逆に最も小さいのはアイスホッケー。縦5センチ、横3センチ、厚さはわずか数ミリ。選手はこれをウエアの背中に貼り付けてプレーする。アルペンスキーはホッケーより一回り大きくて、ブーツの後ろに取り付ける。「広い屋外をカバーしなければならないアルペンスキーと、スタジアムの屋内に限られるホッケーの違い」(同上)という。

アルペンスキー用センサー(左)とアイスホッケー用(オメガ提供)

いずれの場合もセンサーは選手のプレーに影響しないよう、小さければ小さいほどよい。カギを握る部品がバッテリーで、オメガのレイナルド・アッシェリマンCEOは「我々のバッテリーは世界で最も小さい」と技術力に自信を見せる。すでに冬季だけでなく夏季五輪の競技向けにも多くのセンサーを開発済みで、20年の東京大会ではさらに多くのセンサーが使われそうだ。

オメガは、センサーで集めたデータをどう活用しようとしているのか。

「最大の目的は、アスリートを助けることだ」とオメガのアッシェリマンCEOは言う。「五輪で最悪なのは4位。さらに上を目指すには何が足りないのか、ジャンプの距離なのか、スピードなのか、カーブの曲がり方なのか。アスリートはデータをもとに自分の課題を見つけて、効果的にトレーニングできる」

チーム戦略を考えるコーチにとっても、データは貴重な武器となる。たとえばアイスホッケーは試合展開が早いため、肉眼では個々の選手やパックの動きを追い切れない。だがオメガから提供されるデータとソフトを使えば、リアルタイムで正確に把握できる。試合後にフォーメーションの良しあしを分析することも可能だ。

もう一つ、オメガがセンサーで狙っているのが観客を楽しませることだ。「競技をより魅力的にするため、できるだけ多くの情報を会場やテレビの前の観客に届けたい」とアッシェリマンCEO。たとえばスキージャンプであれば助走、踏み切り、そこから20メートルの空中、着地の4地点のスピードを即座に表示できる。

もっともオメガの試みは緒に就いたばかりだ。平昌五輪を見る限り、試合ではセンサーをつけている選手とつけていない選手が混在していた。センサーをつけるかどうかの決定権が選手にあったためだ。「選手や競技団体の意見を聞きながら改善を重ねた」(オメガタイミングのゾブリストCEO)というものの、選手の側は慣れないセンサーに不安も大きかったようだ。センサーをつけるメリットが選手に浸透しきっていないともいえる。

観客にどう情報を伝えるかも改善の余地が大きい。スキー会場では電光掲示板にスピード数値が並ぶだけで、なじみの薄い人にはその意味が伝わりにくかった。2カ所あるアイスホッケーの会場の1つは電光掲示板が小さくて、情報を伝えきれない印象だった。テレビの放送でも、センサーをつけていない選手が目立ったせいか、データはあまり使われなかったようだ。

オメガは平昌五輪が終わった後、同社が支援するほかの大会でもセンサーを取り入れる計画だ。十分なデータを集めて有効活用するにはアスリートやコーチはもちろん、競技場の設計者やテレビ局まで巻き込む必要がある。東京五輪まであと2年半。試行錯誤を重ねながら、どこまで改善できるかが問われる。

「IoA」でスポーツ界に大変革

オメガが平昌五輪で開いた新時代は、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」ならぬ、「IoA」(インターネット・オブ・アスリーツ)といえる。それは、オメガが意図するかどうかにかかわらず、スポーツ界に大きな変革をもたらす可能性がある。