長身な人ほど注意 「ロングフライト症候群」の危険大
「ロングフライト症候群」や「エコノミークラス症候群」としても知られている「静脈血栓塞栓症」のリスクは、男女ともに高身長の人ほど高いことが、スウェーデンで行われた研究で明らかになりました。背が高く脚も長い人では、脚にうっ血が起こりやすく、これが静脈血栓塞栓症のリスクを高める可能性があると考えられます。身長の高い人は特に、長時間のフライトなどで静脈血栓塞栓症にならないよう注意した方がよさそうです。
静脈血栓塞栓症にかかったことのない270万人を追跡
静脈血栓塞栓症は、下肢などの静脈に血の塊(血栓)ができる「深部静脈血栓症」と、形成された血栓が肺に運ばれて肺動脈を詰まらせる「肺塞栓症」という2つの病気を合わせた病名です。長時間のフライトや車中泊などで、同じ姿勢のまま長時間動かずにいると発症しやすくなります。また、高齢者や、下肢に静脈瘤がある人、がん患者、妊婦や出産直後の女性などは、静脈血栓塞栓症のリスクが高いことが知られています。
今回の研究以前にも、身長が高いことと脚が長いことが、静脈血栓塞栓症のリスク上昇に関係することを示した研究はありましたが、それらは家族性の要因(遺伝的な要因または環境要因)の影響を排除できていませんでした。
そこで今回、スウェーデンLund大学の研究者たちは、一般集団だけでなく、兄弟姉妹を対象とする分析も行って、静脈血栓塞栓症と身長の関係をより深く解析することにしました。
分析の対象としたのは、静脈血栓塞栓症にかかったことのない成人男性161万870人と、妊娠経験があり、静脈血栓塞栓症にかかったことのない女性109万3342人です。これら2つの集団を2012年末まで追跡し、静脈血栓塞栓症発生の有無を調べました。
分析は男女別に行いました。最も身長が高いグループの女性(185cm以上)と最も身長が高いグループの男性(190cm以上)を参照群として、それより身長が低い人々の静脈血栓塞栓症リスクを評価したところ、身長が低いほどリスクが低いことが明らかになりました。
女性の場合、175~184cmのグループの静脈血栓塞栓症リスクは、185cm以上の人々に比べ37%低く、165~174cmでは53%低く、155~164cmは64%低く、155cm未満のグループでは69%低くなっていました。
男性では、180~189cmのグループの静脈血栓塞栓症リスクは、190cm以上の人々に比べ28%低く、170~179cmでは43%低く、160~169cmは52%低く、160cm未満の人は65%低いことが示されました。
男性では、深部静脈血栓症と肺塞栓症のいずれのリスクも身長が低いほど低く、女性では、深部静脈血栓症のリスクのみが、身長が低いほど低くなっていました。
次に、スウェーデンの国家的登録データベースの中から、身長が異なる兄弟と姉妹のペアを選出し、身長差が「5cm未満」、「5~9cm」、「10cm以上」に分類しました。兄弟と姉妹のうち、身長が高いほうを参照群として静脈血栓塞栓症のリスクを求めたところ、男女ともに、身長が低いほど静脈血栓塞栓症リスクは低いことが明らかになりました。
男性では、身長が高いほうの兄弟に比べ、身長が5~9cm低い兄弟の静脈血栓塞栓症リスクは20%低く、10cm以上低い兄弟では31%低くなっていました。一方、女性では、身長が10cm以上低い姉妹の静脈血栓塞栓症リスクは35%低くなっていました。
これらの結果は、家族性の要因とは別に、高身長が静脈血栓塞栓症の強力な予測因子であることを示しました。
論文は「Circulation: Cardiovascular Genetics」誌2017年10月号に掲載されています[注]。
[注] Zoller B, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2017 Oct;10(5). pii: e001651. doi: 10.1161/CIRCGENETICS.116.001651.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2018年2月7日付記事を再構成]
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