終活に向けモノを処分できません
脚本家、大石静さん
後期高齢者になって「終活」をせねばならなくなりました。妻からは今のうちに所有物を整理して廃棄するようにと言われていますが、写真や書籍などは思い入れが強く、なかなか処分できません。どうすれば踏ん切りがつくでしょうか。(兵庫県・男性・70代)
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踏ん切りなどつける必要はまったくないと、私は思います。懐かしい物に囲まれて、好きなように過ごされたらよろしいのではないでしょうか。
あなたの奥様は、年を重ねた者は身辺を整理し、若い世代に迷惑をかけないように逝くのが正しい逝き方だという風潮に、洗脳されておられるようです。
ちなみに私は「前期高齢者」ですが、「終活」などする気は、さらさらありません。
私の残すであろう本や衣類や荷物など、大したものではないし、誰かが何とかするでしょう。万が一迷惑がられようとも、死んでしまった後のことは、知ったことではありません。
身辺整理してきれいに逝くのは、それはとてもカッコイイですが、そのために生きている今、ストレスを感じるなんて、情けなさすぎます。悲しすぎます。
人間は晩年こそ自由にのびやかに生きてよいはずです。身を小さくすることはありません。
そう思わなければ、長い人生を必死で生きてきた意味もないというものです。
財政再建の名のもとに、国は医療保険制度を改定し、「後期高齢者医療制度」を作りました。
この「後期高齢者」という言葉を発案したお役人と、それをよしとした時の政権は、本当に恐ろしいと私は思います。
長く生きてきた者をナメるのもいい加減にしろよ、と言いたいです。
この保険制度が優れたものなのか、愚策なのかよくわかりませんが、「後期高齢者」という言葉ができて以来、年齢を重ねた者の肩身が狭くなったことは、間違いありません。
若い世代も、年を重ねた人をうとんじる傾向にあり、「長幼の序」という美徳は、この国から消えつつあります。
そんな流れに押し流されないでください。奥様にもおっしゃってください。だまされるのはよそうと。
国の都合に操られないでください。若者の顔色に一喜一憂しないでください。思い入れのある品々を捨てないでください。胸をはってやりたいように生きてください。そういう先輩が増えることを、私は心から願います。
何度も言いますが、私は「終活」はしません。そういう人間もいますから。
[NIKKEIプラス1 2018年2月24日付]
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