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春巻きって何? 歴史は謎だが、レシピは多彩

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NIKKEI STYLE

オットの大好物は春巻きである。結婚以来「今夜何食べたい?」という不毛な質問には、根気よく「春巻き」と言い続けてきた男だ。揚げ物は面倒だが、コロッケなどと比べれば「巻くだけ」の春巻きははるかにハードルが低い。なので「わかった。何の春巻きがいい?」と私が答え「何の春巻きって、春巻きはひとつだろ。キャベツの入ったやつ」とオットが返し「キャベツが入った春巻きなんて聞いたことないわ!」と私「キャベツが普通だろ!」とオット……と、まいどおなじみの口論になるところまでがセットである。あらゆる食べ物にお互いの「普通」がぶつかるのが結婚というものだが、こと春巻きに関してはいまだに歩み寄りができない。

春巻きとは何か。そもそも「普通の春巻き」とか「基本の春巻き」などというものは存在するのか。

その謎を明らかにすべく我々はアマゾン奥地へと向かった。いや、間違えた。街へと飛び出した。神保町の古書街では中国の古い文献を片っ端からめくり、新宿の大きな書店では各ジャンルの書架を総なめにし、国会図書館では食べ物がらみの参考文献をかき集め、街の中華やデパ地下では春巻きのリアルを追い求め、ネットの海では人気レシピの数に溺れた。すると不思議なことに、もっと真っ暗闇の迷路に入ってしまったのだ。

なぜ、春巻きについての資料がこんなに少ないのだろう。

考えてみてほしい。間違いなく春巻きは人気者だ。中華を代表するメニューとして、かなり上位に位置すると言っていいだろう。ギョーザ、チャーハンよりは下だとしても、エビチリよりは人を選ばない。あとちょっと食べたい時の追加メニューとしては、シューマイと同率1位である。中華メニュー総選挙があったら、10位以内に入るのは間違いない。

本格的な点心舗はもちろん、街の中華からチェーン店まで、春巻きはメニューにあって当たり前といった感がある。ちょっとスーパーを歩けば冷凍食品コーナーにも、チルドコーナーにも、そしてすでに揚げられて食べるだけの惣菜コーナーにも、春巻きの姿は見て取れる。お弁当のおかずとして定番だし、私が毎朝行くコンビニだって、朝からせっせと春巻きを揚げているのだ。こんなに人気者なのに、資料は少ないとはどういうことだ。

その点、ギョーザは違う。やれ古墳からギョーザの化石が見つかっただの、唐代にはすでに食べられていただの「餃子」という言葉が使われ始めたのは清代になってからだの、その来し方については多くの資料や文献が残っている。あまりに多すぎて、春巻きについて調べるときの邪魔になったくらいだ。「昔の点心について書いてある!」と思って読み進めるとギョーザの話で終わっていたり、小見出しに「春巻き」とあるのに結局ギョーザのことしか書いてなかったりが多すぎて、調べが進むほどにどんどんギョーザのことが憎くなってきたほどだ。

シューマイだって悪くない。中国本土で神がかり的に発達した美しい点心のシューマイから、日本に渡ってきて根付いた普通のシューマイまで、多くの資料と文献が残されている。だが日本人にとって「ギョーザ、シューマイ、春巻き」は人気点心ベストスリーみたいなものなのに、なぜか春巻きだけぼんやりカスミがかかっているのだ。

それでも、わずかばかりの知見は得ることができた。まず「春巻き」という名称についてだ。コレは字面からして、春の到来を喜び、春の恵みを巻くことに由来すると予測していたが、だいたいそういったことのようだ。「春という言葉はいいものを連想させる」「いつまでも春が続いてほしいことを願って春芽を巻く」「春節以降に食べる」料理とのこと。昭和5年の料理書には「具材は豚肉、白ニラ」とあったが、この白ニラが現在の黄ニラのことだとすると、旬は2月。まさに春を巻く料理だったわけだ。

中国での発祥や広がり方については、今回は大した収穫はなかった。古書店で山と積まれた下の方から引っ張り出したり、倉庫から出してもらったりして大騒ぎした割にはロクな手がかりがつかめず、本当に残念というしかない。とりあえず地方によって具材は様々であること。あんこを巻いた甘いタイプもあること。酢だけで食べるのが一般的である、などの記述が見つかった。

日本にはいつごろ入ってきたのかも、確かな情報は得られなかった。しかし「明治から続く西洋料理のブームが一段落し、大正に入ると中国料理がブームとなった。中国料理は箸を使い、コメも食べるため、西洋料理よりは馴染みやすいと急速に広がった」ということと「大正11年には新聞の料理コーナーに春巻きの作り方が掲載された」ということから、すでに大正時代にはある程度の知名度はあったと思われる。

伝来や発祥の歴史などは文献が少ない代わりに、レシピ本はやたらあるのが春巻きの興味深いところだ。プロユースも初心者向けも、どれもちょっと驚くほど多くのページが割かれている。実家から持ち出した昭和36年発行の料理本にも、ギョーザやシューマイ、中華まんと並び、春巻きの作り方が載っていた。「表面は軽やかにパリッと割れるもろさと、中からとろりとあふれ出るあんとの食感の対比を食べる料理」などと聞くと、もうその記述だけでおいしく感じてしまう。

時代が新しくなればなるほど「とろりあん」以外の春巻きレシピが増えてくる。都心の中華で食べた、アスパラガスとハムだけをくるりと巻いた春巻きは、私が経営していた飲食店でも何度もパク……いやオマージュさせていただいたものだ。家庭で作る際は「中身をいためて、あんにして、冷まして」の工程が面倒だと敬遠されがちだが、素材そのままを巻いて揚げるだけでもちゃんと春巻きの味になる、と誰かが気づいたのだ。私もよく「ホタテとパクチー」「ササミ梅しそ」「餅キムチチーズ」などの、巻くだけ春巻きを作る。そのたびに「春巻きの皮は偉大だ」と思う。

そういえば中華料理店以外の店でも、春巻き皮はよく使われる。某高級日本料理店で出てきた「カニの奉書揚げ」は、カニ肉だけを贅沢に使った春巻きだったし、キノコクリーム春巻きを出してくれたのは、名古屋の洋食店だ。なんとキュウリの春巻きなんてものまで東京には存在する。

業種も業態も飛び越え使われるのは、皮が扱いやすいこと、安価で入手しやすいこと、そして何より人々に好まれるからであろう。だからこそ、その生まれ育ちがぼんやりしていることがもどかしくて仕方ない。ともあれ春巻き研究は、これからも続けていこうと思う。春巻きについて何か情報をお持ちの方は、ぜひ教えていただきたい。

オットには幼きころからの夢がある。夢の名は「パルテノン春巻き」という。初めて食べたときから大好物の春巻きを、縦に何本も並べパルテノン神殿のような大掛かりなものを建築したい。目でしばし味わったあとは、片っ端から柱を食い尽くしたいという男の夢だ。

食べ物がらみの夢は荒唐無稽な方がいい。昇進祝いに「春菊の天ぷら4つ乗せ立ち食いそば」を決行した友人を知っている。弟はお祝いの日に、サツマイモの天ぷらを比喩ではなく山のように積み上げていた。私だって骨つきチキン目当てに逆上がりができるようになった女だ。パルテノン春巻きくらい、かなえてあげようではないか。

「春を巻く」のが正しいのはわかった。それなら春キャベツを巻こう。春のタケノコも入れよう。豚肉だけは春にかこつけるのが難しいがなんとかしよう。これだけ歩み寄れば彼も喜ぶだろうと話しかけると、勝ち誇ったようにオットが言った。

「パルテノンの次はピラミッド春巻きね」

食べ物がらみの夢は荒唐無稽な方がいい。

(食ライター じろまるいずみ)

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