相続・税金

ぼくらのリアル相続

うまい相続対策には 税理士の使いこなしがポイント 税理士 内藤 克

2018/2/23

写真はイメージ=PIXTA
「内藤先生の相続コラムもいよいよ最終回ですか?」
「ですね。2016年5月から46回にわたり、お読みくださってありがとうございました」
「最後に税理士ならではの相続との関わり方を教えてください」
「わかりました。どうしても税理士の立場からの言い方になってしまいますが、最後ということでお聞きいただきましょうか」

■相続はゼロサムゲームか?

ビジネスの世界に「ゼロサムゲーム」という言葉があります。ここでいうサムとは合計(表計算ソフトの関数のSUMです)を表し、合計がゼロとなるゲーム。つまりどちらか一方が100円勝てばもう片方が100円損をするというゲームです。これに対して双方にメリットがある場合はウィンウィンの関係という言い方をします。

1対1で行うゲームはどちらかが勝てばもう一方が負けるものですが、株式投資は誰かが得をすればその分誰かが直接損をするという仕組みではないので、ゼロサムゲームとはいいません。企業も投資家も消費者もそれぞれのメリットがあるので、プラスサムとも言われます。FX(外国為替証拠金取引)は企業の長期的成長などとは関係なく市場参加者同士の取り合いになるので、ゼロサムゲームとされることが多いですね。では相続はどうでしょう?

相続はパイ(被相続人の全財産)があらかじめ決まっている以上、相続人の誰かが多くもらえば他の誰かの取り分が少なくなるという仕組みになっています。この意味ではゼロサムゲームだといえます。しかし単に金額(評価額)の大きいものを取れば勝ちになるというものでもなく、評価額の異なる財産であってもお互いが満足できる結果になることもあるため、ウィンウィンの関係だってありうるのです。そのため「あの時はいろいろ言い合いもしたけど、後から思えばあの分け方で良かったんだよ」とか「あれは亡くなったお父さんのメッセージだったんだよ」などと、相談者の方から数年後に聞くことは税理士としてはよくある経験なのです。

■税理士は仲裁役、だけど「税理士もつらいよ」

利益相反との関係で複数の相続人からの受任ができない弁護士と異なり、税理士は税額確定のために相続人全員と話し合って調整することになります。いわば相続の仲裁役のような立ち位置になるわけです。そのため「遺産分割協議に参加して説明(説得)してほしい」とお願いされることが多く、時には敵意むき出しの話し合いにも同席し、意見を求められます。すると何が起こるか。

分割の方法により全体の税額が上下するため何度も計算を繰り返すことも一因なのですが、税法上、最も有利な提案をしたとしても、相続人の間で「何だか専門家に説得されている感」が次第に強まり、「あなたは一体どちらの味方なんですか?」と迫られることになります。たまには「これはもうお金の問題ではない!」とか「家族の問題なんですから、他人のあなたは黙っていてください」などと言われてしまうことも。私に限らず税理士なら「税額を最小にするため、良かれと思って提案しているのに……」というところなのですが、分かってもらえないことも多々あるのです。さすがにやるせなくなる時もあり、私自身、辞任したケースもありました。

相続の場合、相続人にとってみれば「自分にとって満足のいく分け方か?」よりも「他の相続人より良い条件の分け方か?」が重視されることも多いため、あれこれ迷走してしまうのですね。ここは税法の問題ではなく人間心理の問題なので、専門家といえどもなかなか難しい領域です。

■常に接触のある存在、それが税理士

ところで、われわれ税理士は基本的に相談者の方と毎月接します。不動産賃貸業の方などのように確定申告の時期に年1回しかお会いしない場合もありますが、それでも年1回は最低でもお会いします。ここが割と重要な点です。

以前、Aさんという相談者の遺族の方から「この遺言、どうなんでしょうね?」と疑問を投げかけられたことがありました。疑問といっても、遺言自体は生前に信託銀行の遺言コンサルタントの指導のもとで作成していたので法的にも問題なく、一分の隙もないものでした。隙がないというのは「この財産は○○へ」「その他の財産は□□へ」という感じで全ての財産が網羅され記載されているため、遺言以外で話し合う余地がないという意味です。そのため執行はしやすいのですが、融通が利かない内容となっていました。

Aさんの遺言は実のところ、遺言を書いた段階では評価額ベースで各相続人の財産のバランスが取れていたのです。ですがその後、Aさんはある相続人が承継するはずだった別荘を売却したため、資産における金融資産の割合が増えてしまいました。金融資産は別の相続人が取得することになっていたので、全体のバランスが大きく崩れてしまったのです。

結局Aさんは別荘の売却によって、自分が遺言で伝えたかった内容と異なる結果になってしまったことに気づくことなく亡くなってしまいました。しかし幸いなことに、相続人全員がその意をくみ取り、話し合いでバランスを取り直すことができました。もし相続人同士の仲が悪かったらこうは行かなかったと思うと、ゾッとします。

しかし、定期的な接触のある税理士がこの遺言にもし関わっていれば、別荘の譲渡申告の際に「資産のバランスが崩れましたが、遺言を書き直しますか?」とAさんにアドバイスできたでしょう。「何かあった時だけ相談する」のではフォローできるわけがありません。それができるのは対策実行後も継続的に接触している「かかりつけ医」のような専門家だけなのです。皆さんも税理士を「やたら数字に細かい人」と敬遠せず、せっかく書いた遺言が無駄にならないよう、うまく使いこなしていただきたいと思います。

内藤克さんの「ぼくらのリアル相続」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。
内藤克
税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

相続・税金 新着記事

ALL CHANNEL