2018/2/20

スポーツイノベーション

都市全体の車の流れをコントロールしようとするアリババにとって、五輪会場の人の出入りを予測することはさして難しくはない。「いま何人の観客がどの会場に入っていて、30分後にそのうちの何人が外に出てくるか。何台のバスやタクシーがどこに待機していたらいいか。交通渋滞を回避するにはどんな迂回ルートが適切か。これらを組み合わせて予測することで、五輪を大幅に効率化できる」(パビリオンの担当者)

簡易スタジオを用意して、一般の観客が試合の感想などをネットで発信できるようにする(アリババのパビリオンで)
アリババのクラウド内の映像と組み合わせれば、個人でも本物のニュース番組そっくりの映像を作れる(同上)

アリババが五輪に導入しようとしている2つ目のツールが、観客一人ひとりのニーズを把握し、最適な観戦プランを提供するサービスだ。江陵のオリンピックパーク内のパビリオンでは、そのデモンストレーション機器を展示していた。ざっとこんなイメージだ。

まず観客は自分のスマートフォンにアプリを入れて、出身国、年齢、性別などの基本情報を入力する。次に画面にしたがって、細かな情報を加えていく。いつからいつまで滞在するのか。家族で来たのか、カップルか、ビジネスか。求めているのは安さか、快適さか、豪華さか。見たい競技は何か。細かく答えるほど、便利に過ごせるようになる。

たとえば好きなアスリートを登録しておけば、そのアスリートが出場する競技や参加するイベントが日別に画面に表示される。それをもとに観戦する試合を選べば、すぐにチケットを買えるし、会場までの道順も教えてくれる。アスリートの自己紹介や競技の動画、過去の成績を見ることも可能だ。

3つ目のツールが、アリババが得意とするネット通販だ。五輪会場のいたるところに1メートル四方のブースを設置。観客はその上に立つだけで、クラウド上に自分の分身(アバター)を作れる。あとはAIが体のサイズや好みに合った衣料などの商品をすすめてくれる。購入した商品は、海外であっても自宅まで届けてもらえる。

1メートル四方の台に乗るだけで自分の分身をクラウド上に登録できる(アリババのパビリオンで)

これらがすべて実現すれば、五輪の観戦は今より飛躍的に便利で楽しくなるはずだ。

実際、平昌五輪では交通が常に大きな問題となっていた。観客が別の会場に移動したりホテルに帰ろうとしたりした時、タクシーはつかまらず、バスの停留所には長蛇の列ができる。ようやくバスが出発しても、渋滞につかまって一向に前に進まない。「いい試合を見ても、これでは台無しだよね」という観客の声を多く聞いた。

観戦の際に目に留まった選手がいても、自分の出身国でなければ情報は限られる。だがアリババのクラウドでいろいろな国の選手の自己紹介やほかの観客のコメントを見られれば、ぐっと身近に感じられるはずだ。

買い物についても、江陵のオリンピックパーク内に公式グッズのショップがあったが、時には行列ができるほどの混雑となっていた。ネットなら素早く簡単に買い物を済ませられる。ほかの五輪スポンサー企業にとっても売り上げを伸ばす機会となるはずで、アリババのデモ画面ではパナソニックなどを紹介していた。

五輪スポンサーで「信頼」狙う

とはいえ、多くの人が同じ疑問を抱くのではないか。五輪だからといって、いくら便利になるからといって、ここまで個人の情報をアリババのクラウドに預けてしまっていいのか。実際、アリババにはプライバシーの問題がついてまわる。

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「中国の旅行客、数百万人を東京に送る」