7人乗りSUV「CX-8」は売れて当然? 驚きのコスパ
9月の予約開始から2018年1月15日までに1万2042台の受注があったというマツダの新作SUV「CX-8」。月間販売目標の実に10倍という人気の高さだが、小沢コージ氏は「売れて当たり前」という。その理由とは?
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メーカーも人気を予想できなかった?
久々に乗るなり「こりゃ売れそう!」と感じるというか、カユいところに手が届くようなクルマが出ちゃいました。そう、マツダの新作SUV「CX-8」。
2017年12月にデビューして1カ月で受注1万2000台。 月間販売目標はわずか1200台ですから実に10倍。そもそもマツダがこの人気を予想してなかったことがうかがえますが、1万台超えは想定外とはいえ、小沢に言わせりゃ売れて当たり前の出来ではあります。
というのもこの手は今のファミリー層に一番求められていたクルマですから。ミニバン代わりになるスタイリッシュなプレミアム7人乗りSUV=プレミアムミニバンという意味でね。
ご存じ日本の乗用車マーケットはコンパクトハイブリッドカーが一番売れていますが、「ウラ番長」は5ナンバーの箱型ミニバン。具体的にトヨタの「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」を足すと大抵は月販1万5000台超え、つまり登録車台数でナンバーワンになります。
ミニバンは7~8人乗れて確かに便利ですが、正直カッコいいとは言い難く、運転が楽しいとも言い難い。そこを突破できるのがCX-8のような7人乗り流麗SUVなのです。
輸入車の半額以下という驚きのコスパ
「え? そういうの、すでにほかにもあるじゃん」 と思ったアナタ、ライバルの価格、知ってます? 既存の3列7人乗りSUVはほとんど輸入車で、ボルボ「XC90」が779万円、アウディ「Q7」が812万円スタートで、メルセデス・ベンツ「GLS」は1000万円超え。サイズもほぼ全長5m前後で、正直、日本のパパが普通に買えるクルマとは言い難い。
ところが聞いてビックリCX-8。一部ハイテクデバイスなしとはいえ、十分装備のベーシックグレードが320万円弱で、本革仕様のトップグレードが420万円弱。輸入車の半額以下です。なによりミニバンで売れているヴォクシーハイブリッドにプラス約20万円で買える。
それでいて輸入SUVに比べてクオリティーが低いかというと全くそんなことはない。いまどきこれほど分かりやすく魅力的でお買い得なクルマもなく、需要もタップリ。バカ売れも当然ってわけです。
一見CX-5のストレッチ版だが中身はCX-9
さてバカ売れCX-8。一見、見た目は2017年デビューの「CX-5」のストレッチ版で、フロントマスクからフロントドアまでの造形は全く同じ。全長×全幅×全高が4900×1840×1730mmのボディーサイズも、CX-5をベースに全長を355mm伸ばしたと考えていい。
ところが中身は微妙に違います。プラットフォームはCX-5用をさらに強化した北米向き7人乗りSUVのCX-9用で、いわばCX-8はCX-9の日本専用スケールダウン版。後者の全長が5065mmだから、扱いやすくするためにフロントノーズが165mm縮められてます。
その分、全体イメージはCX-9より少しおとなしめですが問題ないでしょう。日本じゃほどよい迫力で。
2列目の居心地はCX-5よりいいかも?
肝心の室内ですが、さすがにCX-5と比べホイールベースが230mmも伸びているから広い広い。1&2列目に身長176cmの小沢が座ったポジションで3列目に座ってもひざ前に余裕が少しでき、頭はほぼピッタリ収まります。
唯一、3列目の床が少し高く、座るとヒザ裏が微妙に座面から離れてしまい本格ミニバンに負けますが、絶対的には悪くない居心地。
かたや2列目は、シートそのものはCX-5と同等ですが、シートをスライドさせて一番後ろに下げるとヒザ前は全然広い。オマケに中身のシートスポンジはCX-5から進化して上質に。
最上級グレードの「XD L」パッケージの本革シートはナッパレザー採用でより柔らかに。セカンドシートヒーターも備わりますし、スバリ、居心地はCX-5より上でしょう。
一方ラゲッジは7人フル乗車だと239Lと狭めですが、ゴルフクラブ2個が積めるレベルで、3列目を倒すと572Lとかなり広大に。床下に65Lのサブトランクまで付いているのでヘタなステーションワゴン以上に使えます。
気になる走りも予想外
気になる走りですが、これまた予想外。まず加速感ですが、CX-8はCX-5と同じマツダ自慢の2.2L直列4気筒クリーンディーゼルターボ+6AT搭載なのにCX-5よりスムーズでパワフル。なんでだろう? ボディーが延長され、200kg以上重くなってるのに? と思ったらそれも当たり前。エンジンは制御違いなのか、ピークパワー&トルクが190PS&450Nmとそれぞれ15PS、30Nmも伸びているんです。
乗り心地やステアリングフィールも、ボディーが大きくなっているのにもかかわらず遜色なし。フラット感はホイールベースが伸びたぶん良くなっている部分もあります。シート別乗り心地に関しては、3列目はさすがに多少振動が出ましたが、2列目の乗り心地は良好。これまた強化版プラットフォームを使った恩恵もあり、CX-8を単純にCX-5の拡大版と思ってはいけません。
日本向け3列シートSUVとして理想主義のマツダエンジニアが改めて味付けし直している。そう考えた方がいいでしょう。
この装備で320万円はものすごい
気になるのは装備面で、確かにこの手の輸入車SUVは、ボルボ「XC90」を見てもハイテク安全や快適装備はほぼフル装備。その点、320万円弱のCX-8の「XD」(2WD/6AT)はレーザークルーズコントロール、車線逸脱警報システム、交通標識認識システム、アダプティブLEDヘッドライト、ドライバーアテンションアラートのほか、ヘッドアップディスプレー、ステアリングヒーター、リアドアウインドウサンシェードなどが省かれています。シートももちろん普通のファブリックシート。
でも、その中で本当に欲しいと思うのはクルーズコントロールくらいで、CX-8は被害軽減ブレーキなどを含むマツダの先進安全技術「i-ACTIVSENSE」を全車標準装備。前進時の「AT誤発進抑制制御」や後退時の衝突の被害を軽減する「スマート・シティ・ブレーキ・サポート」も付いています。
余裕ある人には装備充実の「XDプロアクティブ」やナッパレザーシート標準の「XD Lパッケージ」がオススメかもしれませんが、小沢的には思い切って買いやすさのXDもありです。
ついでに燃費も悪くない
最後に燃費ですが車重1.9トンレベルでありながらJC08モード17.6km/Lと全く悪くないだけでなく、小沢が距離にして30km強、街中や高速をゆっくり走って15km/L弱と悪いどころかこのサイズ、この走りでは上出来です。
ついでに全車フルタイム4WDの「i-ACTIV AWD」が選択可能で、しかも最大トルク450Nmの強力ディーゼルターボ標準だから雪道走行はもちろんけん引も楽チン。このあたり、コンパクトFFカーにはできない芸当で、趣味でボートを引っ張る人なんかにも持ってこい。
まさしく家族ともども人生をたっぷり楽しむためのクルマと言えるでしょう。
今のマツダにしか作れない
最近、クルマはいいけど一時ほどには勢いよく売れてないマツダ。でもCX-8は、久々に今の同社にしか作れないクルマに乗った感じでした。
ハイブリッドでなくパワフルなディーゼルをメインとし、すべての車種、グレードに最新ソリューションを惜しみなく投入し、なおかつ潔くミニバン市場から撤退したマツダ。
今のハイブリッド中心路線を歩むトヨタに、このSUVクラスでこの燃費と力強さを両立するクルマはなかなか作れないだろうし、日産やホンダも基本的には同様です。たとえ作れてもCX-8レベルのデザイン、質感が実現できるかどうかは疑問。そもそもこの領域は良質なクリーンディーゼルエンジンが不可欠です。
さらに一番すごいのは価格競争力。客を引き込むための「釣り」とでもいうか、見せかけだけのように設定された格安ベーシックグレードがある中、一番安い320万円台SUVに乗っても、先進安全装備の本当に大事なところは他グレードとほぼ遜色ないってすごい。
マジメな話、走ってみて使ってインテリアに触れて「700万円台の輸入7人乗りSUVにまるでかなわない」と思った人はいないんじゃないでしょうか。というか420万円のトップグレードならば十分対抗できる。しかもすぐにでも国民的ミニバン、ノア、ヴォクシーと買い替えておかしくない価格帯。まさしく日本のお父さんへの福音です。
小沢が4、5年前にさんざん書きまくった「マツダ理想主義」の結実を見た思いです。
「キミの理想はなんですか?」とトップに問い詰められながら、手間を惜しんで造られる今のマツダ車。それが今の日本のクルマ好きパパを満足させられるクルマになったことが実に喜ばしいのです。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット2018年2月2日付の記事を再構成]
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