「盛らない」メークで輝く 手軽に、自分の素顔生かす
盛りすぎず、作り込まずに、もっと自分の素顔や素肌を生かして――。女性の化粧法の主流が変わりつつある。震源は著名なメーキャップアーティスト。より簡単に、ありのままの美しさ、かわいさを引き出すメークの提案が、時間を節約したい、少し肩の力を抜きたい、という女心をつかんだ。
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美容系の雑誌で「色っぽくて、かわいい」メークが支持を集めるのはイガリシノブさん。注目を集めたのは4年ほど前からだ。肌を整えるのは薄付きの下地。目の下に火照ったような印象のチークを入れ、リップはぽんぽんと指でつける。
使った品は「イガリ売れ」
ふんわりした「イガリメーク」が雑誌「ar(アール)」で紹介されるや、20~30代の一般読者やタレントの間で絶大な人気を呼んだ。「テクニックいらずの簡単メーク。それを読者やタレントさんが交流サイト(SNS)で広めてくれました」(イガリさん)
イガリメークを紹介した本は発行部数が9万部を突破し、雑誌で使った化粧品はただちに完売。そんな現象には「イガリ売れ」という呼び名がついた。20日には自身が監修する初の化粧品「WHOMEE(フーミー)」を売り出す。「肌とリップだけでだれでもかわいい顔になれる。作り込んだメークから解放してあげたい」。インスタグラム(写真共有サイト)のフォロワー数は20万に達する。
イガリさんのようなメーキャップアーティストはもともと黒子。ショーや撮影に登場するモデルの化粧を担当し、独自の手法が流行を生み出すこともあった。そのアーティストたちが今や表舞台で美のトレンドの発信源となっている。美容系雑誌「VoCE(ヴォーチェ)」の石井亜樹編集長によれば「アーティストの名を冠した○○メークが登場したのは最近のこと」だ。
しみ隠さない、本来の美しさ
多くのメーキャップアーティストが今、提案するのは、自分の素顔や素肌を生かす、より手軽なメーク。「消費者の共感を得るには、がっつり盛る化粧ではなく、適度な『抜け感』が大事です」
人気アーティストの一人、小田切ヒロさんは有名百貨店の外資系ブランドの美容部員出身。1年半もの間、全国売り上げ1位を維持した実力派だ。「毎日何十人という女性に接して感じたのは、30代からは、だれもが寝癖や食べ癖、加齢によって大顔になっていくということ」。そこに化粧品を次々塗り込めば、顔がさらに大きくなり、しわの原因にもなる。「美容好きの自分もそうでした。これではいけない、と気づいたのです」
独立してからは「小顔メーク」を提唱してブレーク。メーク前に5~10分ほど、リンパ液を流すマッサージで筋肉や骨格をほぐし、輪郭をすっきりとさせる。「メークで一番重要なのは肌の質感と眉。厚化粧をするとやさしさがなくなってしまう。化粧は盛るのではなく、抜いて」
海外のファッション誌や広告で活躍するニューヨーク在住の吉川康雄さんは、粉っぽいメークに異を唱え、しっとりした「艶肌(つやはだ)」ブームを巻き起こした。自身が監修する化粧品「CHICCA(キッカ)」では「(しみなどを)隠さず、ありのままの美しさを引き出す」メークを提案。売り上げは前年比2桁増を続け、「2020年までに現在の2倍にあたる20店舗まで増やす予定」(カネボウ化粧品)だ。
吉川さんは17年11月、ザ・リッツ・カールトン大阪(大阪市)の結婚披露宴で、会社員の西村美耶さんのメークを手掛けた。「結婚式では、なぜいつもと違う『盛った』化粧をするのか。長年疑問を感じていた」と吉川さん。「ドレスも会場も豪華だからこそ、引き算のメークが必要。主役は本人。その人本来の美しさを生かす、メークとヘアをすればいい」
顔と胸元、腕、肩の肌質をそろえた、つややかで健康的なメークは、西村さん自身が輝くかのような美しさ。その姿が女性誌で紹介されると、大きな反響を呼んだ。次に関心を寄せるのは和装の挙式でのメーク。「白無垢(むく)だからって白塗りである必要はないでしょう」。長年それがいいと信じられてきた保守的な化粧にも、一石を投じてみたいという。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2018年2月17日付]
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