鈴木明子さん 「足るを知る」で五輪への不安を払拭フィギュアスケート五輪元日本代表の鈴木明子さんに聞く(3)

日経Gooday

私は案の定、母に弱音を吐きました。すると、「まず、オリンピックで滑れるだけでも幸せだということを思い出しなさい。あなたはかつて滑ることができなかった人間なんだからね」「今できる最大限のことをやればいいじゃない。調子のいいときのベストではなく、今の状態でのベストを尽くしなさい」「そもそもあなたはジャンプが強みの選手として上がってきたわけではないでしょ」と母は言ってくれました。

私は、「足が痛くて練習ができず、ベストな演技ができない」「ジャンプが思う通りに跳べない」という、「足りない」点ばかりに固執していました。でも母の言葉で、「ジャンプだけじゃない。できることは、その他にもいっぱいある!」とがらりと視点が変わり、「足るを知る」ことの重要性を痛感しました。

「『足りない』点ばかり気にしても仕方ない。自分の持ち味を生かさないと……」

「自分が一番滑りたいスケートは何だろう」。そう考えたときに、人に伝えるといった表現力が自身の持ち味だと思い出しました。危うく「ジャンプが跳べない」という不安で自身の持ち味まで打ち消すところでした。

いくら不安に思っても、五輪本番は刻々と近づき、順番が回ってくれば氷の上に立って滑るしか選択肢はない。一度選手生命を絶たれそうになったのだから、五輪の切符をつかんだ自分を、不安で弱い自分を、自分が認めてあげよう。そんな気持ちでソチ五輪のリンクを滑っていましたね。

不思議なもので、自分で自分を認められるようになると、その後、自分とは違う考え方の人も認められるようになりました。昔は自分の理想も人に求めてしまうようなところがあったのですが……。

ドライフルーツやナッツ類が不規則な日々の常備食

選手生活を引退し、今は振付を担当したり、講演したり、アイスショーに出場したりしています。もともと環境の変化は体調管理という点で苦手なのですが、以前と比べ、今はやや不規則な生活です。夜中までテレビ番組の収録が押してしまったり、スケートリンクの空き時間の都合で、練習が夜中の0時以降になることがあったり、滑れない日もあったりします。

そんな状態なので欠かさず続けているのは、体力や筋力を極力落とさないこと。出張先でもホテルの部屋などで床にバスタオルを敷いて、腕立て伏せやいろんな種類の腹筋といった、体幹トレーニングを30分ほどしています。

夜勤など不規則なお仕事をされている方は本当に大変だと思うのですが、睡眠は私にとっても目下悩みの種です。夜中に練習しても、練習後すぐ眠れるかといえば、やはり2時間ぐらいは眠れません。移動中など眠りたいときに眠るしかありません。

食事も引退後は四苦八苦していました。収録先でカロリーが高そうなお弁当が出てくると我慢してしまうこともあり、気がつけば朝から午後7時ごろまで何も食べてないことがありました。これでは痩せてしまうし、体力や筋肉が落ちてしまうと思い、今はカバンの中に、干し芋やドライフルーツ、ナッツ類などを常備して、おなかが空いたら食べるようにしています。おなかもそこそこ満たされて頭も回りますし、大きく体重が変動することもなくなりました。また、マネジャーに温野菜を買ってきてもらうなど、温かくてしっかりと栄養が取れるものを、忙しくても一食でもいいから取ろうと意識していますね。

摂食障害のころを思い出すと、随分食に関して寛容になったと思います。今は、出張先でおいしいものを探して食べることが楽しみになっていますし、最近では、夫が作ってくれたミネストローネが一番おいしくてうれしかった(笑)。

親の食育を受けていた幼いころのように(詳しくは「体験から語る『摂食障害の本当の怖さ』」参照)、私にとって「食」は楽しいものになっています。それは、人として心身ともに健康で過ごすために大切なことに違いないと思います。

◆フィギュアスケート五輪元日本代表の鈴木明子さんに聞く

上 鈴木明子さん 体験から語る「摂食障害の本当の怖さ」

下 鈴木明子さん 目標の先をイメージして苦難乗り越えた

(ライター 高島三幸、写真 鈴木愛子)

鈴木明子さん
1985年生まれ。6歳でスケートを始め、15歳で全日本フィギュアスケート選手権4位。18歳で摂食障害を患い、体重48kgから32kgに。2004年復帰、06~07年ユニバーシアード冬季競技大会優勝。09~10年グランプリシリーズ中国杯優勝。バンクーバーオリンピック8位入賞。12年世界フィギュアスケート選手権で日本人最年長27歳で銅メダル獲得。14年ソチオリンピック個人8位。現在プロフィギュアスケーター、振付師として活躍。著書に『ひとつひとつ。少しずつ。』(KADOKAWA)など。

[日経Gooday 2018年2月21日付記事を再構成]

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