鈴木明子さん 「足るを知る」で五輪への不安を払拭フィギュアスケート五輪元日本代表の鈴木明子さんに聞く(3)

日経Gooday

でも心の底からリラックスはできませんでした。なぜなら、練習を休む怖さから沖縄までスケート靴を持っていったからです。もちろん、沖縄で練習なんてできません。

バンクーバー五輪後に気づいた休養の重要性

「五輪が終わったんだから休養すればいい」と思う方がほとんどでしょうが、3日も休めば本来の滑りを取り戻すのに1週間はかかる、などと教えられていたので、休む勇気がありませんでした。多くの選手を見ているコーチも、五輪後も休むことなく指導されているので、休みづらいということもありました。上司が休んでないから休みづらいという部下の気持ちと同じでしょうか(笑)。

「休むことは重要ですね」

海外の選手たちは、五輪などの大きな大会が終わると、3週間ほどのバケーションを取ります。さらに、それだけ休んでも本来の状態に戻れるための練習ステップを、コーチがきちんと分かっています。そうした海外の選手の姿を見て、ベストパフォーマンスを発揮するためには、心身ともに休ませることが重要だと学びました。

結局、次のシーズンで世界選手権の日本代表になれず、若い選手もどんどん出てきて、「ここで引退したくない」という思いが強くなりました。そのタイミングで、コーチが「新しいジャンプに挑戦しなさい」という新たな課題を与えてくれました。おかげで、「このジャンプが跳びたい」というスケートを始めた子どものころと同じような意欲が生まれ、乗り越えることができました。

鈴木流 ストレスをためない方法

日々の練習で思い通りにならないとき、くじけそうになるときは、自身の中に負の思考を抱え込まずに吐き出すことが一番スッキリすると思います。方法は色々あると思いますが、例えば、ノートに自身のありのままの思いを書き記せば、客観視できたり、自問自答したりして気持ちを整理できるでしょう。

私はメンタルが強い人間ではないので、へこんだり、納得できなかったりすることがあると、必ず立ち止まってとことん悩み、落ち込まないとはい上がれません。問題が解決しないと前に進めないという、少々やっかいなタイプなんです(笑)。とことん悩むことは非常にパワーを使いますが、じっくり考えてそれでも気持ちが晴れなければ、周囲に吐き出します。周囲は迷惑かもしれませんが、頭の中がスッキリします。口に出すことは、「これだけ考えたのだから、それでいいのではないか」と自分を認めてあげることにもなるのだと思います。

母やコーチといった周囲の人たちも、そうした私の性格をよく分かっていました。特に母には一番、自分の感情を吐き出していたと思います。例えば、練習帰りに両親が経営している割烹(かっぽう)料理店に立ち寄り、ご飯を食べながら母に「疲れるし、苦しくてもう嫌だ」と吐き出すとします。すると母からは、「そうだよね、疲れたよね」と、こだまのような言葉が返ってくる。それだけなのに、家に着いたときは、暗い気持ちを引きずらず、前を向いているんです。毎回私のグチを受け止める母は大変だったでしょうが、納得するまで落ち込んだ私を受け入れてくれたおかげで、安心すると同時に覚悟が決まって強くなれた。はい上がれたんです。

「弱い自分」を受け入れる

ソチ五輪の前は足に痛みがあり、思うように練習できずに挑むことになりました。しっかり準備できず、いいイメージを持てないまま挑む試合は初めてで、「なんで選手として最後になるであろうオリンピックで……」と悔しさと不安しかなかった。でも周囲は、寄り添いつつも誰も私を甘やかそうとしませんでした。日本代表になったのだから少しくらい痛くても我慢するしかないし、悩み続けた末に生まれる覚悟こそ、私の強さになると周囲は知っていたからです。

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