驚くほど細密なミニチュア廃墟 この世の終わりを表現
廃墟となった都市で、列車は動くことなく線路に居座り、学校は静まり返る。図書館や美容院は放置されて荒れるがまま。そこに人間の姿はない。――それはまさに「この世の終わり」の風景だ。これを作り出したのは、ニューヨーク市在住のローリ・ニックスとキャサリン・ガーバー。2人の女性アーティストは、人類がいなくなった後の街の姿を、細密なミニチュアで表現する。
目的は何か? ニックスによると、「未知の大惨事に見舞われて、人類がいなくなった大都市の姿という、誰も結末を知らない物語」を作り出して、写真に収めることだという。ミニチュアを見た人たちに、「想像力を働かせて、現在を見つめ直してほしいんです。私たちに未来はあるのか? 自分たちを救うことはできるのか? とね」
どのようなミニチュアを作るか、ニックスは地下鉄に乗っているときや旅行雑誌をめくっているときに思いつくことが多いという。ほかには、竜巻などの自然災害が多い米国カンザス州の故郷で過ごした日々がヒントとなることもある。
ニックスは自分を、「一種の風景写真家」だと考えている。しかし、「風景を探してあちこち歩き回るのではなくて、テーブルの上に思い通りの風景を作るんです」と彼女は話す。ガーバーの出番はここから。メッキ加工やガラス制作、特殊塗装の経験を生かし、組み立てや、傷や汚れをつける作業などを担当する。
ミニチュアの大きさは、幅が50センチから3メートルまでとさまざま。素材はどこででも手に入る、紙やアクリル絵の具、ボール紙、粘土、発泡スチロール、プラスチック板といったものだ。作り上げるのに早くて7カ月、大作になると15カ月かかることもある。完成すると、ニックスが大判カメラで撮影。納得のいく写真になるまで3週間撮り続けることもあるという。
「作品からは想像できないかもしれませんが、私はとても楽観的なんです。私たちは人工的な場所が自然に返っていく様子を表現しています。そこには不思議な希望があると思うんです」とニックスが言うと、ガーバーはこう続けた。「私たちの作品にはいつも、おかしさと恐ろしさが混在しています。見る人を引きずり込んで、考えてもらいたいんです」
自分たちの作品には、さまざまな楽しみ方があるとニックスは語る。「ミニチュアにわくわくする人もいれば、アイデアに着目する人もいるでしょう。誰が見ても、何かしらおもしろいと感じる部分があるはずです」。ガーバーも同意見だ。「これが模型だと気づいた瞬間、人は『なんだ、これは架空の光景だったのか』と安堵します。その安心感が、作品のメッセージについてじっくりと考える余裕を生むのです」
次ページで、細密なミニチュア廃墟の写真をさらに4点紹介する。
(文 Jeremy Berlin、訳 大塚茂夫・北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2017年3月29日付記事を再構成]
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