羽生選手のジャンプ、滞空時間+0.1秒なら5回転も?

日経ウーマンオンライン

5回転ジャンプも夢ではない? 写真はイメージ=PIXTA
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こんにちは、著述・翻訳家の上野陽子です。平昌オリンピックが開幕中ですね。スポーツ技術の進歩には目を見張ります。

例えば、男子フィギュアスケートでは「4回転は当たり前時代」に突入し、5回転も可能になるのではといわれます。日本女子では浅田真央さんの代名詞であり、伊藤みどりさん、中野友加里さんの3人だけが跳べたトリプルアクセルを、今では15歳の紀平梨花選手なども公式試合で成功。ジャンプ合戦が繰り広げられています。

これはもちろん、選手たちが厳しい練習で技に磨きをかけてこそできること。それに加えて大切なのが……道具の進化です。

体重の3倍の負荷を支えるスケート靴、その重さは?

つまりスケートなら、スケート靴も大切。この靴全体の重さってご存じですか? 牛革を使い、ブレード(刃の部分)に鉄を用いていた頃に比べ、最近では合成素材が主流。耐久性がありながら、軽量化されています。もちろん選手の足の大きさなどにもよりますが、ブレードも入れて片足およそ2kg前後だから、けっこう重そうですよね。

羽生結弦選手をはじめとするトップ選手たちの靴のブレードは、氷が当たる部分に鉄、軸部分にカーボンという混合タイプが主流。これで普通より片足で50~100gほど軽くなるのに、強度はあまり変わらないのだそうです。

ジャンプから着氷するときに足首にかかる負荷は、なんと体重のおよそ3倍。着氷時の衝撃も吸収できるなど靴がより進化すれば、けがのリスクも抑えられます。よって、エレメンツ(採点評価される技術)が行いやすくなります。

それほど大切な靴。誰が開発しているんでしょうか。

羽生選手の靴を作っているのは誰?

スケート靴は、靴の部分とブレードの部分で別々のメーカーのものをこだわって使う選手も多いほど、大切なもの。羽生選手は、イタリアのEDEA社の最軽量スケート靴「ICE FLY」を愛用。多くの選手が使用する人気メーカーです。同社のサイトでは、こんなふうに羽生選手が紹介されています。

彼は音楽に合わせて滑っているのではなく、自らが音楽を創造しているかのようだ。
ブレードが優雅で伸びやかに銀盤を滑るパフォーマンスにおいて、結弦自身が音楽である。
(EDEA社サイトYuzuru Hanyuより 私訳)

この文章と合わせたかのように、今シーズンの公式練習ではEDEA社の「PIANO」を使用。この靴は、従来のものよりさらに着氷時の衝撃吸収力をアップさせ、膝や足首への負担を減らしてくれるんだそうです。

こうした靴の改良に関して、小塚崇彦さんと中京大学の湯浅景元教授の共著として、スケート靴を解体した報告書(※)がありました。これは、小塚さんが大会で使用したスケート靴をタップダンスの靴職人が解体して、改善できる点を報告していた内容。

※出典:2016年中京大学体育研究所紀要「小塚選手の使用済フィギュアスケート靴の解体報告書」

簡単に見ていくと、例えば靴ひもに関しては、(1)足首の靴ひもをダイヤル式に変えれば、毎回同じように縛ることができる、(2)フック強度の高い布を縫い付けて穴を通す方法に変えると、シューレースがフックによって切れる可能性が軽減され、軽量化も可能になる――といった報告がされていました。

靴ひもの穴すら改良すれば、まだ軽量化する余地があるということ。

こうした細やかな改良を経ていけば、果たして5回転ジャンプも可能になるのでしょうか。

選手たちの磨きのかかった技に加えて大切なのが、スケート靴の進化です。写真はイメージ=PIXTA

羽生選手の滞空時間で、5回転ジャンプは可能?

靴を改良しつつ、あとは跳び上がってからの滞空時間と、回転のスピードを計算すれば、およそ何回転を跳べるかは見えてきます。

朝日新聞によると、「米ソルトレークシティー五輪での研究では、4回転の回転速度は平均毎秒4.8回、滞空時間は平均0.68秒」だそうです。選手たちは、1秒あれば、5回転近く回れるわけです。

さらに中京大学の湯浅景元教授が、羽生選手と宇野昌磨選手の2016年~2017年のベスト4回転ジャンプを解析し、次のような発表をしています――「羽生選手の回転速度は毎秒5.71回、宇野選手は毎秒5.97回。別の解析では、中国の金博洋選手が滞空時間で0.76秒を記録した」

現在の羽生選手の滞空時間は、ジャンプにもよりますが、およそ0.8秒程度といわれています。

さまざまな解析から「5回転には0.9秒あれば十分」とすれば、あと「0.1秒」です。助走速度を上げて、エネルギーをうまく高さに変え、さらに靴も軽量化されるなどの条件がそろえば、この「0.1秒」が生み出せるかもしれません。

現在のルールでは、4分の1回転未満なら回転が足りなくてもジャンプが成立と見なされます。つまり、空中での回転は4.75回できれば「5回転」。あとは着氷の精度を上げ、スケート靴がジャンプの衝撃に耐えて足を守れるようになれば、あくまでも数字的には……5回転も夢物語ではなさそうです。

上野陽子
著述家、翻訳家、コミュニケーション・アナリスト。カナダ、オーストラリアに留学後、ボストン大学コミュニケーション学部修士課程でジャーナリズム専攻、東北大学博士前期課程人間社会情報科学専攻修了。通信社、出版社をへて、コラム連載や媒体プロデュースを手がける。仕事と趣味で世界50カ国以上を周る旅好き。著書に「コトバのギフト―輝く女性の100名言」(講談社)、「スティーブ・ジョブズに学ぶ英語プレゼン」(日経BP社)、「mini版 1週間で英語がどんどん話せるようになる26のルール」(アスコム)ほか多数。

[nikkei WOMAN Online 2018年2月13日付の記事を再構成]

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