岐阜県飛騨市になぜ外国人客 仕掛けは「普通の景色」美ら地球の山田社長、欧米豪に絞って体験プログラム用意

日本人には見慣れた光景でも、欧米豪の人たちにとっては田んぼ、アマガエル、小学生の集団登校は、興味深い異文化体験だ。自身、里山の魅力に気づいたのは、長い間、日本を離れ、日本について客観視できるようになったから。

地元の人とウィン・ウィンの関係に

冬季の体験プログラムは「スノーシューツアー」を用意(美ら地球提供)

里山サイクリングツアーに同行するガイドは、地元の人たちとは顔なじみだ。農作業する人たちや小学生たちと、外国人観光客との交流を橋渡しする。こうした異文化体験が外国人観光客の心に深く刺さった。旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」では、美ら地球について、5つ星コメントが93%、4つ星と合わせると99%を占めている。

ツアーの満足度が高いのは、里山の景色に加え、地域の方々、ガイドのすばらしさがあるからだ。

山田氏は奈良県出身。美ら地球で働く人たちもほとんど「よそもの」だ。地元の人たち、地元企業との連携で意識したのは「ウィン・ウィン」の考え方だ。

コンサルティング会社に勤めていた時、本社で決めたことを各地の事務所で実行してもらうために山田氏は動く理由を説明してまわった。人は変わる理由さえ明確になれば、変わるものだということを学んだ。

地元企業と組むのは、自社では足りない経営資源を補ってもらうことで、新たな価値を顧客に提供できるようになる。

サイクリングツアーを開催できない冬季向けに奥飛騨温泉で始めたのがスノーシューツアーだ。冬場の客を増やしたい地元の路線バス会社と、日本人向けにツアーを開催していたがインバウンドの参加者を呼び込みたいロープウエー会社との思惑が一致した。酒蔵見学・料理体験などもツアーメニューに加えた。

16年10月には地元の食品会社、山一商事(岐阜県高山市)と組み、JR高山駅に「iCAFE TAKAYAMA」をオープン。ツアーデスクやカフェを備え、インバウンドの受け入れ窓口にもなっている。

インバウンドの動向を分析したマーケティングデータは地元企業に還元している。顧客の満足度を高めるには、地域ぐるみでの取り組みは欠かせない。

16年度のツアー参加者は15年度比3割増の3300人強。12年度までは日本人客が多かったが13年度に逆転。現在は8割がインバウンドだ。17年度も2ケタ増のペースで推移している。

サービス開始当初は予約サイトを用意してもなかなかアクセスがなかった。既存の大手予約サイトに加盟しても、コストの割に成果は乏しいとみていた。

ファーストカスタマー(最初の顧客)をつかむためにやったことは、外国人観光客が集まる高山陣屋にワゴン車を横付けすること。その場でツアーの写真をみせて飛騨古川まで連れて行く、いわば「ポン引き」営業だ。

ネットで待っていても顧客はなかなか来ない。ならば、自分たちからアプローチしたほうが手っ取り早い。体験してもらった顧客が満足したことをネットに書き込み、それを読んだ人が次の顧客になる。この営業手法は現在も続けている。同社の集客手段はこのほかに、海外の旅行会社経由とウェブ経由がある。

マーケティングわかる人材が必要

予約サイトの運営を含めて、美ら地球のマネジメントの根幹は企業マーケティング手法を取り入れていることにある。

自社の予約サイトの利用状況は常に細かく数字を把握している。(1)サイトにどれくらいのアクセスがあるのか(2)サイトにアクセスしてもあまりページを見ずに別のサイトに流れてしまっていないか(3)どれくらいサイト内の情報を読んでもらっているか(4)サイトからツアーの予約にどれくらいつながっているか。

(1)~(4)の数字の変化を逐一把握し、問題があれば、速やかに対策を打つようにしている。こうした取り組みによって、ツアー参加者は順調に増え続ける。

訪日客が喜ぶような、魅力的な土地は日本中にたくさんある。地方で今、不足しているのは需要ではなく供給。つまり人材だ。

地方のツーリズムで必要なのはマネジメント、マーケティングがわかる人材という。美ら地球では人材育成事業にも乗り出した。富山など複数の地域から研修・教育を請け負っている。

[日経MJ2018年2月14日付]