JUJU 小学生からウォークマン、バーでもヘッドホン
オリジナルナンバーから洋邦ポップスのカバーやスタンダードジャズまで、多彩な楽曲を大人の魅力たっぷりに歌い上げるJUJUさん。最新アルバム『I』では、小田和正氏や平井堅氏、小林武史氏、松尾潔氏、蔦谷好位置氏など著名クリエイター陣との華麗なコラボが実現した。その豊かな音楽性は、子供時代から養われていた。小学生のときから携帯音楽プレーヤーを持ち歩いていたという筋金入りのユーザーだ。
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仕事がら旅も頻繁ですし、かつてはニューヨークが活動拠点でしたから長時間の移動が多いんです。その間、常に自分が好きな音楽を聴ける状態を保ちたくて、携帯音楽プレーヤーは片時も手放せません。ただ、プレーヤーを持って出たのに、空港で「ヘッドホンがない!」と慌てることもしばしば(笑)。用途別に使い分けてもいるので、自宅には30近くのヘッドホンがあります。それだけ、好きな音楽がいつでも聴けるかどうかは重要なんです。
携帯音楽プレーヤーを初めて持ち歩いたのは小学生のころで、当時はまだカセットテープのウォークマンでした。洋楽好きの大人たちに囲まれて育ったせいか、音楽に関しては早熟だったんでしょうね。昼休みにウォークマンで洋楽を聴いてる子なんて私くらい。
担任の先生が見つけて、「何を聴いてるの?」って。それで私は「イタロハウス[注]です」と(笑)。哀愁あふれるループ感がツボだったんです。まさかそんなものを聴いていると思わず驚いたようですが、洋楽好きの先生で「休み時間だけならいいよ」と黙認してくださった。おおらかな時代でしたね。
[注]イタリアに起源を持つハウス・ミュージックの一つ。
CDからiPodへ
それから時代とともに、カセットからCDへとメディアが変わり、現在のようなデータへと変わっていくわけですが、ニューヨークに住んでいたのがちょうどCDウォークマンの時代。ニューヨークと日本のフライトはかなりの長時間ですから、愛聴盤を50枚くらいブックレットにした「CDの本」とともに手荷物で機内に持ち込むのが恒例でした。重たいし、かさばるし、電池を買い忘れるとアウト。ですが、そんなちょっとした煩わしさも楽しくて。だからMP3プレーヤーが出てきた当初は「迎合するもんか」ってちょっと斜に構えてました(笑)。
でも、ある時iPodをプレゼントでいただいて。それで「どんなものかしら」と聴いてみたら、もうびっくり。軽いし、なにより音がいいじゃないですか。夢の機械だと思いましたね。それが2004年くらいで、以来ずっと持ち歩いてます。
今日持参したプレーヤーの中にも、iPod classicがありますが今はもう売っていないようですね。最初にいただいてから、壊れるたびに買い替えてきて、これが最後の子になってしまいました。もちろん今もちゃんと現役ですよ。
ウォークマンAシリーズNW-A805など、SONYのウォークマンも愛用しています。ミュージシャンやクリエイターにはMacユーザーが多い。初期のウォークマンはMacでは使い勝手がイマイチで正直、面倒だなって(笑)。ただ、私がソニーミュージックのアーティストだから言うわけではありませんが、ウォークマンって音質がすごくいいんですよ。だから、だんだんデータの入れ替えも簡単になってとても助かってます。
ハイレゾを聴いて衝撃
音質で言えば、ハイレゾのプレーヤーも必携品ですね。ハイレゾ対応ウォークマンZXシリーズNW-ZX2など、高価なものもありますが、音楽を生業としているので仕事道具みたいなもの。そこに糸目をつけちゃダメだと思っています。リリース前の自分の音源をどこでもいい音質で確認できるので気に入っています。
2016年に、ワイヤレスのハイレゾ対応ウォークマンAシリーズとヘッドホンのCMに出演したのですが、それまでは「ワイヤレスだし、どうなの?」ってちょっと懐疑的で(笑)。ですが、実際に聴いて衝撃を受けました。そのときのCMキャッチコピーが「こんな、ゾクゾク、はじめて」でしたが、まさにその通りだなって。
それって、子供の頃に初めてCDを聴いたときの驚きに似ていたんですよね。音楽制作の過程で別々に録音された音源を一つにまとめるミックスダウンがありますが、簡単に言うとそこで「この音は右奥から、この音は手前から」みたいに音の配置を決めるんです。ハイレゾのウォークマンと専用ヘッドホンで聴いた途端、「そうそう、この音はこの場所から、あの音はあの場所から聴こえてほしかった」って。感激しましたね。
プロとして音をシビアにチェックしたい気持ちもありますが、そもそもが生粋の音楽ファン。なので、いい音楽をいい音で楽しみたいんです。私にとっての「一番の幸せ」って、結局はいい音楽をいい音で聴けたときなんです。たとえば、すてきなお店で買い物をしていて、いい音楽に出会うとすぐに調べて手に入れたくなります。「世の中にこんなすてきな音楽があったのか」と偶然出会えた幸福感も相まって、ショッピングで手に入れたお洋服よりも音楽の方がうれしかったりします(笑)。
逆に、バーで飲んでいて自分の好みではない音楽が流れたりするとヘッドホンをつけて自分の世界に閉じこもることも(笑)。失礼だとは分かっていますが、せっかく好きなお酒を飲んでいい時間を過ごしているのだから、音楽も心地よい方がいいじゃないですか。お店の方も気になって「何聴いてるの?」って。そこから会話が盛り上がったりするんですよ。
区切りの作品、すべてが今につながる
音楽が好き、歌うことが好き。その気持ちを持ち続けてきた結果、今の私があります。すごく個人的な話で恐縮ですが、今回のアルバム『I』で、2003年にメジャー契約をした際のアルバム枚数にたどりついたんですね。それもあって、これまでの自分の音楽を見つめ返したとき、結局は自分を信じてきたことが今につながっているんだなと思い至りました。
契約当初は、アルバムを1枚リリースできるかすら危うかったし、途中で選び取ったものも、はたから見れば間違った選択もあるのかもしれません。でも、すべてをひっくるめて「私=I」なんですよね。
今回のアルバム『I』には、小田和正さんや平井堅さんなど、ゆかりのある素晴らしい方々に曲を書いていただきました。小田さんは3日間つきっきりでレコーディングに立ち会ってくださり、かなりシビアにしごかれました(笑)。普段は優しくてチャーミングな方ですが、なぜトップランナーであり続けるのかを垣間見た気がしました。と同時に、歌うことの奥深さを改めて感じる時間になりました。
自分の作品を声高に宣伝するのは得意ではありませんが、今作は胸を張って「最高のアルバムができました」って言えるものになりました。ウォークマンを聴きはじめたこどもの頃から今も、歌うことへの想いは変わりません。奥深さを探求しながら、これからも真摯に歌と向き合っていい音楽を生み出し続けていけたら何よりの幸せだなって思うんです。
幼い頃より洋楽、特にジャズに触れて育ち、18歳で単身渡米。2004年に『光の中へ』でデビュー。2006年の『奇跡を望むなら...』がロングヒットし、シーンに踊り出ると洗練されたファッションなども注目を集める。『明日がくるなら』ほかオリジナル曲でヒットを飛ばす一方、自身のルーツであるジャズを歌ったアルバム『DELICIOUS』や洋楽をカバーした『TIMELESS』、邦楽カバーアルバム『Request』シリーズ、『スナックJUJU ~夜のRequest~』など幅広い楽曲を歌いこなす。2018年は最新アルバム『I』を携えて、4月22日の千葉県松戸の森ホール21を皮切りに全国44公演のホールツアーがスタートする。
(文 橘川有子、写真 吉村永)
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