撮りたい、が若者消費の原動力 インスタでヒット発火
2017年に「インスタ映え」が流行語大賞を受賞したようにインスタグラム(写真共有サイト)はヒットの一大発火点だ。その原動力は、人気スポットを訪れたり、消費を喚起したりする若者のリアルな行動力。写真の投稿や共有から、結果的にリアルなヒットを生み出していく彼らの心理を追ってみた。
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旅行情報サイト「じゃらん」や、阪急交通社が発表した、昨年の温泉地名検索数ランキング。箱根(神奈川県)など名だたる温泉を抑え1位になったのは、山形県の山奥にある秘湯、銀山温泉だった。
「ほぼ無名」突然の流行
実は今、若者が「写真を撮りたい」一心で、この大正ロマンの雰囲気あふれる温泉街に大挙して訪れている。無数の風鈴を飾った川越氷川神社(埼玉県)にも若者が殺到。撮影した写真は、インスタグラムに投稿するのがお約束だ。「投稿したいというだけで消費のきっかけになる。ほぼ無名のものが、突然流行する」(調査会社ユーザーローカルの伊藤将雄氏)
ヒット商品にもインスタグラムの影響は及ぶ。瓶を連想させるペットボトルのデザインや、手書き風のラベルが写真映えする「クラフトボス」(サントリー食品インターナショナル)は、17年12月末までで2億4000万本以上を販売した。
インスタグラムの利用者数はいまだ右肩上がり。17年9月には、月1回以上ログインするアクティブユーザー数が世界で8億アカウントを突破し、国内でも2000万アカウントを超えた。
今の若者にとってはインスタグラムに加え「LINE(ライン)」「ツイッター」がSNS(交流サイト)の"三種の神器"。メール的に使われるのがLINE。ツイッターは気軽に投稿でき、最新スイーツなどの情報収集にも使われる。
ストーリーズ、気軽な避難所
インスタグラムは、写真や動画で直感的に使えると支持が急速に拡大。きれいな写真を作り込んで「フィード」に投稿するのは多くても週に数回だが、素をさらけだす投稿が好まれる「ストーリーズ」は、気軽に連投できる"避難所"のような場になった。ツイッター的な文字中心の投稿も増加している。
若者がインスタグラムに投稿する動機は、リア充(現実社会での充実)のアピール。ただ、かつてのリムジンパーティーのような非日常の演出は、今では「狙いすぎ」とやゆされる。最近は、「歩いている後ろ姿」など日常の1シーンを切り取ったように写真を作り込むのがトレンドだ。
そんな空気に敏感な女子の間で、おそろいのパジャマを着る女子会「パジャマパーティー」が流行。お金をかけていないのにかわいいと言われることが最高の褒め言葉で、「こんな日常さえ私たちは楽しめるというリア充アピールの新しい形」(博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平氏)
インスタグラムでは、海外から写真映えするトレンドカラーの輸入も相次ぐ。海外では「ユニコーンカラー」と呼ばれる淡い虹色が、日本では「ゆめかわ(夢かわいい)」と話題に。同色のスイーツを扱う店が誕生した。
「ミレニアルピンク(淡いピンク色)」も代表的。ドーナツから浮輪まで同色商品が急増中だ。17年12月に開催されたイベント「東京アイスクリームランド」では、ピンクで彩られたアイスがテーマのフォトスポットが多数あった。かわいい写真撮りたさに3日間で7000人が来場した。
海外の影響は、意識の変化をももたらす。例えば、社会問題に関心の高い欧米のミレニアル世代の影響で、ジェンダーフリーが浸透の兆しを見せている。男子がコスメを使い、女子がメンズの服を着るといった風潮が拡大中。消費にも影響し始めていて、男性用ながら「ウーノ スキンセラムウォーター」(資生堂)は特に20代女性の人気が高いという。
SNSでつながると関係が途切れづらいため、今の若者は中学校、高校と多くの人間関係を現在進行形で持っている。このため定着したのが、単価が安く、1日に複数の友人と会えるカフェのはしご。高価なモノは買わないが、経験やコミュニケーションのためならお金を惜しまないのが若者の傾向だ。
(日経トレンディ3月号から再構成)
[日本経済新聞夕刊2018年2月10日付]
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