全く未解読の写本「ボイニッチ手稿」 AIが謎に挑戦

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/2/17
ナショナルジオグラフィック日本版

米イェール大学の貴重書室に保管された小さく素朴な本「ボイニッチ手稿」は、世界で最も謎の多い書物の一つだ(PHOTOGRAPH BY CESAR MANSO, AFP, GETTY)

長年にわたり暗号解読家たちを悩ませてきた「ボイニッチ手稿」。何語で書かれているかすら分からない約600年前の謎の本に、カナダの研究者2人がAI(人工知能)を使って挑戦し、解読方法を発見したと主張している。手稿は、母音を省略した「アルファグラム」の一種で、単語の8割以上がヘブライ語と考えられるという。

その論文が掲載されたのは、学術誌「Transactions of the Association of Computational Linguistics」。だが、手稿の内容はまだ謎に包まれており、他の研究者たちは懐疑的だ。

ボイニッチ手稿とは?

ボイニッチ手稿は、15世紀の中央ヨーロッパで書かれた本で、暗号化された文字列とされている。今のペーパーバックより少し大きく、材質はもろい上質皮紙(字を書くための動物の皮)だ。ページ数は246。折り込みの索引があったらしいが、ずっと以前に失われた。ページ番号が飛んでいる箇所があり、どこかの時点で綴じ直されたことを示す。したがって、現在のページ順は刊行時から変わっている可能性がある。

丸の多い優美な文字で書かれていた

書体は丸を多用した優美かつ独特なもので、25~30字が左から右へ書かれ、段落は短い。あちこちに詳細な絵が挿入され、城やドラゴンの絵もあれば、植物、惑星、裸の人物、天文学のシンボルの図解もある。いずれも、緑、茶色、黄色、青、赤のインクで彩色されている。特に好奇心をそそるのは、何人もの裸の女性が一連の緑色の液体に浸かっている挿画だ。

手稿は、1969年から現在まで米イェール大学のバイネキ稀覯(きこう)本・手稿図書館に収蔵されている。名称の由来は、ポーランド人の古書商ウィルフリッド・マイケル・ボイニッチだ。ボイニッチは1912年、イタリアでイエズス会の図書館からこの本を購入。その後、一般に呼びかけて翻訳できる人を探したが、残念ながら誰一人成功していない。

緑色の液体に女性が浸かっている

手稿の内容について、手掛かりはあるのか?

イラストに基づき、手稿は草本、天文、生物学、宇宙、薬学、処方という6つのセクションに分かれると研究者たちは考えている。魔術、あるいは科学の本かもしれない。

古い記録からは、手稿が錬金術師や皇帝たちの手を経てきたことが分かる。16世紀後半には、神聖ローマ皇帝が英国の占星術師から600ベネチア・ドゥカートで手稿を購入。皇帝はこれを、中世の托鉢修道会士で偉大な哲学者であるロジャー・ベーコンの作だと考えていた。後に、手稿はボヘミア人薬剤師の手に渡った。

最新の研究で何が分かったのか?

論文の著者らはボイニッチ手稿について、「暗号解読の課題のうち最も困難な部類」だと述べている。使われている秘密の暗号どころか、どの言語で書かれているのかも分からないからだ。おそらく、後者の方が大きな問題だろう。

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